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「飲めずに『残薬』、山積み 高齢者宅、年475億円分か」(4月8日、朝日新聞)
高齢者宅から薬が、大量に見付かる事例が目立っている。「残薬」と呼ばれ、多種類を処方された場合等、適切に服用出来ず、症状の悪化で更に薬が増える悪循環も在る。年400億円を超えるとの推計も在り、薬剤師が薬を整理し、医師に処方薬を減らす様求める試みが広がる。
大阪府忠岡町の女性(78歳)宅を訪れた薬剤師の井上龍介さん(39歳)は、台所のフックに掛かった10袋以上のレジ袋を見付けた。「一寸見せて。」。中は全部、薬だった。
胃薬や血圧を下げる薬、血糖値を下げる薬、睡眠薬。10年程前の日付けの袋に入った軟膏も在り、冷蔵庫にインスリンの注射薬が入れっ放しだった。錠剤は1千錠を超え、価格に換算すると14万円超に上った。
井上さんは昨夏、女性を担当するケアマネジャー・上麻紀さん(37歳)の相談を受けた。上さんによると、女性は糖尿病や狭心症等で3病院に通い、15種類の薬を処方されていた。適切に服用しなかったので、糖尿病は改善せず、医師が更に薬を増やし、残薬が増える悪循環に陥っていた。
「高齢で認知能力が落ちている上、3人の主治医が処方する薬が多く、自己管理が難しかったのだろう。」。井上さんは見る。
残薬は使用期限前で、保存状態が良ければ使える。井上さんはそうした薬を選び、曜日別の袋に薬を入れる「服薬カレンダー」に入れ、台所の壁に掛けた。約3ヶ月後、寝室から約25万円分の薬も見付かり、薬の種類を減らす為、主治医の1人に相談し、ヴィタミン剤の処方を止めて貰った。
在宅患者や医療関係者に薬の扱い方を教える一般社団法人「ライフハッピーウェル」(大阪府豊中市)の福井繁雄代表理事によると、1日3食分の薬を処方され乍ら、食事が1日1食で薬が溜まる高齢者や、複数の薬を処方され「何を、どう飲めば良いか判らない。」と90日分も残薬が在った糖尿病患者等の事例が、各地から報告されている。
日本薬剤師会は2007年、薬剤師がケアを続ける在宅患者812人の残薬を調査。患者の4割超に「飲み残し」や「飲み忘れ」が在り、1人当たり1ヶ月で3,220円分が服用されていなかった。金額ベースでは処方された薬全体の24%に当たり、厚労省が纏めた75歳以上の患者の薬剤費から推計すると、残薬の年総額は475億円になると言う。
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「75歳以上の患者に関し、其の残薬の年総額は475億円と推計される。」というが、こんなにも莫大な金額が無駄になっているというの驚き。膨らみ続ける医療費を削減する為にも、より良い解決策を皆で考えて行かないといけないだろう。
で、今回の記事とは無関係な話になるが、医師が処方する薬に関し、先達て読んだAERAに特集が組まれていた。自分もそうだったが、昨今の医療事情に詳しく無い人間からすると、「儲ける為、医師は必要以上に薬を処方している。」という不信感が在ったりする。確かにそういう現実は在った様だが、其れも20年程前迄だとか。
「医師は薬を出すと、国が定めた薬価を元に薬代を計算し、医療保険に請求する。薬の仕入れ価格は薬価よりも安いので儲け、所謂『薬価差益』が生じる。」という図式が在り、嘗ては病院の大きな収入源になっていた。然し、此れが「薬漬け」に繋がるという指摘が在り、不透明な薬価差益の実態に批判が集まった事から、1990年頃より「病院は診療、調剤は薬局。」という役割分担によって、医療の質を向上させ様という動きに。国は「医薬分業」を推進し、結果として、経営が別の薬局で調剤する「院外処方」が増え、今では凡そ7割を「院外」が占めていると言う。
又、薬価差益自体も薄くなっているそうだ。国は薬価基準を、概ね2年に1度改定するが、膨らみ続ける医療費を抑制する為、マイナス改定が殆ど。結果として、薬を多く出せば儲かる図式は崩れ、「金銭的なメリットから、過剰な処方をするインセンティヴは薄れている。」というのが現実らしい。
では、何故、過剰とも思える薬が処方されているのか?色々原因は在る様だが、患者サイドの問題も小さく無いと。自分の知り合い(高齢者)にも結構居るのだが、「○○病院の先生は、薬を余り出してくれないから良く無い。XX病院の先生は、一杯薬を出してくれるから良い。」と考える患者が少なく無く、医師の側が過剰に処方せざるを得ない現実も。
医療保険によって患者側の直接的な負担が少なくて済むので、「だったら、安く薬を一杯出して貰わないと損。」という思考は判らないでも無いけれど、こういう考え方を変えて行かないと、膨らみ続ける医療費で此の国は、二進も三進も行かなくなってしまう事だろう。