最高おススメ演技 その15 は、羽生選手がカナダに渡った後(2012年~13年シーズン)の最初のフリープログラム 「ノートルダム・ド・パリ」です。
技術力向上に全力を尽くしたこのシーズン、羽生選手は初めて、「4回転サルコウ」を試合に入れてきました。
「4回転トウループ」と「4回転サルコウ」の2本を入れる高難度プログラムは、翌年に控えたソチ五輪を見越して挑んできたもので、4回転のジャンプ構成はソチ五輪シーズンの「ロミオとジュリエット」と同じです。
休む暇もない、かなりの高難度プログラムで非常に大変そうでしたが、シーズン最初の大会でいきなり4回転サルコウを成功させ、「さすが」な技術成果を見せてくれました。
しかし、一方で、羽生選手がコーチ陣と、英語での意思疎通に苦労しているであろうことが、シーズン当初の演技からは、見ているだけでもよく伝わってきました。
それまでの羽生選手は、何を表現しようとしているのか、見ていてすごくよくわかる選手でしたが、カナダに渡ったあとしばらくは、何を表現すべきなのか、羽生選手がちょっと戸惑っているかのように、私には見えました。
でも、言葉の問題が主原因なら、羽生選手は頭がいいから、上手く意思疎通ができるようになったら、次第にそれは解消されていくだろうと私は信じていました。
環境の変化が大きかったこの年は、羽生選手にとって、様々な点で、とても大変な年だったろうと思います。
このプログラムで個人的に一番おススメなのは、最も壮絶な演技となった、シーズンラストの 「2013年世界選手権」 で演技されたものです。
羽生選手は直前に体調不良や怪我が続き、あの得意のショートプログラム「パリの散歩道」(1年目のバージョン)で珍しく大失敗してまさかの順位に。
優秀な選手が多数いる状態の日本は、翌年のソチ五輪に出場できる権利を「3人分」絶対に欲しかったのですが、同じく代表だった他の2選手の不調も重なり、ショートの終了時点で、出場権「3枠」獲得が危ぶまれるほどの、まさかの「がけっぷち」状態に追い込まれてしまいました。
全日本選手権で初優勝していて、事実上トップ選手としての期待を背負っていた羽生選手は、そのことに相当な責任を感じたらしく、痛み止めを打ちながら痛みを堪えて出場し、まさに「決死の覚悟」「ど根性」を見せてくれた演技が、この演技です。
怪我のせいで技術面では絶好調とは程遠いものの、それでも、「本来の羽生選手らしさ」や「魂」が演技に完全に戻ったように見え、安心したと同時に、とても感動したのを覚えています。
このシーズンは、同じ「ノートルダム・ド・パリ」の曲を使って、(一部は羽生選手とは違う曲ですが)で、アイスダンスのメリル・デービス&チャーリー・ホワイト組(ソチ五輪・アイスダンス金メダル)が、とんでもなくロマンティックで秀逸な演技を披露していました。
男子シングルとアイスダンスとは評価ポイントが違うしやることも違うし、アイスダンスは男女二人で演じるから表現できる幅も違うし、迫力も違うので、もちろん比較はできないしそもそもが別物なのですが、シーズン途中で羽生選手はその彼らの演技の世界観を「素晴らしすぎる」と絶賛していて、「あの世界観を僕も出したい」とまで表明しています。
(参考1 :羽生選手、当時のインタビュー(2012年NHK杯後) → http://web.canon.jp/event/skating/interview/int_hanyu3.html )
(参考2 → メリル・デービス&チャーリー・ホワイト組の、羽生選手絶賛の「素晴らしすぎる」演技 2012NHK杯「ノートルダム・ド・パリ」http://www.nicovideo.jp/watch/sm19427331 )
これを絶賛して、自分でも「この世界観を出したい」とまで思う羽生選手は、相当ロマンティックで情熱的、美しく崇高なのものが好きなのだな、とわかります。
この感性は、昨年のロミオとジュリエットにも少し出ていたと思うし、今シーズンの「オペラ座の怪人」にもきっと大きく出てくるでしょう。
男性一人だけで、あの二人の演じてみせたロマンティックで情熱的な世界観を表現するのは、本当に至難の業だし「男子シングルでそこまでは無理でしょ!(笑)」と私でもさすがに思ってしまいますが、同時に私は、こういう世界観を出したいと願い、ひるむことなく表明し、努力できるような、「17歳(当時)男子シングル選手」である羽生選手を、「素晴らしすぎる」と思ってしまいます!
