淋しくて隠れ家日記

前向きに生きたい!!

遠く聞こえる祭りの音 その5

2011-08-22 10:44:52 | すらごと日記

少し遅れて、私は子供達と一緒に打ち上げ会場の店に入った。

宴席にいた人たちが全員で拍手をして私達を出迎えてくれた。

少し驚いた私は、何だか場違いな気がして少し来た事を後悔した。

でも子供たちは喜んでいたようで、次から次と料理を持って来てくれる

見知らぬおじさんおばさん達と、すっかり打ち解けていた。

その中に幼稚園児の帽子を被っていた女性とは特に仲良くなったようだった。

何で園児の帽子を?と誰も訊ねない雰囲気が、この会場にはあった。

私も明日から園児帽を被ったほうがいいのかなぁと思った。

 

「さぁ皆さんに紹介するから、こっちに来んね」と、お酒で顔を真っ赤にした

商店会会長の川崎さんが笑いながら私を手招きした。

覚悟はしていたけど、やっぱり自己紹介とか挨拶は苦手だった。

簡単に名前と住んでいる所ぐらいで済まそうと私は飲みかけの焼酎と

ビールを飲み干すと食べかけのダルムを喉の奥に押し込みその場に立った。

 

「え~~先日の歩行者天国スイカ割り大会で見事に兄妹でスイカを割られた

ご家族を本日は住民の皆様がたの代表と言う事でお出で頂いています。

では一言ご挨拶お願いします。」

 

「新田町に住んでいる大竹と言います。先日はありがとうございました。

そして、今夜は子供達までお招き頂きありがとうございました。

どうぞ、これからもよろしくお願いします。」

 

それだけ言って座ろうとしたら、誰かが訊いた「名前は何て言うとね?」

「あっ すいません私の名前は信じる子と書いて信子と言います。

子供は息子が啓太と言って小学5年生です、娘の名は紗江で小学3年生になります。」

言い終えた後、何故か一瞬その場が静かになったような気がした。
私に名前を訊いた男性が更に言った。

「あんた啓一の嫁さんじゃろ?」

 


遠く聞こえる祭りの音 その4

2011-08-18 15:37:14 | すらごと日記

お盆が過ぎ勤め帰りの途中の道角にトンボの飛ぶ姿が多くみられるようになった。

私は先日の15日の夜に行われた、夏祭り最後の催し町内盆踊り大会のお囃子を

遠くに想い出し最近の奇妙な出来事を振り返っていた。

 

娘の紗江がスイカ割り大会の時、啓太兄ちゃんに良く似た声が

聞こえたと言い息子の啓太は自分もお父ちゃんに似ていた声が聞こえたよと

二人は興奮しながら私に言った。

最近、啓太の声が主人の声にそっくりなのは分かっていた。

これが小説なら、主人の魂の声が子供達にだけ聞こえたと言う感動物語に

なるのかも知れないけれど、あれ以来子供達には何の声も聞こえては来ないし

主人が海外の出張先で行方不明になったのは事実だが紛争に巻き込まれたのは

私の作った子供達への嘘だった。

 

主人は出張先で自分の会社の倒産を知るとそのまま姿を消した。

主人の箪笥の引き出しからは彼の愛用であった扇子6本組みが無くなっていた。

 

主人の名前は啓一、彼の夢は歌って踊れる演歌歌手だった。

だから歌の合間に舞う時の扇は彼の分身でもあり宝だった・・・・・・・・。

そして無くなっていたのは、他にもあった。

啓一の馴染みの割烹小料理屋「ふれんど」と言うセンスのかけらも無い

名前の店に勤めていたアケミの姿も同じ頃無くなっていた・・・・。

 

夏も終わる

このまま、この町で親子3人暮らして行くしかないのだろうか?

でも不思議な町だ、九州のこの町は

地面からの陽射しの照り返し予防にシャンプーハットを首に巻き

まるでエリマキトカゲみたいに歩いている姿が普通なのだから・・・・・・・・。

 

そう言えば、父に良く似たもらい泣きの男性は、商店会の世話人さんだった。

この間、道端でバッタリあって「あぁ!!あの時の!スイカ割り!!」

お互いが同じ事を叫んだので、二人同時に笑いだした。

「実は、夏祭りの世話人で打ち上げば、するとばってん、よかなら子供さんたち

も一緒に遊びに来てくれんですか?」

商店会の世話人さんの名は川崎さんだった。

川崎さんのお誘いは今夜18日の7時から町内の飲食店だった。

 

まだ 何かが終わっていないと思いたい自分がいる

 

私はシャンプーハットを首から外し出かける支度を始めた・・・・・。


遠く聞こえる祭りの音 その3

2011-08-05 07:39:09 | すらごと日記

祭りの翌朝 母親は惣菜加工のパートに出かけ
子供たちは夏休みの宿題をしていた。

「兄ちゃん、あたしねスイカ割りの時ね、何か大きか男の人の声が聞こえてきたとよ。」
「お前もか・・・・オイも母ちゃんの声よりも、そん男の人の振りかぶれの声で割れたとばい。」

