面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ヨコハマメリー」

2006年06月07日 | 映画
まるで歌舞伎役者のように顔を真っ白に塗り、貴婦人のようなドレスに身を包み、戦後まもなく以来50年間、ヨコハマの街角に立ち続けた娼婦“メリーさん”。
その存在はヨコハマの風景の一つとなっていたが、1995年、忽然と姿を消した。
存在そのものが都市伝説のような“メリーさん”の真の姿を、彼女を見守りつづけたヨコハマの人々を通して追いかけたドキュメンタリー作品。

50年間、現役の街娼として生きてきた“メリーさん”。
その人生には若き日のアメリカ将校との悲恋が隠されていた。
彼女を置いて帰国してしまった将校が、いつか帰ってくると信じて、50年間街角に立ち続ける人生なんて想像できない。
そんなドラマにも描かれないような話を体現していることも、彼女自身を伝説とするに十分な要素である。

また、そんな彼女を支えたシャンソン歌手・永登元次郎との心の交流も胸を打つ。
彼を筆頭に、“メリーさん”を見守り続けた人々の思い出話にも心が温まる。
そんな周辺情報によって、住む家も無く、ビルの片隅でパイプイスをベッド代わりに夜を過ごす彼女の孤独な姿に心をかきむしられるような寂しさを感じるのだが、そんな常識的な「同情心」は彼女にとっては余計なものでしかないことが、様々なエピソードから浮き彫りにされる。

彼女のこの「強さ」はどこから来るのだろう。
人間、マイナスの要素が無ければ強くなれないと言うが、将校との悲恋に立ち向かうなかで築かれたものだろうか。
ヨコハマから姿を消した彼女は、晩年を田舎の老人ホームで過ごしていた。
そしてそこには本名で生きる素顔の彼女がいた。
“メリーさん”の仮面を脱いだその姿もまた、凛として強く、そして清々しい。
自分は、どこまであの強さに迫れるだろう…。

それにしてもヨコハマという街は奥が深い。
その昔、外国人居留区の入口に関所があり、居留区が“関内”であり、その外側で日本人が住む地域が“関外”だったとの歴史的な知識も無かったので、自分の中でのヨコハマは実は“関内”であることを初めて知った。
以前中華街を訪れたとき、神戸のそれとは規模も奥行きも違うことを実感したが、本作によってヨコハマの知られざる一面に触れることができる。

ヨコハマメリー
※画面右側の絵をクリックすると詳細情報が出ます
2005年/日本  監督:中村高寛
出演:永登元次郎、五大路子、杉山義法