また、羽生選手は上のインタビュー内で同時に、「自分の演技はまだ40%程度」と非常に冷静に分析していて、上の思いとは裏腹に、「まだ表現できた世界観はない」と言い、自分の演技を淡々と見つめています。
さらに、その前の大会「スケートアメリカ」の演技については、10%程度だった、とまで自分で酷評しているのです。
(しかし、このインタビューと同じ頃、当時のプルシェンコさんは、全ての点において高難度に挑み続ける羽生選手のこの演技を絶賛していて、ナンバー1だと言っていました。)
際立っている身体的な天賦の才能、強みに加えて、上のような豊かな感性と、徹底した冷静さを併せ持っているところ、また、妥協なく、一貫して最高のものを追求しようとする情熱を見せるところが、羽生選手の強みであり、底知れない可能性を感じさせるところです。
こういう羽生選手に、わくわくするな、期待するなといわれても、それは絶対に無理ってものです。(笑)
羽生選手は、(私の記憶に間違いがなければ、)何年か前に、「5歳頃に、自分の中にある世界観を、氷の上で表現したいと思った」という内容をインタビューで答えていたことがあったはずで、その言葉をきいて私は非常に驚き、でも納得し、そんなお子様だったなんて、やっぱりこの選手は、本当にフィギュアスケートをやるために生まれてきたような人なんじゃないか・・・と思った記憶があります。
羽生選手の子供時代の演技の数々からは、その「表現しようとする魂」が、確かに見て取れます。
技術面においては一歩一歩、出来る範囲から着々とこなしながら計画的に戦略的に目標に向かっていく羽生選手の姿は、
まさに戦略に長けた戦国時代の武将そのもののようでもあり、アスリートとしての理想的・典型的な姿である その一方で、
そういう芸術的世界観や表現へのあくなき追求心があり、美しさをも徹底的に追求しようとする姿は、本当に私が長年、
「こんな人がいたらいいのにね・・・」と漠然と思ってきた、「究極のフィギュアスケーター」の姿なのです。
いつのどの、どんなインタビューでも、羽生選手が妥協なく一貫して主張してきたことがあります。
それは、「表現も技術も、どちらにおいても、(あるいは全ての点において)、最高レベルのことが出来る選手になりたい」という内容の言葉です。
インタビュアーが「技術と表現の、どちらに重点をおいて、頑張りたいですか」とか、「どちらに優れた選手になりたいか」などというような質問を尋ねると、必ず、「両方」とあっさり答えてしまう羽生選手。
「そこをあえて、あえて、どちらかを選ぶなら、どちら?」などというようにしつこく誘導されても、羽生選手は笑いながらも頑として、「両方です」「全部です」「どちらもです」などと答え続けてきました。
普通の選手は、そこで、「どちらかといえばこちら」、という方を答えます。 それが当たり前だったのですが、羽生選手は、それをやったらまるで負けを認めるとでも思っているかのごとく、絶対にそこで妥協しない。
決して、どちらかだと言わないのです。
何年にも渡る、その終始一貫した徹底ぶりは、見ていて本当に驚くほどでした。
上のインタビューでも、
「スケーターって、『アスリート』であり、『アーティスト』でもある。そのどっちの魂も、捨てちゃダメなんだと思っています。」と答えています。
絶対に誘導もされないし、諦めないし、妥協しない。
羽生選手の目指すのは、この頃から既に「金メダルの先にあるもの」であって、メダリストになることが最終目標ではありませんでした。
羽生選手のその目標に向かいつつある、その過程にある一つの演技として、またその羽生選手特有の「半端なき覚悟」と「凄まじいまでの根性」が、顕著に現れている演技として、この演技を見てもらえたら、と思います。
この演技動画は、ドイツ語解説です。
羽生選手がこの世界選手権(3月)の前―――つまり、4大陸選手権(2月)出場の後、酷いインフルエンザにかかって、10日間も氷から離れていたことを、きちんと説明してくれています。↓
