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「不良幹部」の制裁が金正恩氏に与える大ショック

2018-12-12 18:16:05 | 日記
「不良幹部」の制裁が金正恩氏に与える大ショック


高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト


12/12(水) 6:04

米財務省は10日、北朝鮮における深刻な人権侵害や言論統制に関与したとして、

金正恩朝鮮労働党委員長の側近である崔龍海(チェ・リョンヘ)党副委員長兼とチョン・ギョンテク国家保衛相、朴光浩(パク・クァンホ)党副委員長兼宣伝扇動部長の3人を

制裁対象に指定したと発表した。

党組織指導部長は北朝鮮の政務と人事を一手に掌握し、秘密警察トップである国家保衛相は政治犯収容所の運営などを担当、党宣伝扇動部長は国民の言論や思想を統制する。

制裁指定されて当然と言える面々だ。

中でも崔龍海氏は、女性に対する変態的な人権侵害で知られる人物だ。今まで制裁対象になっていなかったのが不思議なくらいだ。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル)

米国はこれまで、2016年7月に金正恩氏を、2017年1月に金正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長を制裁指定するなど、計29人と13機関を人権問題で指定している。金正恩氏は、自分が制裁指定された際にはたいへんな荒れ方だったとされる。

(参考記事:金正恩氏が「ブチ切れて拳銃乱射」の仰天情報)

しかしもしかしたら、今回の制裁指定は彼にとって、さらに衝撃的だったかもしれない。

北朝鮮が米国との非核化対話に乗り出した目的は、簡単に言えばこれ以上、人権問題で圧迫を受けたくないからだ。

非核化と引き換えに、北朝鮮の内政には口を出さないと米国に約束させることが、すなわち「体制保証」を得るということなのだ。

北朝鮮はいったん核兵器を放棄しても、天然ウランが国内で採れるから、その気になれば再び作ることができる。

しかし、恐怖政治により体制を維持している以上、人権問題で妥協するわけには行かないのだ。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」)

もちろん、核兵器が北朝鮮の国防にとって重要であることも確かだ。

それをカードに使うくらいだから、金正恩氏がいかに人権圧力を嫌っているかがわかろうというものだ。

そんな重要なカードを切ったのに、米国から引き続き人権圧力を受けたのでは、金正恩氏も立つ瀬がなかろう。

対抗策は核開発に回帰することだが、そんなことをしたら、米国を対話の場に引っ張り出すのは今まで以上にたいへんになる。

それに何より、経済制裁を受け続ければ国内が持たなくなる。

米国がこのタイミングで人権圧力を強めたのは何故か。

「非核化が進まないことに対するけん制だ」というのが大方の見方だ。そうかもしれない。

さらにそれに加え、トランプ米大統領の北朝鮮に対する関心が薄れていることがあるのではないか。

そしてその間隙を縫う形で、米政府内の人権派が「自分の仕事」を粛々と進めているのかもしれない。

いずれにせよ、米国でこのような動きが続けば、金正恩氏も何らかの対抗措置を取る必要に駆られるだろう。

それがどのような形のものになるかが注目される。



高英起
デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト


北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。

98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。

雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。

主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)
『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)

