2015年2月27日、手術の3日前に、つまのフーさんは病院へ入院しました。
翌28日の朝に担当のA医師から手術の説明があるはずでしたが、病院へ着くと、その予定が早まっていました。
そして夜9時を回った頃、まだ手術衣のままのA医師が、急ぎ足で病棟へやって来ます。
それから小さな個室に通されて、聞いた最初の言葉は、思いがけないものでした。
「状況が、かなり厳しいです。手術をするかどうか、迷うところです。」
それを言うために術前面談が早まったのだと、ボク達はそこで知りました。
「術前の抗がん剤治療の結果と、間近のCTの内容、現在の痛みの強さなどから、
内容がかなり思わしくない可能性があります。
ステージⅢと判断していましたが、Ⅳということもあり得ます。
手術で開胸しても、目視で確認したら、取り切れないという判断になるかも知れない。
その場合は、そのまま閉じることになります。
もし開けて閉じるだけだとしたら、この開胸術は、肉体的な負担があまりにも大きい手術です。
手をつけないのであれば、開胸はしない方がいいです。
しかしながらもう一つ、
手術をしなかった場合は抗がん剤治療となりますが、○○さんの場合、
一度目の抗がん剤治療は効きましたが、二度目は効果が出ていない。
ということは、このがんには、抗がん剤が効かないという可能性があります。
そうなると、進行を止めることが難しくなります。
手術をするか、しないか、‥‥‥‥どうしましょうか?」
一度持ち帰りたいほど大きな決断を迫られたわけですが、そんな猶予はない状況でした。
がんは日に日に成長しているのですから、もし手術に賭けるのであれば、それは今決めるしかありません。
「先生は、どう思われますか?」
と聞くと、
「CTのデータ上ではとても大きく気になりますが、その他の画像上では、取れる可能性も窺えます。」
それからしばらく考え込むような間があって、
「見に行く価値はある‥‥‥、と、思います。」
と、静かにA医師は答えました。
フーさんとボクは、顔を見合わせました。
そうしながらまるでSF映画のように、テレパシーで語り合ったような気がします。
そして互いの意思を確認すると、ボクは、先生の目をしっかりと見つめて言いました。
「お願いします。」
フーさんは、
「どちらの結果でも、とにかく開けて、見ていただきたいと思います。」
と頭を下げました。
先生は、
「わかりました。」
と言うと、
今度は少し大きな声で、
「チャレンジしましょう。」
と言い、この日初めて笑顔を見せました。
「はい。どうぞよろしくお願い致します。」
ボクは深く頭を下げました。
見つめつづけなくてはならない光が、遠くて、
でも、必死でその光源を探しました。
その光は遠くて小さいけれど、決して幻ではない、
そのことには確信があったので、
絶対に目を反らさないぞ、
と心に誓った夜でした。
(2019年2月20日 記)