羽生選手の2015年~シーズンの初戦だった、オータム・クラシック・インターナショナルが先週末終了しました。
先にフリーを観たので、次はさかのぼって、ショートである、「バラード第一番」を観てみます。
ライブストリーミングによる、 羽生選手の演技の、「バラード第一番」公式動画はこちら。↓
http://www.dailymotion.com/video/x39ox3v_yuzuru-hanyu-jpn-short-program_sport
テレビ朝日系列のニュース動画はこちら (上の動画とカメラ角度の違う「演技丸ごと」が入っています)→ http://www.dailymotion.com/video/x39p4m4_2015-10-15-%E9%80%9F%E5%A0%B1-%E4%BB%8A%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B3%E5%88%9D%E6%88%A6-ac-sp%EF%BE%86%EF%BD%AD%EF%BD%B0%EF%BD%BD%E2%91%A0_sport
NHK仙台でのニュース → http://www.dailymotion.com/video/x39qwwi
こちらも衣装に変更があり、両脇と両袖、腰の部分に金色が入り、明るさとほのかな輝きが増しました。
青も水色に近い色になり、遠目でも非常にキラキラして見え、パッと見はとても素敵でした。
羽生選手、「金色」に徹底的にこだわっているように見えますね!
色としてはとても似合っていますし、手を挙げた時に、両袖の下(裏側)と、脇に金が見えたのは、私は好きでした。脇の金は、キャメルスピンの時はキラキラとキレイでしたね。
あのデザインがベストかどうかはわかりませんけど、いつも衣装のデザインの変更には、感心させられます。
ただ、今回はちょっと両脇の金が、おなか周りが横に広がって見える原因になってしまっていたような…
と思っていたら、この衣装は色違い(水色なし・白と金色のみ)で、キシリトール・ホワイトの
キャンペーンでもらえる「クリアファイル」の衣装として使われていました!
スタート地点についた羽生選手が意外なほど緊張しているように見えて少し驚きました。
公式練習を観ていると、羽生選手は後半にくる4回転を、本当は「 4回転トーループ+ 3回転トーループ」のコンビネーションにしようとしていたのではないかとも思われました。(公式練習では、跳んでいましたし、バッチリ決まっていましたので。)
フリーで入れるのか、ショートで入れるつもりだったのか… ジャンプの前後の動きを観ている限りでは、ショートの後半にこのコンビネーションを入れるつもりで練習していたように見えました。
ただ、公式曲かけ練習の時と、6分間練習の時は、4回転トーループ単独になっていました。→ http://www.dailymotion.com/video/x39nqqq_autumn-classic-yuzuru-20151015-%E5%85%AC%E5%BC%8F%E7%B7%B4%E7%BF%92%E3%83%90%E3%83%A9%EF%BC%91_sport
羽生選手は、シーズンの最後までには、ショートの後半に4回転+3回転のコンビネーションを入れたいのかも?とも思いました。
昨シーズン、怪我によりできなくなった「当初の予定だった構成」に戻したため、曲は同じでも、世界選手権や国別対抗戦の時の演技とはかなり変化した印象でした。
前半は、余裕もあって、とても美しかったですね。
特に、イーグルで挟んだトリプル・アクセルから、シットスピンが終わり、後半に入る直前までは、とても素敵でした。
あの部分が一番、羽生選手が音楽を心から聴けて楽しめているような印象があります。
後半は、ジャンプの着氷ミスのせいで調子が狂ったのもあったかもしれませんが、シーズン序盤だから、まだあまり滑り込めていない印象と、気持ちの上で乗り切れていない印象がありました。
前半に、「イーグルで前後を挟んだ、難易度の高い トリプル・アクセル(3回転半)」
後半に、「4回転トーループ 」
最後に、「3回転ルッツ + 3回転トーループ」
という構成に戻して、さらにジャンプの入り方の難易度をさらに上げ、総合的にも難易度を格段に上げて挑戦してきました。
後半の4回転トーループは、今までと違って入り方の難易度をさらに上げてありました。
ジャンプは一般的に、助走が短かったり、なかったりするほど、より難しくなります。
陸上の「走り高跳び」と「走り幅跳び」に回転を加えたものがフィギュアスケートでの、「ジャンプ」だとしたら、羽生選手は、高さもある「幅跳び型」のジャンプと言われます。
走り高跳びも、走り幅跳びも、助走が重要なポイントで、助走なしで跳べと言われたら、高さも幅も出ずに、記録が大幅ダウンするのが当たり前なのは、誰にでもわかるかと思います。
ところが、羽生選手のジャンプは、ほとんどがこの「助走をなしにしたり、短くしたり、助走スピードが落ちる」ようなことをわざわざやってジャンプを跳ぶことに挑戦し、難易度を上げています。
ジャンプの天才と呼ばれている羽生選手は、普通の跳び方で跳んでも、もはや自分で満足できないのか、自分への挑戦として、わざわざ困難を選んでいるようです。
でも、その難易度の高い跳び方で、公式練習では普通に成功しているのですから、無謀なものを組み込んでいるわけではなく、できるからこそ、やっているのだろうと思います。
「後半に」4回転ーーーーこの壁をジャパン・オープンで先に乗り越えた、宇野選手の言葉。
「タイミングさえ合えば、体力がなくても、前半・後半に関係なく跳べると思っています。」(笑) (インタビューより)
そして、プルシェンコ選手と同時代に闘った4回転ジャンパーであり、トーループ2本とサルコウ1本の計3本、フリーの1プログラムの中に決めたことがある本田武史さんの言葉。
「4回転(3本跳ぶの)は、迷ったら絶対ダメ! 」 だそう。(笑) (雑誌インタビューより)
意識としては、お二人とも、やはり似たような感じのことを言っているように思えます。
「自分には絶対にこなせるはずの、ただのエレメンツの一つだよ!」みたいな。
羽生選手も、絶対にできると思いますね!
