十二月の寒い公園で
ボクはリオンちゃんといっしょに
どろだんごを 作ってた
右の手も 左の手も
冷たくてイタかったけど、
リオンちゃんがたのしそうに
もにゃもにゃ
っとわらうから
ホントはちっともたのしくないけど
にこにこ
って がんばって
口をひっぱりわらうんだ
だって[がんばること]は
いいことだから
お母さんも昨日、
「いつもニコニコわらってなさいな。」
って言ってたから
だから、
[がんばってわらうこと]は
もっといいことなんだよ!
でも、どうしてだろう
リオンちゃんはすこしかなしそう
どうしてだろう なんでだろう
ボクはわからないから きいてみる
「どうして そんな顔するの。」
「カイくん、どろだんご作ってて ホントにたのしい?」
「どうして そんなこときくの。」
「カイくん、どろだんご作ってて あんまり たのしそうじゃなかったから。」
「え! どうして わかったの?」
「だってカイくん、がんばって
わらってたんだもん。」
でも 、どうしてだろう
リオンちゃんは どうして
わかったのかな
どうしてだろう なんでだろう
がんばることは いいこと なのに
わらっていることは いいこと なのに
がんばって わらっていることは
わるいこと なの?
ボクは あっ とおもいついて
きいてみる
「リオンちゃんも がんばって わらってた?」
すると リオンちゃんは
ムスッ と口をへの字にまげて
「もう カイくん なんて きらい。」
って言われちゃった
リオンちゃんは おこって せっかく
たくさん作った どろだんごを
右手のぐー で、
クシャ クシャ クシャ クシャッ
ボクのも ひとつ つぶされて、
ちょっと かなしく なったんだ
ちっとも たのしくなかった
どろだんご
だけど せっかく せっかく
せっかく なのに
せっかく たくさん 作ってたのに
せっかく たくさん 遊んでたのに
せっかく たくさん わらってくれた
のに
「もう 帰る。」
そういって リオンちゃんは
どろんこのまんま
おうちに かえっちゃった
ボクは もっっと かなしくなった
しんぞうが ぎゅうぅぅぅ って
しぼんでいくみたい
リオンちゃんの せなかが
みえなくなって
ようやく ボクは 泣く
「 そおおおおおおーんなに
泣かないでくれよぅぉーんッ!!!」
すっごく うるさい こえ
だれだろう まわりをみわたしても
だーれもいない
「ヘイヘイッ!! そっちじゃねーぜ
ベイビー しただしたした!」
した?
あぁ、下か
下をみると 一匹の ダンゴムシが
えらそうに ボクの 生きのこった
どろだんごの横で 立っていた
「おんなじ だんごなのに ボクの
どろだんごのほうが 大きいね。」
っていったら
「おいおいおいいい、ちっがーぅ
だんごは大きさじゃねぇ、
たましいだ。」
「でも、キミのほうが ちいさいよ。」
「からだは ちっこくても
たましいは でっかいんだよ!
それに《キミ》っていうな
オレの名前はエドワードだ。」
ボクは なんだか わらってしまった
すると エドワード はニシシッ と
たのしそうに
「そう、それだよッそれ!
その笑顔のほうが
キュートだぜオレてきに!」
とわらった
そこで ボクは ぴこーんときた
いまのは がんばらなくとも わらえた!
