一昨日(1/10)のTBS・サンデーモーニングでジャーナリストの青木理さんが、トランプ支持派の連邦議会占拠に関して、次のようなことを述べていた。
【 今回思ったのは、民主主義って脆いんだなということですよね。ちょっとゆがんだ為政者がああいう形であおると、あっという間にこうなっちゃう。ヒトラーだってある意味民主主義から生まれているわけですからね。だから全く他人事じゃない。安田さんがちょっと仰いましたけれども、日本だって本来権力をチェックすべきメディアを(に)圧力賭けたり、(それによってメディアが)萎縮したりということが起きてるわけですし、本来独立すべきいろんな役職、内閣の法制局の長官とか検察庁のトップとかねというところの人事、学術会議というところまで手を突っ込まれている。という本来権力のやるべきじゃないことまでやられて抵抗できないと、民主主義というのはあっという間に崩壊していきかねないんだということを、民主主義を標榜する国に生きる僕らは真剣に考えないといけないですね。】
「民主主義が脆い」のはそれが知性による産物で、人間本来の性分・本能に沿っていないからだろう。自分にとって都合の良い大声に雷同しようとするのが本性にあっているのだろう。トランプの発信した嘘や根拠のない情報は2万回に及ぶとも言われている。大統領選に関する訴訟も確かな根拠に基づくものは一つとして認められていない。ことごとく却下されている。確かな根拠に基づかない訴訟を乱発するような男は、本来誰からも相手にされないのが普通だと思うのだが、トランプは大統領選挙で7千万もの票を得た。おそろしい現実である。以下は信濃毎日新聞からの引用である。
【ホワイトハウス前で開いた集会でトランプ氏は「我々は大統領選で地滑り的勝利を収めた」と根拠なく主張した。「弱気では米国を取り戻せない。強さを示さなくては」とも訴え、支持者に「大通りを行進しよう」と呼びかけた。】
「我々は大統領選で地滑り的勝利を収めた」という発言は、すでに精神錯乱状態のなせるわざではないかと疑いたくなるような発言だと思うのだが、熱狂したトランプの支持者には不自然には聞こえないらしい。そういう人々にとっては「大通りを行進」して議事堂に突き当たったら、窓ガラスを破って侵入することも当然のことなのだろう。彼らは「盗まれた選挙」を取り戻すためには暴力的な示威行動にも正当性があると考える。知性があれば明らかな犯罪でしかない行為を情動が許可してしまうのである。
前回記事でも述べたが、.いわゆるプア・ホワイトと称される人々がトランプを支持している。トランプの「アメリカの労働者は不法移民に職を奪われている。」という言葉が そういう人々の共感を呼ぶのである。彼らにとって「不法移民」とは非白人のことである。白人である自分の権利が非白人によって不当に侵害されているという思いがあるのだろう。事情は第2次世界大戦前のドイツによく似ている。ヒトラーは不況にあえぐドイツ国民に対し、アーリア人の栄光を情熱的に訴えた。トランプもヒトラーもそれぞれ「不法移民」と「ユダヤ人」という差別目標を定めることによって、暗に自分達の支持層に無根拠な人種的優越性を与えたのである。常に他者より優位に立ちたい、それが人間の本能なのだろう。それで人々はトランプの威勢の良くて自分に都合の良い言葉に感応した。
民主主義というのは、自分を含め多くの人々が弱者であるという自覚によって初めて成り立つ思想である。弱者であるから広範な連帯が必要である。連帯するためには他者の利益を守らなければならない。他者はもう一人の自分だからである。自分が差別されないためには他者が差別されてはならない。他者の利益を守ることは自分の利益を守られるための唯一の根拠である。そのような知的理解がなければ民主主義は成り立たない。そういう意味で民主主義は全体主義よりも弱い、トランプやヒトラーのように直接的に情動に働きかけるものがないからである。
だからこそ私たちはよく考えねばならない。反知性的な指導者の声に惑わされてはならない。人々は連帯しなくてはならない。人々は差別してはならない。連帯と平等がなければ自分が守られる根拠もなくなってしまうのである。民主主義が人類にとって最善のものかどうかは分からないが、少なくとも現在の私達には他に選択肢はないのだから。