お盆が過ぎ勤め帰りの途中の道角にトンボの飛ぶ姿が多くみられるようになった。
私は先日の15日の夜に行われた、夏祭り最後の催し町内盆踊り大会のお囃子を
遠くに想い出し最近の奇妙な出来事を振り返っていた。
娘の紗江がスイカ割り大会の時、啓太兄ちゃんに良く似た声が
聞こえたと言い息子の啓太は自分もお父ちゃんに似ていた声が聞こえたよと
二人は興奮しながら私に言った。
最近、啓太の声が主人の声にそっくりなのは分かっていた。
これが小説なら、主人の魂の声が子供達にだけ聞こえたと言う感動物語に
なるのかも知れないけれど、あれ以来子供達には何の声も聞こえては来ないし
主人が海外の出張先で行方不明になったのは事実だが紛争に巻き込まれたのは
私の作った子供達への嘘だった。
主人は出張先で自分の会社の倒産を知るとそのまま姿を消した。
主人の箪笥の引き出しからは彼の愛用であった扇子6本組みが無くなっていた。
主人の名前は啓一、彼の夢は歌って踊れる演歌歌手だった。
だから歌の合間に舞う時の扇は彼の分身でもあり宝だった・・・・・・・・。
そして無くなっていたのは、他にもあった。
啓一の馴染みの割烹小料理屋「ふれんど」と言うセンスのかけらも無い
名前の店に勤めていたアケミの姿も同じ頃無くなっていた・・・・。
夏も終わる
このまま、この町で親子3人暮らして行くしかないのだろうか?
でも不思議な町だ、九州のこの町は
地面からの陽射しの照り返し予防にシャンプーハットを首に巻き
まるでエリマキトカゲみたいに歩いている姿が普通なのだから・・・・・・・・。
そう言えば、父に良く似たもらい泣きの男性は、商店会の世話人さんだった。
この間、道端でバッタリあって「あぁ!!あの時の!スイカ割り!!」
お互いが同じ事を叫んだので、二人同時に笑いだした。
「実は、夏祭りの世話人で打ち上げば、するとばってん、よかなら子供さんたち
も一緒に遊びに来てくれんですか?」
商店会の世話人さんの名は川崎さんだった。
川崎さんのお誘いは今夜18日の7時から町内の飲食店だった。
まだ 何かが終わっていないと思いたい自分がいる
私はシャンプーハットを首から外し出かける支度を始めた・・・・・。