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米トランプに追い込まれた中国 習近平の座に揺らぎはないか

2018-12-07 13:36:46 | 日記

勝又壽良

Sent: Thursday, December 6, 2018 5:00 AM

Subject: 米トランプに追い込まれた中国 習近平の座に揺らぎはないか

米は5つの分野で攻め込む

中国は技術窃取を当然視へ

貿易戦争の本質問題は何か

中国国内で伏せられた点

バブルの決定的な証拠とは

習近平氏の政治責任へ発展


12月1日の米中首脳会談は、世界注視の中で開かれました。

習中国国家主席が、トランプ米国大統領の宿泊するホテルを訪ねるという、へりくだった形式を取りました。

米国代表団は、一様に緊張した様子で会談が始りました。習近平氏は、淡々と中国側の対応を説明して、いい雰囲気で会談を終えたと伝えられています。

詳しい交渉結果は、後で取り上げます。結論だけ先に上げると、90日間の交渉過程を設け、その間は追加的措置を取らないというものです。

一種の「休戦」です。トランプ氏は、会談中に米国の交渉統括として、ライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表を指名しました。

中国は、副首相の劉鶴氏が統括役となり、40人からなる代表団を率いてワシントンを訪問する手はずとなりました。

米は5つの分野で攻め込む

米中首脳会談は、90日間の交渉期間を区切っています。その間に交渉がまとまらなければ、米国が関税引き上げ第3弾の2000億ドルに、追加関税25%(現行10%)を科すことになります。

先ほど「休戦」と書きましたが、この休戦条件は中国にとって極めて厳しい内容です。

これまで、中国は問題の存在自体を認めなかった5つの分野が検討課題に挙がり、結論を出すことを求められました。

5分野は、下記の通りです。

1.米企業への技術移転の強要

2.知的財産権の保護

3.非関税障壁

4.サイバー攻撃

5.サービスと農業の市場開放

以下に各項目について、簡単な説明をします。

1.

米企業への技術移転の強要は、米国企業だけでなく各国企業にも同じ要求を出しました。中国は、外資企業の単独進出を認めず、合弁形式を許可してきました。これによって中国側が、労せずして先進技術を手に入れるという狡猾なことをしてきました。この問題は古くて新しい問題です。

2.

知的財産権の保護は、字義通りです。特許権やノウハウなど製造業に欠かせない知的財産権が、中国によって窃取されてきました。産業スパイや研究者を米国の大学や企業に送り込んで、最新技術を盗み出させてきました。この背後には、中国情報部や孔子学院という一見、企業と無縁に見える教育機関まで総動員する「スパイ網」をつくり上げています。

3.

非関税障壁は、関税以外の手段によって自由貿易を疎外するものです。輸出補助金、輸入割当などが上げられます。中国は、このうち輸出補助金が鉄鋼やスマホにも使われています。スマホの場合、生産段階で補助金を出すので、世界一のスマホ・シェアを誇っていたサムスンのスマホが、中国では全く売れないという事態が起っています。これなどは、悪質な例です。

4.

サイバー攻撃は、技術情報から軍事機密まで盗み出すもので、最近は中国の名門大学である精華大学の関与が指摘されています。精華大学と言えば、前国家主席の胡錦濤氏や現国家主席の習近平氏の出身大学です。この大学までがサイバー犯罪に手を染めている現実は、深く憂慮されています。

5.

サービスと農業の市場開放は、金融業を受入れるほか、農産物の輸入を増やすという表明です。金融サービスの市場開放は、これまでどれだけ約束してきたことか。その度に実行せず、遅らせてきました。空約束の連続です。今度こそ実行させる。あるいは、繰り上げさせるという厳しい要求が突付けられています。農業は即刻、米国の大豆などの輸入を増やすと約束しました。

中国は技術窃取を当然視へ

以上の5項目に、ハイテク計画の「中国製造2025」が入っていないという指摘があります。

これは当然で、「中国製造2025」の中止を求めるのは、中国の主権を侵害することになります。

ただ、前記5分野のうち1~4の違法行為を中止させれば、「中国製造2025」に大きな影響が出て、進捗不可能になると見られています。つまり、中国は、不法行為による技術窃取で、ハイテク計画を進める予定でした。