その後さらに左ひざを痛めて1週間休んでいたそうですし、(ご本人インタビューによれば、「きついトレーニングをしてしまい、左足の腱を痛めてしまった」そう)、さらに試合当日も直前に右足首を捻挫した等、数多くの困難が続いた状態で迎えた試合です。
(この動画ではそこまでは説明されておらず、解説者はどうやら怪我のことは知らされていなかった印象です。)
それでも、ドイツ語解説者たちは、「信じられないほど、凄い!」と驚嘆し、勇者だと絶賛し、羽生選手が翌年のソチ五輪で、金メダル候補であるとここでしっかりと認めてくれています。
「勇者」という言葉は、羽生選手に本当によく似合います。
ドイツ語解説者たちは、「スポーツの本質」だという、自らの限界を探り出すことを羽生選手がここでやってのけ、4回転サルコウにひるむことなく挑戦してリスクをかけたこの演技を高く評価し、「どう取り組んだかが素晴らしい」と絶賛しています。
演技終了後、足の痛みや緊張も極限だったのか、感極まったように、リンクを出た途端、羽生選手が涙を流して泣いています。
得点表示を待つ間、よくよく聞いてみると、羽生選手が「足痛い、足痛い・・・」って、苦痛に顔を歪め、足をさすりながら小さな声で泣きそうに呟いているのがわかります。
見ているだけでも、辛かったですね。
日本男子シングルのソチ五輪出場枠「3枠」が危ぶまれることは、事前にはちょっと想像できない事態だったため、私もすごくハラハラしました。
でも一番ハラハラしたのは、「羽生選手がここで無理しすぎて、来年のソチ五輪に出られなくなるような致命的な怪我でも負ったら・・・、そんな身体の状態になっちゃったらどうするの!!」という点でした。
私は、もちろん「3枠」あるに越したことはないけれども、たとえ出場枠が「2枠」だったとしても羽生選手は絶対に出られると信じていたため、正直に言えば、ここであまり無理してほしくありませんでした。
でも、「羽生結弦」という奇跡の天才スケーターは、そんなことを全く気にも留めていないかのように、「この試合に全力を尽くす」という、凄まじい責任感と根性を見せました。
その覚悟の強さと、かなりの痛みを耐えているのが表情からもわかるほどの壮絶さ―――
羽生選手は、胸の部分に輝く巨大な十字架を、まるで逆に背負いながら演技しているかのようにさえ見えました。
途中から何度も鳥肌が立ちました。
羽生選手のこの演技にかける気迫の凄さ・・・ もう、涙なしでは見られなかったです。
氷の上というのは、地上と比べても全然勝手が違い、ちょっとの変化でも非常に繊細に、体調の影響が反映されます。ちょっとした体のゆがみも、顕著にスケーティングに反映されてしまいます。
スケート靴は、ほんのちょっとでも、ブレードの位置や角度、エッジの状態が狂うと、あっという間にできるものも簡単にできなくなったりするし、逆に靴を変えたら出来ないものが簡単に出来るようになることさえあります。
それは、スケートが、本当に絶妙なバランスの上でなりたっているからです。
織田さんが少し前に、「朝起きて、立ち上がった瞬間に、その感触だけで、今日は4回転を飛べるかどうかがわかる!」などと告白していたほど、微妙な身体の変化に敏感なフィギュアスケート選手たち。それほど、繊細な競技。
ちょっとした体調不良でも繊細に影響が出てくるこのスポーツで、しかもこの重大な勝負のかかった究極の場で、病み上がりで怪我までしていた羽生選手がやってのけたこの演技が、いかに常識を超えているのか、(しかも、異なる種類の4回転2本!!) いかに精神面でも超人的なのかを、ちょっとだけでも想像してもらえたら・・・と思います。
結局、羽生選手がフリーで大躍進したおかげで、日本は「3枠」確保出来ました。
羽生選手がこの時に見せたものすごい責任感の強さ、痛みへの耐性、恐れなき全力投球ぶりは、改めて羽生結弦選手の強さそものものだと思いましたし、本当にただただ圧倒されてしまいました。