『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社

「文在寅政権は失敗しつつある」は本当か? 経済問題で支持率40%台へ

2018-12-12 17:38:19 | 日記
「文在寅政権は失敗しつつある」は本当か? 経済問題で支持率40%台へ


徐台教 | ソウル在住ジャーナリスト。「コリアン・ポリティクス」編集長


11/29(木) 19:26

文在寅大統領の国政支持率は、最新の調査では50%を割り、就任後最低にまで落ち込んだ。

理由は経済。しかし、真の問題はより恐ろしいところにある。

それは文在寅政権が失敗しつつあるという懸念だ。

危機感と失望を感じる支持層の進歩派からは連日、厳しい指摘が飛ぶ。そんな状況を読み解いた。

▲世論調査を見る

韓国では代表的な世論調査機関2社が毎週、定例調査の結果を発表する。

過去との比較もしやすいため重宝されている。まずはこれを引用してみる。

韓国ギャラップ社(以下、ギ社)が11月23日に発表した調査で、文大統領の職務遂行に肯定的な評価を下したのは53%。否定的な評価は38%だった。

これは9月下旬の南北首脳会談後の数値から10ポイントほど下がったものだ。

他方、リアルメーター社(以下、リ社)が29日に発表したものによると、肯定評価は48.8%、否定評価は45.8%となっている。

やはり9月下旬から約17ポイント低下した。50%を下回ったのは就任後はじめてのことだ。

年代別に見ると、肯定層はギ社の調査では、30代(67%)→40代(60%)→20代(56%)→50代(52%)→60代以上(39%)の順となっている。リ社の調査では40代と30代が入れ替わるだけで、後は同様だ。

職業群別の肯定層は、両社ともに事務職(ホワイトカラー)が60%超で1位、学生が続く。

否定層は自営業者が46%(ギ社)、55.5%(リ社)で1位、主婦、労働者(ブルーカラー)と続く。

評価の理由については、項目を別途設けて聞くギ社の調査結果を参考にしてみる。

肯定評価は「北朝鮮との関係改善(26%)」がトップで、否定評価の1位は「経済/民生問題の解決が不足(45%)」と圧倒的だ。

リ社は29日のレポートで「下落の最大の原因は困難な経済」と断じている。

▲「格差」「雇用」「不動産」…経済政策への低評価

2017年5月の就任から1年半が経つ中、文政権の国政支持率低下は、常に「経済」とセットで語られるようになっている。

先に引用した世論調査にもあるように、文政権の成果は「朝鮮半島の平和に向けた外交成果」、失敗は「低調な経済」との図式が定着してしまった感すらある。

その経済政策を批判する際に引用される代表的な視点が3つある。それぞれ見ていく。

「格差」

統計庁が今月22日に発表した第3四半期の「家計動向調査」によると、所得を5段階に分けた場合、最も低い所得下位20%の家庭の月平均所得は全年比マイナス7.0%である反面、最高の上位20%の家庭では8.8%の増加となっている。


進歩系の日刊紙・ハンギョレはこの数値について、「歴代最悪の所得格差」(22日)としている。

全体の月平均所得は前年比4.6%増加しているにも関わらず、低所得層の所得は増えないまま、貧富の差が拡大している点を指したものだ。

これ、文政権が発足後から大々的に推進してきた、最低賃金引き上げに代表される「所得主導成長」政策の副作用とみられている。

今年に入り、下位40%の収入は前年比で減少を続けている。零細自営業者の不満が高まる要因でもある。

「雇用」

一方、やはり統計庁が今年14日に発表した「10月雇用数値」によると、15歳から64歳までの雇用率は66.8%と、昨年10月と比べ0.2%ポイント減少している。失業率も3.5%と、昨年比0.3%ポイント上昇した。

こうした数値についての見方は分かれる。

保守系の日刊紙「中央日報」は「雇用率は9か月連続で前年比マイナス」、「失業率は同じ月(10月)基準で13年ぶりの最低水準」(14日)と厳しい見方を示す。

一方、キム・ヨンギ亜洲大学経営学部教授は20日、「ハンギョレ」への寄稿文の中で、該当する月だけを切り取り比較する中央日報の視点を批判した。

キム教授はやはり統計庁のデータを元に「失業率は今年最低」であり、「雇用率も昨年比0.1%減に過ぎない」と指摘する。

とはいえ、政府は厳しい見方で一貫している。

日本の財務省に相当する企画経済部(兼副総理)長官候補のホン・ナムギ氏は14日、記者団に対し「10月の就業者数が9月よりも改善されたが、依然として厳重な状況」と明かした。