エドワードは ひざのてっぺんまで
ちょこちょこっと のぼり
ボクのおはなに ひとさしゆびを
つきたてた
「笑顔は人に元気を
わけてあげられるからなぁ!!!」
とっても 大きなこえで さけんだ
あわてて ボクは公園を みまわす
「ほかの人に 気づかれてもいいの?」
「いや、そいつは めちゃくちゃ
こまるけど…
まぁ、たまにはいいのさ
ダンゴムシだって
さけびたくなる日も あるのさ。」
「ねぇ 元気をあげられるって
ホント?」
「もちろんさ。 オレが うそついたことなんて一回でもあったか?」
「いま 出会ったばかりだし
そんなの しらないよ」
「一回もねーよ 安心しろ なにせオレは一番強いダンゴムシだからなッ。」
「そんなに すごいの?」
「ああ! 昨日はカエルを
二匹もたおしたんだ。」
「えー、その小ささで ムリだよ。
ウソくさー。」
「ウソじゃねーしッ。
あーあ、せっかく あの女の子と
仲なおりできる方法を
おしえてあげよーと おもったのにな あーあ、
ざんねん むねん また らいねん」
エドワードがボクのひざを
おりてしまう
「ホントにリオンちゃんと
仲なおりできるの?」
「オレの話を しんじてくれればね。」
「わかった、しんじるよ。
…ちょっとだけ。」
「ちょっとだけかよ!
でもまぁ、ありがとな。
ホントに しんじてくれたのは
アンタがはじめてだからさ…」
エドワードが おりるのを やめて
ボクに むきなおる
「そういや名前、なんて言うんだ?」
「ボクの名前は カイトだよ。」
「ふぅーん、カイトかぁ。
人間の名前なんて よくしらないけど
いい名前なんじゃないか?」
うでくみをするエドワードは
やっぱりちっちゃくて
みてて おもしろかった
「おいっ なんだよ その顔は! こっちは ほめてやってるのによぉー。」
「うん、ありがと。
ボクも名前 ほめられたのは
エドワードがはじめてだよ」
「はんっ! オレの名前のほうが
カッコイイけどな。なんたって
オレは一番強いダンゴムシ、
エドワード様だからなッ!!」
うでを ぴんと
空につきだすエドワードは
やっぱり みてて
おもしろくて
フフフと
またわらってしまった
「それじゃあ オレに ついてこい。」
おやゆびを ぐっと立てるエドワード
「どこにいくの?」
「いいから いいから、
カイトは オレについてくればいい。」
そう言って エドワードは
ブランコの横の 桜の木へと 歩いていく
でも ボクなら
三歩か 四歩で いけちゃう
エドワードは まだ 半分も 歩けてない
《一番強い》なんていっても
エドワードは やっぱり
ダンゴムシなんだ
歩くことが なんだか
とっても たいへんそう
「はこんで あげようか?
そのほうが はやいし、らくだよ。」
「カイト、オレは がんばって 歩きたいんだ。 オレのがんばりを ジャマしないでくれ。」
エドワードは きっぱりと 言う
でも、
せっかく ボクが 親切で
言ってあげたのに
ぜったい ボクが はこんだ ほうが
はやいのに
そんなに おこらなくたって
いいじゃないか
すると エドワードは
「なぁ、カイト。
オレは一番強いダンゴムシだが
歩くのはカイトよりも おそい。
でもオレはがんばって あの桜の木まで自分で行きたいんだ。だから… そこで見守っていてくれないか。」
すこし てれくさそうに言って
ボクを見上げた
「わかったよ、エドワード。」
エドワードは ゆっくり、
でもちゃんと
前に進んでいった
そしてついに やっと桜の木まで
たどりついた
エドワードは がんばったんだ!
自分の力で 歩ききったんだ!
「やったね、エドワード!!」
グッと 親指をたててみせると
「サンキュー、カイト。」
エドワードも グッと
両手の親指を
たててみせてきた
ボクらは アハハハハって
いっしょに わらった
そのとき とっても
あったかい きもちに
なったんだ
どうしてだろう
エドワードと お話しすると
12月なのに
こんなにも あったかい
どうしてなんだろう?
むこうのすべり台から 黒いかげが
ひぃらり ひらり
ひらひら ひらり
やってくる
「まずいぞ、ナンシーがきた!