日本人がソチ五輪に3人出場できたのは、この時の羽生選手の「決死の頑張り」があったから、です。
私は、この時の羽生選手の姿勢や態度、覚悟等を見て、深く感動する一方で、心臓には悪すぎたので、(笑)、羽生選手を応援していくには、応援する側にもそれなりの覚悟が求められるんだな・・・と強く感じました。
とにかく、ファンとしては怪我の早期回復を祈るのみの日々が、その後はしばらく続きました。
参考までに、当時の羽生選手の、オリンピック枠、「3枠獲得」への覚悟がわかる番組の動画が、こちらです。 → http://www.dailymotion.com/video/x16stm2_3%E6%9E%A0%E7%8D%B2%E5%BE%97%E3%81%B8%E3%81%AE%E8%A6%9A%E6%82%9F-%E7%BE%BD%E7%94%9F%E7%B5%90%E5%BC%A6_sport
こちらは、同じく世界選手権の、日本語解説のものです。画質がとても良く、カメラワークも良く、羽生選手の息遣いまで聞こえてきそうな演技動画です。
羽生選手に3枠獲得の行方がかかっていた日本での解説の、この異様に張り詰めた緊張感!
ニコニコ動画でご確認ください。 → http://www.nicovideo.jp/watch/sm20526867
当時、解説者の中で唯一の元4回転ジャンパーであった本田武史さん(2002年ソルトレイク五輪・4位、2002年・2003年世界選手権銅メダリスト)が、解説しています。
怪我が完治しないまま世界選手権に出て壮絶な目にあったことのある元・選手として、この時の羽生選手の痛みや辛さ、この状態で4回転を跳ぶことの困難さや恐怖を、きっと誰よりも理解しているはずの本田さんが、この時の羽生選手がやったことに、驚愕しています。
直前の6分間練習では、怪我のせいで(羽生選手は)全くジャンプが決まっていなかったそうです。
にも関わらず、本番では、足元が危ういながらも、ことごとくジャンプを決めてきた羽生選手の驚異的な精神力と忍耐強さを見て、解説の本田さんの声が、感動と驚嘆で震えているように聞こえます。
その後、本田さんは、痛みを堪え抜いた羽生選手のこの演技が、技術点としてはどのように判定される可能性があるのか、同じく元4回転ジャンパーとしてよく理解しているその厳しいポイントなどを、非常に的確に解説してくれています。
動画上のコメントではなぜか一部の人から批判的に書かれてしまっていますが、本田さんというのは、「男は黙って4回転!」とか、4回転のコツをきかれた時には、「4回まわって降りるだけ!」と答えたような、いくつかの名言(迷言?(笑))で当時の私を爆笑させてくれた、冷静でサバサバした面白い方で、4回転なしでは表彰台も無理な「元祖・4回転時代」を戦い抜いた方でもありますので、この時、怪我を抱えながらも「男は黙って4回転!(笑)」を、文字通り、しかも2度も実行してのけた羽生選手を、高く評価していないはずがないと思います。
私にはこの時の本田さんの声が、非常に感動し、羽生選手の痛みに深く共感しつつも、解説者としてきちんと解説し、羽生選手に良い点がつくのを本当に願ってくれていると感じられます。
いつも淡々としている本田さんの震え声と驚嘆のため息のおかげで、この時、羽生選手が成し遂げたことの大変さが、胸にしみ入るようにわかりました。
羽生選手の演技が、時に不思議な形で人々の胸を強く打つのは、誰にも真似できないほどの真剣さと、危険を顧みない、命がけに近いほどの演技を平気でしてしまうからこそ、なのかもしれません。
しかし、痛み止めを打っていても泣き出すほどの痛み・・・ やはり、無理しすぎたのではないかと思えたので、私はこの後しばらく、羽生選手の怪我の状態が非常に気になっていました。
その後、1か月は、安静にしなければならなかったようです。