九州に越して5年になる兄妹は今では普通に九州弁で喋っていた。
現在、兄は小学5年生、妹は小学3年生
両親と4人で過ごした大阪の景色と共に幼い記憶は成長と一緒に
忘れられようとしていたのだが・・・・。

「ほんでもな、兄ちゃんはあの声、昔、聞いた事ある気がするねん
ばってん、この事、オカンに言うたらアカンで」

「うん分かったわぁ、お母ちゃん練習の時、ほんま一生懸命やったもんなぁ
自分の声で割れたと思うてるもんな、ばってん兄ちゃん、不思議かとね
ほんでな、うち、その男の人の声聞いたら何か胸が熱くなってきたとよ
ほんで涙が出てきそうになったとよ不思議やなぁ・・やっぱお母ちゃんには黙っとこな・・・・。」
と時々関西弁も出てくるのだった。

「それにしても今朝のスイカの皮の漬物、めっちゃ美味かったなぁ
今まで捨てとったのに何でオカンは漬物にしたんかなぁ?」

「ええんとちゃう、もったいないから、うちはええ事やと思うし
それに、うちはあんまり覚えておらんけどお父ちゃんの大好物やったし・・・・」

「ほやなぁお父ちゃん、いっつも言うとったなぁスイカは実よりも皮が一番たい!!」

「なぁ兄ちゃん お父ちゃん、ほんまに生きてるやろか?」

「何ば言いよっとか!!お父ちゃんは今、悪か人に捕まって闘いよるとばい!!
お父ちゃんは強いとばい絶対帰って来るとばい!!
帰ってきたらお父ちゃんとスイカ割りばするとばい!!
そんで、お父ちゃんからオイは、よし!そこで振りかぶれ!と言うてもらうとばい!!」
いつしか兄は妹に泣きながら叫んでいた。

すると妹が驚いたような顔で言った。


「兄ちゃん・・・・今、スイカ割りの時の男の人とそっくりの声ばしとった・・・・・。」

 

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すんません関西の言葉、ムチャクチャです。
もし読まれている人がいたら九州人のイメージの関西弁と思うて下さい。
ばってん何でこの話しば書き始めたとか自分でもよう分からんとですが
きっかけは、スイカの皮には間違いないとばってん・・・・。


遠く聞こえる祭りの音 その2

2011-08-03 15:27:47 | すらごと日記

何だろうか?
大阪育ちの私は思わず知らない男性に「嬉しかぁ!」と
つい九州弁でしゃべってしまった・・・・・。

その夜、今年最初のスイカを子供たちと半分だけ食べ終えた後
私は何故か皮を捨てる事が出来なかった。

私と子供二人を残し出張先の海外の紛争に巻き込まれ
消息を絶ってしまった主人の実家は九州のこの町だった。
その主人の実家の近くに越して来て今年で5度目の夏祭り・・・。

子供を、ようやく寝かせ終えた時、網戸の外から声が聞こえてきた。

私が皮を捨てると主人はいつも言っていた
「何で捨てるとね?漬物にしたら美味しかとよ。」
主人の大きなあの声が・・・・・。

私は悔しくて悲しくて力まかせにスイカの皮を切り始めた
まな板を叩く音だけが静かな台所に大きく響き渡った。

皮に塩をふりかけ重石をして冷蔵庫の扉を開けると
娘が割ったスイカが冷蔵庫を占領していた。

そう言えばスイカ割り大会で私に声をかけた男性は
私の嬉しくて流した涙でもらい泣きしていた・・・・・。
多分いい人なんだろう・・・
もし今度逢う事があったらゃんと挨拶ぐらいはしよう。

でも、あの男性の涙はどこかで見たような気がする・・・・

その時、祭りの終わりを告げる打ち上げ花火が遠くに聞こえてきた。
少し風が吹いてきた。
カレンダーが少しめくれた。

明日から8月か・・・・
私の両親は、この世にはいない
だからお盆も兄夫婦の住む実家には自然と足が遠のいていた・・・・・・。

 

思い出した あの男性の涙を

姿は違うけど あの目は確かに父だった・・・・・・・・・・・・・・・・・。
祭りの夜、迷子になった私を見つけて抱き上げながら泣いていた
あの夜の父だった。

涙が 溢れてきた
花火の音はもう消えていた。

 



 

 


遠く聞こえる祭の音

2011-08-02 13:22:27 | すらごと日記

31日の日曜日

町内の歩行者天国があったとです。
スイカ割り大会ばしたとです。

順番を待つ小学生のお兄ちゃんと妹の二人に、母親は特訓していたとです。
前、後に半歩・・・・言われるままに兄妹は目をつぶり練習していたとです。

母親とオイは目が合ったです。
「がんばって下さい」と自然と口から出たとです。

本番は兄ちゃんからやったとです。
見事にスイカに当たったとです。
次の妹も割ってしもうたとです。

母親の喜びは大変なものでした。
「今年の初スイカ!!」

母親の目から涙が出ていたとです。
きっといい家族なんだろうと思ったとです。

再度、母親と目が合って「良かったですね。」と言ったとです。
「重たいから大変ばってん嬉しかぁ!!」
涙は笑い過ぎの涙でした。

夏祭りの夜、母子三人とスイカが二つ
家路へと急いで行ったとです・・・・・。