どうかあまり気負わずに。(笑)
バラード第一番の 今シーズンの振り付けは、ジェフリー・バトルさんが作った「そもそもの形」に戻して、さらにレベルアップさせていく予定のようです。
個人的に思うのは、いつも音楽が内側から聞こえるように、音楽になり切った感じで演技をすることのできる羽生選手にしては、まだこの「バラード第一番」は、羽生選手の体の中で、気持ちよく鳴り響いていないように、私には感じられます。
だから、ちょっと全体の動きが固めに見える。
練習では本番よりももう少ししなやかに見えるので、衣装の影響のせいなのか、それとも緊張からなのか。
羽生選手は、インタビューで、「まだこの曲で自分らしさを表現できていない」「自分のものに出来ていない」「自分の味を出せていない」「完成できていない」等と答えています。
また、「クラシックのピアノ曲は、オーケストラのようにいくつもの音があったり、ストーリーやドラマ性のある曲と違い、無から表現することが難しい」とか、「クラシックは型があるから難しい」等とあちこちのインタビューで語っていることから、そういった思いの影響なのかもしれないとも思いました。
私は、たぶん羽生選手よりクラシックを好きで聴き慣れている人間だと思うのですが、この「型がある」と羽生選手が語ったことが、具体的に何を指しているのかあまりよくわかりません。 しかし、
羽生選手が「クラシックには型がある」と、そう感じてしまっている、それこそが、何か不自由さを感じさせて、内側から溢れる表現を阻害するような、硬さにつながっているのかもな…という気はします。
私は、クラシック音楽は(全てとは言わないけど)、たとえ身体が動いていなかったとしても、その場で聴きながら、言葉にしがたい感情や思いの表現や、魂の自由さや喜びを味わえるところが、一番素晴らしい点だと思っています。 だから好き。 そこが好き。
羽生選手は「音楽に乗って」滑るのがとても得意だと思いますが、この曲は羽生選手にしてはまだ、音楽に溶け込みつつ、音楽が内側から溢れてくるほどのところまでは至っていないというか…
羽生選手には珍しく、心の中でまだ「曲が歌えていない」ように見えています。
ジェフリー・バトルさんが、どのように滑ってお手本を見せているのかわかりませんが、私の想像ではありますが、たぶん、バトルさんだったら、もう少し「心から自由に」滑り、それが表に出るような演技をするような気がしています。
クラシック曲は、同じ曲を、個性の異なる複数の演奏者の演奏で聴いてみると、ちょっとした違いの積み重ねから、全体として「とても大きな違い」につながっていく、演奏者の色や個性、解釈の違い、というものが鮮やかにクッキリと見えてきて、そのピアニストによる演奏にしかない長所や個性もよく見えてくるかと思います。
奏者の違いは、その曲を「全く別の作品」だと感じさせるほどの違いを生じさせることも、しばしばあるように私は思います。
複数のピアニストで聴き比べると、「自分の感性」「相性」「好み」の発見にもなるし、その「曲」や「音色」に対する、様々な感情や感覚が、自分の内側から浮かび上がり易くなるように私には思えます。
「パリの散歩道」の時、試行錯誤の末、いくつかの振り付けの細かい部分での「羽生選手化」への変更があって、それが功を奏し、最終型の「心から自由に滑る」状態に至ったように見えました。
羽生選手が納得していない振り付けは、観ている側にもなぜか自然と伝わってきているような気がします。
さて、「オータム・クラシック・インターナショナル」にちなみ、
国際的に有名なクラシック・ピアニストたちの 「 バラード第一番 」の演奏を聴き比べてみて、 「秋(オータム)」を楽しもう! のコーナーです。(笑)
羽生選手が使っている曲は、部分部分を抜き取って編集したものですが、その該当部分はそれぞれ、奏者によって結構な違いがあります。
特に後半部分(ステップ部分)に当たる、演奏の終盤のほうは大きな違いがあって興味深いです。
現代でかなり人気のピアニスト・ ラン・ランの「バラード第一番」 → https://www.youtube.com/watch?v=9n_owFNalEA