不動産

これに、不動産対策での否定的評価が輪をかける。

政府は高騰するマンション価格に対し、投機を抑制し実際に居住するため購入する人に有利となるよう規制を強める新政策を昨年来、3度にわたり打ち出してきた。

だが、その内2度までは効果がなく、逆に投機を招く結果となった。

直近の9月の政策により価格高騰にはブレーキがかかったが、逆に投資先を求める中産層以上には不満がくすぶっている。

さらに、今月30日には韓国銀行による基準金利引き上げが見込まれており、銀行からの貸出でやりくりする庶民にも影響を及ぼすことが予想される。

不動産対策は「漂流中」との評価が目立つ。

▲「支持率下落傾向は長期化」

冒頭の世論調査を見ると、主婦層に不支持が広まっているのが分かる。

否定評価はギ社では46%(肯定45%)、リ社では54.2%(肯定40.3%)と全体平均を上回る。

主婦層の不満は拡散しやすい。この点で、文政権は追い込まれている。

これまで見てきたような傾向を専門家はどう見ているのか。

匿名を要求したある世論調査会社の専門分析家は28日、筆者との書面インタビューで「政府が経済をおろそかにし、特別な代案を提示できていない点と、これを修正するリーダーシップが見当たらない点が低評価の原因」と評した。

その上で、「経済に端を発する支持率下落を一時的なものと考えることはできない。

この傾向は長期化する」と見通した。

▲真の問題は別に

通常の記事ならばここまでだが、筆者が真に書きたいことは別にある。

それは、経済政策への低評価の裏に「文在寅政権の失敗」が見え隠れするという問題提起だ。

こうした視点は特に、文政権の支持母体といえる進歩派層の知識人から見受けられる。

日本ではなかなか強調されてこなかったが、16年10月から約半年間続き朴槿恵大統領を弾劾に追い込んだ「ろうそくデモ」の裏には、OECD加盟国中で最悪とされる不平等な韓国社会に対する怒りがあった。