その一端が分ったのは、先のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、習近平氏が次のように語ったのです。

「先進国が新技術を独り占めすることは認められない。発展途上国へ開放すべきである」と仰天するような発言でした。

知的財産権とは何か。人間の知的活動を保障するには、その成果を保護する。そういう高度の関連性が理解不能のようです。こういう国家主席に率いられるのが中国です。

技術窃取は、当たり前という認識なのです。これは、驚くべき事実です。

中国は当初、米中貿易戦争について楽観的な態度をとっていました。それは、これまで培ってきた米国ビジネスマンとの人縁を活用すれば、穏便にことが済むと見ていたのです。

中国国家副主席に就任した王岐山氏は、米金融界の大物に知己が多い点が買われました。米財務相のムニューシン氏は、もともと金融界出身であり金融市場寄りで、中国との合意形成に積極的でした。

貿易戦争の本質問題は何か

一方で、米中貿易戦争とは何か、という本質的な問題が提示されました。

第一は、米中貿易赤字の縮小です。中国が、米国からの輸入を増やして貿易不均衡を是正すれば解決する。これは、ビジネスマン的な発想です。いわゆる、ハト派的な感覚です。

第二は、米国の対中貿易赤字を出している原因が、不公正貿易慣行にある以上、その原因を是正すべきである。これは、中国経済の構造面まで切り込むもので、タカ派的な感覚です。

米政権内で議論を重ねれば、中国の貿易不均衡問題の抜本的な解決には、構造改善まで踏み込まなければならないとの結論になるのが自然です。

メディアでは、貿易不均衡だけの解決を主張するのをハト派。構造改善まで切り込むべきとする主張をタカ派と呼ぶようになりました。

中国は、貿易不均衡だけを解決するハト派に接近しました。反面、タカ派には人脈がなかったのです。それだけに、米中首脳会談では準備不足を露呈しました。

ここで、過去の日米経済摩擦がどのような解決策になったのかを見ておきます。

1990年代前後、日米経済摩擦が発生しました。日本の巨額な対米貿易黒字が問題になりました。

この時の結論は、円高による日本経済の構造改革で輸入を増やす体質に転換させることに落ち着きました。

これを機に、日本企業は大挙して海外進出を図り、産業の「国内空洞化」という深刻な事態を招きました。

しかし、今から見ると正解でした。国内の人口減による市場狭隘化が進行する前に、海外市場を開拓していたのです。

現在は、日本の国際収支構造が盤石になり、「強い円」という折り紙を付けられています。

この日本の例から分ることは、中国が主体的に構造改革に取り組めば、経済構造の高度化が進むことです。

その覚悟とそれを許す政治情勢が、中国にあるかが問われています。

中国では、今回の米中首脳会談による詳細な内容が報道されていません。90日間の「休戦」だけです。5項目の検討については伏せられています。

中国国内で伏せられた点

実は、この点にこそ中国の受けた衝撃の大きさが表れているのです。中国ではこれまで、米国に対して徹底抗戦する。そういう勇ましい話ばかりが伝わっています。

米国から5項目の解決を迫られているとは、口が裂けても言えないのでしょう。

中国は、こうした重大な5項目の解決を、90日という期限を切られる中で受託した理由は何か。

それが問われます。最大の原因は、中国経済が来年1月1日から2000億ドルについての追加関税の25%を受入れれば、国内経済が金融的に破綻する危険性が強かったと思われます。

11月後半より中国から伝えられる経済データは、深刻なものばかりでした。

中でも、中国人民銀行の発する信用危機が迫っているとのシグナルは、第三者にもひしひしと伝わったのです。

12月1日以降になると、そのような情報は消えて「中立的な金融政策にする」(人民銀行総裁)とトーンが変ったのです。一息入れた、ところなのでしょう。

90日の猶予が与えられたからといって、中国経済の構造が変る訳でありません。これまでの危機的な状況が、そのまま続いているはずです。

その中から、いくつか注目すべき現象を取り上げます。

中国共産党は11月中旬、金融機関のエコノミストに対して、経済を予測する際に「党と国家の利益を踏まえるよう対策を講じろ」と指示を出しました。

未だかつてない話で、エコノミストは手心を加えた経済分析をせよといるのです。これは、経済実態が相当に悪化していることを自ら語ったようなものです。

証券監督管理委員会(証監会:日本の金融庁)の責任者は、11月に入り、北京で30を超える証券会社やファンド運営会社の代表と面会して、前記のような内容を要請したようです。