「舞台の上こそが自分の一番落ち着く場所」と言う彼の演奏は、型にはまらない自由さ・楽しさ・激しさの向こうに喜びが見えてくる。
ショパンのお手本と言われた、ルービンシュタインの「バラード第一番」 → https://www.youtube.com/watch?v=VbJ6f8J8E5I
この演奏は、72歳の時のもの。 繊細さとやさしさが光り、穏やかさ、懐の広さを感じさせる演奏。
ピアニストたちの巨匠、 ホロヴィッツ の「バラード第一番」 → https://www.youtube.com/watch?v=XhnRIuGZ_dc
華やかさと繊細さはもちろん、色彩豊かなで緻密な 演奏。 ラストは、羽生選手の音源よりもずっと軽い弾き方。
有名な女性天才ピアニスト アルゲリッチ の「 バラード第一番」 → https://www.youtube.com/watch?v=RKKy383RVI4
女性特有の華やかさと柔らかさ、優しさを感じさせる演奏。 情感豊か。 最後は流れるような…
前回紹介した演奏のピアニスト、 多くの人が絶賛する ツィマーマンの 「バラード第一番」 実際に演奏しているところの動画
(バラード1~4番まで入っているので、1番は9分20秒あたりで終了です。)
→
一つ一つの音が非常に澄んでいて美しく、ハッと息を呑むほどの響き。 緻密さ、繊細さ、透明感と完璧さを感じさせる演奏。
羽生選手の演技の根底部分に、あの大震災の経験が大きな影響を与えているように、作曲者ショパンがその曲を作った時期の前後に、彼の身に起きたことなどを知ると、何か感じ取れるものもあるかもしれません…。
最後に、羽生選手の演技とはちょっと関係ないけど、クラシックを滑るのが上手いと思われた有名なフィギュアスケーターの、美しい演技をちょっとご紹介。
女子シングル: 1992年 アルベールビル五輪 女子シングル金メダリスト: クリスティ・ヤマグチ(アメリカ)
1992年の世界選手権のテクニカル(今のショート) ショパンの「幻想即興曲」
ペア: 1994年リレハンメル五輪金メダリストの、 エカテリーナ・ゴルデーワ&セルゲイ・グリンコフ組 (ロシア)
エキシビション。 ドビュッシーの「夢」 + べートーヴェンのピアノソナタ「 月光 」
このお二人は本当にため息がでるほど、ロマンティックで美しい滑り、演技をしました。
何も知らなくても、演技を観れば、深く愛し合っているのがわかるような、愛にあふれた演技をするお二人でした。
この五輪の3年前にご結婚し、ご夫婦でしたが、セルゲイ・グリンコフさんがこの翌年の95年に、氷の上で心臓発作により急逝。
翌96年に、悲しみの エカテリーナ・ゴルデーワさんが、夫セルゲイさんのために捧げた演技がこれ。→ https://www.youtube.com/watch?v=_X9wP8-D63o 泣けてきますね。
その後、イリヤ・クーリックさん(ロシア・1998年長野五輪・男子シングル金)と再婚されました。
彼らの演技は、優雅さと美しさ、繊細さで秀でている点がとても似通っているように見えていたので、このお二人が再婚されたのは、私には納得です。
その、イリヤ・クーリックさんの、リストの「愛の夢第三番」の演技がこれ。(アイスショーの映像です)
そのお二人(新夫婦)による、驚異のため息ものの演技が、これ。(画像は悪いです)→ https://www.youtube.com/watch?v=MpDZf82KYhA
背景を知ってこの演技を観ると、一つ一つの振り付けが、すごく意味が深くて胸が打たれます。 さすがの美しさ。
ラストは、長野五輪から10年以上経った2009年のクーリックさんの、ただ滑っているだけで美しい芸術的演技・「Song for the King」
あら? クラシックを楽しむ、から、クーリックを楽しむ、に最後はちょっとなっちゃいました。(笑)
羽生選手が「心から楽しみながら」一つ一つの試合をこなして、良いシーズンが送れますように…!!
毛ガニは… じゃなかった、「怪我には」気を付けて。(笑)
出来る出来る! ファイト!!
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