次のものは、同じ世界選手権の、イタリア語解説・(翻訳つき)です。 (ニコニコ動画・ 動画主様、拝借します。翻訳の方、ありがとうございます。)
(ニコニコ動画で画面上の文字を消すには、右下のセリフ吹き出しマークをクリックしてください。 ただし消すと、解説の翻訳も見られません。)
こちらでは、解説者たちが、直前の6分間練習でジャンプが全く決まっていなかった羽生選手を見て、
「6分の間、一つもジャンプは決まらず、フェンスにぶつかったりと 何かを失ったように見えたわ」といい、さらに、
滑走順が練習直後の1番目滑走だったため、その状態から全く休む暇もなかった羽生選手が、本番ではここまでやった姿を見て、
「彼は全てを出し切った」 「これは奇跡ですよ」 と述べて、大感動しています。 そして、
「私たちは本当に、彼に喜びを感じます」 「私たちは心からユヅルを嬉しく思います」(以上、訳・動画のまま)と演技中も演技後も、コメントしています。
羽生ファンなら、みなこれに同感でしょう。
超のつく「負けず嫌い」で、徹底的に努力できるだけでなく、時に自らの利益をも省みず、選手生命を賭けるような演技が出来てしまう人。
最高難易度への飽くなき挑戦心。
勝利を決して我がものだけにせず、他へ分かち合え、感謝して謙れる精神。
高い反省力、冷静な判断力と同時に、勝負時には躊躇なく決断・実行できる強い意志と情熱。
最高の芸術性を目指そうとする、妥協なき思いと感受性。
驚異の柔軟性・高い身体能力に加え、これらの精神面をも備えている稀な選手だからこそ、羽生選手には是非ともオリンピックチャンピョンになってほしかったし、絶対になれるだろうと思っていました。
しかし、一方で、このような「五輪出場枠のかかった」ような、特殊な試合であるという状況を除けば、この時のような怪我の状態のまま、無理して高いリスクを負って演技をしてほしいとは、私はもう思いません。
羽生選手のそういう精神面はすごく好きだし心から尊敬するけど、演技そのものも本当に好きだから、本当に身体を大事にしてほしい。
でも、羽生選手の人生だから、最後は 羽生選手が自分で決めたこと、その決断を、全力で応援する。
そういうファンでありたい、そうできるファンでありたい・・・ 私個人は、そう思っています。
ところで、羽生選手のこの衣装は、ジョニー・ウィアーさん(元全米王者)の過去の有名な「アヴェ・マリア」の一つの衣装とかなり似ています。
羽生選手は、ジョニーさんのこの「アヴェ・マリア」にかなり魅了されたことを、著書・「蒼い炎」の中で語ってくれているので、よほど気に入っていたのか、あるいは、似たような何かを目指したものと推測されます。
私の記憶に残っている、ジョニーさんの歴代演技の中で最も印象的だったのも、この「アヴェ・マリア」でした。
ため息が出るような、「これはもう男子シングル枠じゃなくて、女子シングル枠にいくべき!(笑)」などと思えたほどの美しさと優雅さでした。
(参考: ジョニー・ウィアーさんのエキシビション「アヴェ・マリア」はこちら。 → https://www.youtube.com/watch?v=2G_E3cwRZ2o#t=129 )
演技が始まる前は、色使いの衣装の影響で、上半身が下半身に比べて華奢に見えすぎる気がして、羽生選手のスタイルが活かせていないように私には思えていたのですが、演技が始まってみると、逆に、ノートルダム・ド・パリの登場人物の精神的な脆さやはかなさ、切なさ等を表せているように思え、不思議な美しさが出てきます。
羽生選手の演技を見ていていつも凄いと思うのは、演技が始まると、衣装や音楽にまつわる、私の個人的な好き嫌い感情を軽く乗り越えて、魅了させてしまうほどの力をもっているところです。
左右の腕と手のデザインが対極になった、見ているだけで、混乱し、相反する感情さえもを沸き起こしてくれるこの不思議な衣装で、「ノートルダム・ド・パリ」の曲と話のテーマの複雑さを表現しようとしていると思われます。