だが、今の状態が続く場合、文在寅政権はこれを是正するための改革を行えなくなる、という危機感がそこにある。

真の問題は経済政策そのものよりも、「経済政策がつまずかざるを得なかった」より本質的な部分にある。

いったいどういうことなのか。

文在寅大統領の国政支持率下落の直接の原因が経済政策への低評価にあるという点に触れた。

だが、こうした現象を「起こるべくして起きた」とする視点も少なくない。

文在寅政権が韓国政治のメカニズムの前に無力感を漂わせている。

筆者が今回、話を聞いたのは韓国・西江大学社会科学研究所の李官厚(イ・グァンフ)研究員。韓国政治のメカニズムに精通し、

韓国の政治改革を陣営にとらわれない立場から主張する姿勢で知られる。インタビューは27日、ソウル市内のカフェで行われた。


李官厚研究員

1976年10月生まれ。西江大学政治外交学部、同大学院修士課程卒業。英国University College Londonで政治学博士を取得。

過去、2人の国会議員の下で合計6年間のあいだ補佐陣を務める。

「良い代議民主主義はいかに可能か」が研究テーマ。研究の傍ら、西江大、慶煕大などで講義を行う。韓国紙にコラムの執筆も多い。

――文在寅大統領の支持率下降が続き、一部では「レームダック(政治的な影響力の喪失)」に陥っているとの指摘(※1)も出ている。

この視点をどう見るか。

今をレームダックと見るのは難しい。そう主張する人たちは文大統領を揺さぶろうとしているだけだ。

政治的な修辞に過ぎない。だが、レームダックが早まる可能性があるのは確かだ。

そこには二つの要因がある。

まずは(5年)単任性の大統領であるということを人々が学習している点だ。

政権が変わると政策の一貫性が無くなる事が多いので、例えば官僚が一生懸命仕事をしなくなったりする。

任期の後半には支持率が下がる大統領が多いため、必然的にレームダックの時期は早まらざるを得ない。

また、選挙の時期とも関連がある。

中盤に国会議員選挙がある場合、与党議員が(支持率の低い)青瓦台(大統領府)との距離を置こうとする傾向もある。

こうなるとやはりレームダックは進む。

二つ目に、文在寅政権は(朴大統領の弾劾を経て)繰り上げ選挙で誕生した点を挙げたい。

このため期待値が非常に高い中で発足した。

今年上半期には「支持率が高すぎる」との懸念もあったほどだ。

こんな状態で少しでも支持率が下がると、否定的な世論が形成される。

すると青瓦台(大統領府)では反転させようとするので、上下が激しくなる。この過程が繰り返されると安心感が損なわれていく。

(※1)野党の重鎮議員である、孫鶴圭(ソン・ハッキュ)正しい政党代表や朴智元(パク・チウォン)民主平和党議員、さらに朝鮮日報など一部保守メディアが主張している。

――支持率の低下を受け「大統領が全面に出てくるべき」と、リーダーシップを要求する声が出てきている。

今、どうやれば文政権はこの状況を打破できるか。

今の文政権の危機は、支持率が低く、経済状況が困難といった現象的なものよりも、発足初期と比べて、政府が取れる政治的手段が大幅に減ってしまった点にある。

これこそが危機だ。

私は政権発足当初から野党との「連立」を提案していたが、これは実現されなかった。

この夏にもそうした動きがあったが(※1)、やはり実現しなかった。二度のチャンスを失ったと見る。

今から提案するとしても、政府の危機感が透けてみえる状態では難しい。

連立をしなければならなかった理由は、国会で自由韓国党の同意を得なくては「何もできない」状態にあるからだ(※2)。

この部分でもどかしさがある。

例えばチョ・グク民情主席秘書官の役割は、司法改革や高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の設置であるはずなのに、昨年の就任後から一歩も前に進めていない。

経済政策も同様だ。政府で最低賃金だけ上げればよいのではなく、

他に社会福祉制度や、別の経済政策(編注:財閥企業の規制強化など)と並行されてこそ、シナジー効果があるはずなのに、これができない。

先日、退任したキム・ドンヨン副総理(兼企画財政部長官、日本の財務大臣に相当)が「政治が責任を回避している」と発言し、

与党からは「すべての改革が国会の前で止まる」という発言もあった。

だが、私は「そんな事は政権発足当初から分かり切っていたことだ」と指摘したい。

(政府や与党は)「所得主導成長が成果を出せないのは、国会が関連する立法をしてくれない」という主張をしているが、
これは余りにもナイーブなものだ。

どこの野党が、与党に成果になる法案を通してくれるというのか。青瓦台の成果になる司法改革の法案を、野党が通すはずがない。

※1:青瓦台は7月23日、「適切なポストに適切な人物ならば『協治(協力する政治)内閣』を構成する意志がある」とし、野党の入閣をにおわせた。だが一か月後、青瓦台は「各党の反応を見て困難になった」とこれを取り下げた。

※2:韓国国会の定数は300。法案通過のためには180席が必要だ。

29日現在、与党・共に民主党は129議席、保守派の旧与党・自由韓国党は112議席、中道保守派の正しい政党が30議席、左派の民主平和党と正義党が14議席と5議席となっている。