カイト、オレをポケットの中に
かくしてくれ。」
エドワードが
言いおわらないうちに
黒いかげが
ボクらの前に あらわれる
「あららのら、
これはこれは おひさしぶりね。」
あらわれたのは 一匹の
まっ黒い ちょうちょさん だった
「うるさいっ あっちいけ
イジワルちょうちょ。」
エドワードは どなって
まるくなってしまった
ボクは どうしていいか
わからなくなって
エドワードのほうをみて
ちょうちょさんのほうをみて
また エドワードをみて
ちょうちょさんをみて
エドワードをみて
ちょうちょさんをみる前に
もう一回 エドワードのほうをみてから
ちょうちょさんをみて…
オロオロして
二匹をかわりばんこに みる
すると ちょうちょさんが
話しかけてきた
「こんにちは アナタ お名前は?」
「カイトです。ちょうちょさんは?」
「ナンシーよ。
よろしくねカイトくん。」
ナンシーさんは ほんのり
オトナっぽくて
星みたいな 点点のある
きれいな 羽をもっていた
「ところで、このウソつきダンゴムシとは いつから いっしょなの?」
「あ、ついさっきからだけど。
…ウソつきって どういうこと?」
「この子ね、自分が 地味だからって
いつも 強がってばかりいるの。
そのくせ ちょっとでもイヤなことがあったら 今みたいにすぐ まるくなっちゃうの、あきれちゃうよねぇ。」
そう言って ナンシーさんは
ケラケラ 笑顔で わらった
きらいな 笑顔だった
きらいな わらい
ボクも まるくなって
しまいたかった
エドワードは じっと
うごかないままだ
ウソつきは たしかに
よくないとおもう
けど……ッ
「ボクの友だちを いじわるに
わらわないでよ」
ナンシーさんは おどろいたように
目を まるくして ききかえす
「その子 ウソつきなのよ?」
「うん、でも いいんだっ
ボクがしんじているから!」
「でも ついさっき
会ったばかりなんでしょう?」
「かんけいないよ、がんばらなくても いっしょに わらいあって
あったかい きもちになれば
もう その日から友だちなんだッ!」
「そうだ!
カイトとオレは友だちなんだ!」
いつのまにか エドワードが
ボクのとなりに 立っていた
なみだと はな水で
顔を ぐちゃぐちゃにして
でも、それでも、
エラそうに
うでくみなんかして
ぜんぜん かっこよくなんて
なかったけど、
きっぱりと さけんだんだ
ボクと 友だちなんだ って
「あっちいけ オマエなんか
オレらの友だちじゃ ないやいッ!」
「あっそ、じゃあね。
弱虫泣き虫ダンゴムシさん」
ぷい っと ナンシーさんは
遠くの空へ いってしまった
「友だちって
言ってくれて うれしいよ。」
落ち葉で なみだを ぬぐいながら
エドワードは またわらった
今度は やさしい 笑顔 だった
なんだか ボクまで
てれくさくなっちゃって
「ボクも うれしかったよ」
なんて はずかしい本音も
かんたんに 言えちゃった
「そうだ カイト、
友だちになってくれた
おれいに いいものをあげるよ!