恐らくこの衣装と音楽を見る限り、この演技で羽生選手は、ロミオとジュリエットの時の「ロミオ」のように、一人の人物ではなくて、「ノートルダム・ド・パリ」に出てくる、複数の登場人物を表現しているのだろう、と推測されます。
この「世界選手権」の時は、テーマである複雑すぎる悲恋、それに伴う”究極の苦悶の姿”と、羽生選手が切実な思いで、「実際に相当な身体的苦悶にあえぎ、精神的な格闘を伴いながら、演技した」姿とが、うまく重なってみえた気がします。
『 是が非でも日本の3枠を獲得したかった羽生選手の強く激しく切ない思い 』は、その激しさと切実さにおいて、ノートルダム・ド・パリにおける 『 決して結ばれない相手への激しくも切ない恋慕 』と重なるようにして、見る者の胸を打ったのかもしれません。
(参考までに、ノートルダム・ド・パリの内容については、こちら。→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%AA
得点や技術の出来だけで見ていくなら、「もっと良かった大会」が他に複数あります。
しかし、シーズンを通して見てきて、私の中で一番印象に残ったのは、間違いなくこの「世界選手権」での演技でした。
人間は一体、何をもって「感動し」「感動させられて」いるのか・・・
人は、本当は演技の「何」を見ていて、「何」を感じ取っているのか・・・ そんなことを、強く考えさせられてしまった演技でした。
以前、プルシェンコ選手が、日本の本田望結ちゃんに、「本当の表現というのは、心でするものなんだ」と アドバイスしていました。
まさに、それだったのかな、と思います。
長年、他を圧倒していた、フィギュアスケート界の皇帝・絶対王者の言葉の重みは違います。
羽生選手は、よく、見る者をも完全に巻き込むほどの演技をしてくれます。そして、そのレベルが凄いのです。
「全身全霊」。 魂の叫びを感じさせるような演技。
――― 目には見えなくても、確かに、見ている側には届いているのです。
逆に、羽生選手の「覚醒の時」(DVD、ブルーレイ)にも収録されている、「2012年全日本選手権」で初優勝を遂げた時のものと、およびその直前に行われた、「2012年グランプリファイナル」の時のものは、足取りもしっかりしていて、怪我していた2013年3月の「世界選手権」のものとは、安定感や余裕が全然違い、それぞれ、細かい部分での美しさに違いがあります。
どんな違いがあるか、見比べてみると、きっと面白いと思います。 (下に続きます)
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世界選手権という、一番大きな大会で、必ず激闘ぶりを見せ、結果を出すことの出来る羽生選手は、本当に大舞台に強い方です。
オリンピックでもそれが証明された今となっては、もはや言うまでもないことですが、
ここまでの強いアスリート精神、ド根性、不屈の精神、男っぽさを見せてくれる選手というのは、フィギュアスケート(男子)という種目では、今まではなかなかいなかったように思います。
私は、羽生選手が文字通りトップに上がってきたら、男性にも広く人気が出てくるだろうと予想していたのですが、それは、そういう顕著な「アスリート根性」が男性受けし、
今までのフィギュアスケートの男子のイメージを覆していく可能性があるんじゃないかと、思っていたからです。
そういう風に、競技としても興味をもった男性たちが、気楽に、後ろめたさもなく、フィギュアスケートを「スポーツとして」、また同時に、「芸術の一つとしても」、楽しく見に行けるようになるといいのにな・・・、と私は個人的には思っています。
実際、羽生選手が登場してから、スポーツとして興味を持てるようになった男性は、以前よりもかなり増えているように、私は感じます。
新しい時代に向けて・・・ 頑張れ! 羽生選手!!