事情に詳しい関係者によるとその場で、「株式市場参加者の判断を誤らせることがないよう、調査リポートを発行する際に高い水準の思考を目指し、共産党と国家の利益を考慮すべきだ」と行政指導したというのです。

うがった見方をすれば、企業利益悪化について赤裸々に書かず、「ゲタを履かせろ」というとんでもない指示を出しているのです。

こういうウソ情報を流して株価を押上げる行為は、日本で言えば「証券取引法違反」として告発されるもの。

当局が、それを奨励していたとは、中国経済が相当に追い込まれている動かしがたい事実です。

バブルの決定的な証拠とは

中国メディア『鳳凰網』(11月19日付)は、中国の不動産時価総額の合計は65兆ドル(約7310兆円)となり、米国とEUと日本を合わせた額の約60兆ドル(約6750兆円)を超えたという記事を掲載しました。

こういう記事を掲載した動機は多分、「自慢」でしょうが、自慢どころでなく危機の接近を告げているのです。

不動産時価がバブルかどうかの判断基準は、対名目GDP比で見ることです。

不動産時価は本来、名目GDPを正直に反映するものです。

中国の名目GDPは、米国の約6割です。それに対して不動産時価が、日本+米国+EUの合計を上回るとは、「空前絶後」の不動産バブルになっている動かしがたい事実です。

日本のバブル経済では、東京の地価で米国が買えると言われました。

「日本も金持ちなったものだ」という程度の感じでした。だが、その後のバブル崩壊で塗炭の苦しみを味わったのです。

中国も同じようなことが起らないという保証はどこにもありません。むしろ同じリスクを抱えていると見るべきでしょう。

この中国経済の脆弱性こそ、中国が米国へ妥協せざるを得なかった最大の理由と見られます。

ここで、来年1月1日から2000億ドルが25%関税へ引き上げられたら、第1弾と第2弾で500億ドルの関税引き上げの4倍が一挙に中国へのしかかってきます。

中国経済には耐えられません。習近平氏が恥を忍んで5項目を飲んだのは、中国のバブル崩壊をずらせるという苦肉の策であったように見えます。

習近平氏の政治責任へ発展

トランプ大統領は、前述の通りライトハイザー氏を対中交渉の責任者に指名しました。これで、米政権が強硬路線で臨むという見方を強めています。

トランプ大統領は、対中通商協議を法的な交渉へと移行させ、中国に具体的な行動を迫る調印文書を要求するだろうと見られます。

トランプ氏の娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏も、ライトハイザー氏を責任者として起用するよう大統領を説得する上で、重要な役割を果たしと伝えられています。

ライトハイザー氏は、対中通商交渉の切り札になりました。

ホワイトハウスのクドロー米国家経済会議(NEC)委員長は12月3日、中国による知的財産権の侵害をやめさせることで、米中両国は合意に「かなり近づいている」と述べました。

この通りとすれば、中国は米国に対して譲歩する姿勢を見せ始めていると受け取れます。

中国が、すでにここまで妥協姿勢を見せているとすれば、中国経済が崩壊直前の危機的状況に入っている証拠でしょう。

来年の2月一杯までという期限を切られ、5項目について米国の満足する回答を出さなければなりません。

中国で今後、習近平氏の責任問題は起らないでしょうか。

米中貿易戦争が始った春以降、中国国内では経済改革派から多くの慎重論が出ていました。米国と紛争を起こして勝てるはずがない、というものでした。

それを押し切ったのが習近平氏です。中国経済を混乱させた責任追及が起ると見られます。この結果、習氏の「永久政権」は消えるとする見方があります。

習氏は、米中貿易戦争に対して積極論を展開した責任を免れません。

事態は、流動的になってきたと見ておくべきでしょう。これで、「中国製造2025」が致命的打撃を受けるとなれば、ますます習近平氏の責任を問う声が高まりましょう。

党内には、汚職追放で膨大な政敵を抱えています。彼らが、結束しないとも限りません。

?小平の孫がエコノミストとして活躍し、習近平批判を繰り広げているの
も不気味な感じです。