保守政党の協力なしには法案が通らない。現在の国会議員は文在寅政権発足(17年5月)前の16年4月に選出されていた。

次回選挙は20年4月。

――確かに、政権発足時から少数与党と協治の問題はずっと指摘されていた。

政権発足直後、政府や与党内には「『ろうそくデモ』の勢いもあるから、自由韓国党も無理できないだろう」との見通しがあったようだ。

例えば、朴槿恵大統領弾劾の時に当時の与党が分裂した点などを根拠にしたものと考えられる。

国民の世論に自由韓国党は抗えないという視点だ。しかしこれは、楽観的すぎる考えだった。

大統領選当時、文在寅候補の選対では自由韓国党との連立を議論する人たちもいた。

だが結局、強硬派が青瓦台の政務ラインを掌握し、これが今まで続いている。結果として、この戦略が失敗した。

――経済政策自体に問題があったのか、政策の実現方法に問題があったのか。

そもそも経済政策が短期間で成果となって現れるのは難しいとの指摘もある。

また、現在の経済状況を不平等の問題と捉える人もいる反面、単純に稼ぎが減って不満を持つ人もいる。

誰に聞いても「景気がいい」と返事する人はいない(笑)。

確かに、経済政策の問題で「満足する」と答える人はいない(笑)。

文政権の経済政策において世論が悪いのは「青瓦台のメッセージがまとまっていない」点も大きい。

政府は「所得主導成長で国民の生活がよくなる」という言葉を簡単に発してはいけない。実現しない場合、国民は「騙された」と感じるからだ。

「この方向が正しい」といった、「価値」を中心に国民の同意を得る努力が必要だった。

経済の成果を担保するには不確定要素が多すぎる。最低賃金だけが上昇する場合、副作用が多いのは火を見るより明らかだ。

立法手段を統制できない中で「賃金だけ上げれば大丈夫」というアプローチは安易にすぎた。

「所得主導成長」と同時に、「革新的な成長」や「公正な成長」が実現し、これを支える福祉政策があってこそ効果があるのは常識だ。

だからこそ、問題は「政策手段の失敗」であるといえる。

経済政策は政府の選択であり、その成果をわずか1~2年で即断することはできない。

ただ、それを実現する手段を政府が十分に活用しているのか、正しいメッセージを政府が発しているのかという点では失敗している。

不動産対策にしても、政府は安易に「良くなる」という言葉を繰り返した。

国民に同意を得て納得させる過程が必要だった。行政だけでは対応しきれず、結果的に国民は「裏切られた」と思うようになる。

――状況は悪いように思える。今後、政府や与党はどうすればよいのか。

「プランA」がダメなら別の「プランB」が無ければならない。

話を少し戻すと、例えば政権初期に連立を試した上で、「自由韓国党があまりに強硬で改革が進まない」と国民に説明し、世論の力を借りて押すというのは可能だったはずだ。これならば(改革を求める)国民を説得することができる。

だが今になって、(政府や与党から)手を差し出しても、その手を野党が握るはずがない。つまり、プランBが無い状況になってしまった。

最初から青瓦台の選択が間違っていた。政権序盤に連立を提案しておくべきだった。

今夏の連立の提案も盛り上がらなかったのは、支持率が低下していたからだ。そんな話に乗る野党はいない。

――重要な機会を逃してしまったということか。

今後、青瓦台が進めようとする改革は、ほとんどが実現不可能になったと見る他にない。

――それでも青瓦台にできることは?

今の韓国の政治制度をひと言で表現すると、「大統領が国会ときちんと話をしなければならない」というものだ。それが不可能な場合、できることは何もない。

「帝王的大統領」というのは、与党が多数の時に可能なことだ。

今の状況は大統領や与党の独走を阻む、理想的な政治状況と表現することもできる。

与えられたシステムの中で最善を尽くす必要がある。国会との協力無しには、何も実現しないシステムになっている。

それをしたくなければ(法案通過に必要な)180議席を単独で取るしかない。

――自由韓国党には「非協力的」や、朴槿恵政権時代を総括できていないイメージがある。

このため、20年4月の総選挙で、与党が180席を確保できるとの見方もあるが。

その可能性は低い。総選挙はまだ遠い。

さらに、「このまま行く場合、来年19年第3四半期の経済統計が非常に悪くなる」と多くの専門家が予測している。

この数値を見て有権者は投票先を決めるだろう。簡単ではない。

――それでも文在寅大統領はまだ、過去の大統領と比べると最も高い人気がある。最後に、それでも今後、文政権が挽回するためにできることは。

韓国の政治レベルはとても高まっている。

過去のように、社会問題において、大統領個人や青瓦台など少数がそれを解決する時代や次元ではもはやない。

その上で考えると、今後、就任する新しい経済副総理(兼企画財政部長官)が、国民に対し経済ビジョンを明確かつ具体的に提示することが大切になる。

政府がこれまで主張してきた、
「所得主導成長」と「革新成長」

、「包容成長」が具体的にどう作動するのか、金利上昇や雇用、成長率などの数値も絡めて未来像を説得しなければならない。

そしてこの案を持って、野党と交渉し、関連法案を年内もしくは来年初頭に通過させる必要がある。だが、いずれも簡単に実現するとは思えない。

▲文政権の正念場

見てきたように、文政権の置かれている状況は一般に認識されているものよりも、遥かに厳しいものと言える。

青瓦台の報道官は今も支持率に対しては「一喜一憂しない」との姿勢を崩さない。

これは正しくない態度だと筆者は見る。社会改革を成し遂げるためには、もっと泥臭く政治を行う必要があるのではないか。

2018年になり、南北関係は大きく改善された。

さらに、来年初頭には米朝間に大きな変化が訪れる可能性もある。だが、それもこれも国内政治の安定があってこそ不可逆的なものになる。

支持率9割で発足した文政権は、わずか1年半で正念場を迎えることとなった。挽回はあるか。(了)