1976年から1980年代に掛け、作品を読み漁っていた作家が居る。ユーモラスな作風のミステリーを著す赤川次郎氏が其の人で、当時発表されていた“長者番付”の作家部門では、断トツの1位に輝き続けていた。“元祖ライトノヴェル”といった作品群は実に読み易かったのだけれど、パターンが似通って来た事も在り、次第に読まなくなった。
自分が作品を読み漁っていた頃の彼は、すらっとしたイケメンというイメージだったのが、何年か前、新聞で目にした彼の近影は“ぶくぶくに太った親父”という感じだったので、とても同一人物とは思えなかった。RIZAPの“利用前”と”利用後”の様。
【赤川次郎氏(昔)】
【赤川次郎氏(今)】
先日、図書館で“黒字に白文字のタイトルが記されただけのシンプルな本”を目にした。分厚い本で、「何だろう?」と思ったら、赤川氏の小説「東京零年」だった。近年は「特定秘密保護法案」や「安全保障関連法案」等、権力の暴走に対して積極的に批判を繰り返している同氏。「東京零年」の帯に記された惹句には「暴走する権力に抗え。」と在り、興味を惹かれて、ウン十年振りに赤川作品を読む事に。
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脳出血で倒れ、介護施設に入所している永沢浩介(ながさわ こうすけ)が、TV番組に一瞬だけ映った男を見て発作を起こした。呼び出された娘の亜紀(あき)は、たどたどしく喋る父の口から衝撃の一言を聞く。「ゆあさ」、其れは昔殺された筈の男・湯浅道男(ゆあさ みちお)の事だった。
元検察官の父・生田目重治(なまため しげはる)が、湯浅の死に関与していた事を知った大学生の健司(けんじ)は真相を解明すべく、亜紀と共に動き出す。
時は遡り数年前、エリート検察官の重治、反権力ジャーナリストの浩介、其の補佐を務める湯浅。圧倒的な権力を武器に、時代から人を消した男と消された男が居た。
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読んでいて感じたのは“懐かしさ”。作品が作品なのでユーモラスさは無いけれど、昔読んでいた赤川作品の“香り”が漂っていたから。「刑事と泥棒」等、赤川作品には変わった設定のカップルが登場したりするのだが、今回の作品でも“敵対する人物の子供同士”が恋仲になって行くし、読み易い文章も相変わらずだ。
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「その通りです。―その点、あなたのお父さんたちは、実にうまくやった。今、この国の人間たちに、『幸福ですか?』と問えば、まず八割方の者は『幸福だ。』と答えるでしょう。今の自分に満足していれば幸福でいられる。今以上の自分があり得ることなど考えなければ。」。「でも、その結果、自分の命も、愛する人の命もおびやかされるのに・・・。」。「見たくないものには目をつぶるのですよ。見えなければ、それは存在しないのと同じだ。」。
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“自由を失われた近未来の国”が舞台となっているけれど、暴走する権力が、罪無き人をも「不都合な存在だから。」という理由だけで“抹殺”し、そういった事実を知り乍らも「自分には無関係。自分さえ良ければ、他人なんか知った事では無い。」と少なからずの国民が目を瞑る。」のは、悪い意味で“ロシア化”する何処かの国の“今”と重なったりも。
“警察国家の再来”に警鐘を鳴らす著者の思いには共感を覚えるものの、権力の暴走の描かれ方が如何せんステレオタイプだし、不自然に感じる設定も在ったりで、読む前の期待度からすれば「こんな感じかあ。」と。面白い内容では在るのだけれど・・・。
総合評価は、星3つとする。