ちょっとまってて。」
エドワードも なにやら
ピコーンと ひらめいたようで
ボクが「べつに いらないよ?」って
言っても きかず
桜の木の あなの中へ
大急ぎで 入っていった
ブランコの後ろにある 時計をみると
もう 5時半だ
早く帰らないと、
また お母さんに しかられちゃう
どうしよう、
でも、エドワードが…
そのとき、
「おーぅい カイトォ
こっちだこっち! うえだようえうえ。」
上、をみると
ちょうど ボクの
おでこぐらいの 高さに
エドワードが ひょこりと
桜の木から 顔をのぞかせていた
「これを もらってほしい。」
そう言って エドワードが
とりだしたのは
まだ さいているはずのない
桜の花だった
「エドワード、
どうして これをもっているの?」
「へへへっ ナイショだよ。
このあなを のぞいてごらん。」
エドワードは 体をひっこめ
ボクは めぇいっぱい 背のびして
中をのぞく
すると そこには
あふれそうなほど 桜の花が
たくさん つまっていた
どこも かしこも
うすモモ色で いっぱいだ
「こんなに たくさん
どーして あるの?」
「じつはね 春になったら
かぞくみーんなで
この木に花を かざるんだ。」
「そうだったんだ。しらなかったよ」
「毎年 こっそり やるからな、
ホントは春にならないと
外に出しちゃいけないんだけど。
ひとつだけ、
とくべつにカイトに あげるよ!」
「ホントに そんな
大切なもの もらっていいの?」
「あぁ、ぜひ もらってくれ。
そしてその花を あの女の子に
わたしてあげな、
きっと 仲なおりできるはずさ。」
エドワードは ニコッとわらって
「それじゃ、そろそろ
オレは もっと桜の花を
作らなくちゃいけないし、
ここで帰るよ。
……じゃあな。」
右手をあげで あなを とじようとする
どうしよう、
エドワードが いってしまう
「まって エドワード!!」
エドワードの右手が とまる、
今だっ 言うなら 今しかない!
「ありがとぉーねー エドワード。」
すると エドワードも両手を
力いっぱいふって
はな水をすすりながら さけぶ
「こっちこそ、
ありがどぅなぁ カイトォ!」
「泣かないでよ おたがいさまだって」
じゃあ、またね。
ボクらは もう1回だけ
わらいあって おわかれした
ラン
ラン
ラン
ラララン
ラン、
帰り道は
夕日が キラキラで
桜の花を
そっと にぎった
リオンちゃんの おうちは
ボクの おとなりさんだ
きっと リオンちゃん
まだ おこってる だろうなぁ…
せっかく おうちの前まで きたのに
せっかく エドワードに
お花を もらったのに
せっかくだから
がんばってみよう!
ピィーーーーーーーーーーーン
ポォーーーーーーーーン
チャイムを ならす
ガチャリと ドアがあいて
リオンちゃんのお母さんが 出てきた
「まぁまぁ、
カイくんじゃないの どうしたの?」
「リオンちゃんを
よんでくれませんか?」
「もしかして 今日、
ケンカでもしちゃった?
だとしたら ごめんなさいね。
あの子 すこしおこりっぽいから
……とりあえず よんでくるわね。」
そう言うと
リオンちゃんのお母さんは
おうちの中に もどっていった
ドアのむこうので「リオンー、 カイトくんきてるわよぉ。」と
かすかに きこえる
しばらくして
リオンちゃんが ドアをあけた
やっぱり ほっぺを
ぷっくり ふくらまし、
ボクを いかくしている
リオンちゃんと
目があって
体ぜんぶが
カチコチに
かたまっちゃった
でも、
このまま きらわれたまんまで
いいのか、ボク?
このまま いじわるカイトのままで
いいのか、ボク?
それは イヤだよ…
……あやまろう、それが さいしょだっ
「リオンちゃん。」
「なによ。」
また 口をへの字にしてる
がんばれボク!
「あのね さっきは ごめん。
どろだんご遊びは、
ホントは つまんなかったけど
リオンちゃんと遊べなくなるのは
もぉっっっと つまんないんだ。
だから これあげるから
ボクとまた遊んでほしいんだ。」
しんぞうは
どっくんどっくん
してたけど、
どうにか 左手のぐーを
つきだした
リオンちゃんは ふしぎそうに
すべすべの 右手を
さしだした
そっと 手と手が かさなって
右手に さいたのは 桜の花
「わぁぁあーっ すっごい!
カイくん、マジシャンみたーい!!」
リオンちゃんは
もにゃもにゃ
って わらった
ボクは この笑顔が
一番すきだった
「また、遊ぼーね、カイくん。」
エドワード、キミはけっして
ウソつきなんかじゃないよ
だって
ホントに ホンモノの ウソつきなら
ボクは この子と
ゆびきりげんまん なんて
してないだろう?
《おわり》