つまり韓国経済は新興国から先進国に移行する途上であり、企業活動が経済全体に及ぼす影響は依然として大きい。
 
サムスンなど大手企業の業績が低迷すると、設備投資が大きく減少するので、景気全体を冷え込ませてしまう
 
日本では企業の経営不振が長く続いているにもかかわらず、国内経済はそれほど壊滅的な打撃を受けていない。
 
その理由は、企業活動とは直接関係しない、層の厚い消費経済が確立しているからである。
 
日本の製造業はすでに衰退フェーズに入っているわけだが、これが逆に景気のバッファになっているのだ。
 
日本がこうした消費経済の恩恵を享受できるのは、長年かけて資本の蓄積を行ってきたからである。
 
過去20年を取っても日本は累積で約280兆円の経常黒字の蓄積がある。
 
韓国は最近ではかなり金額が伸びてきているが、同じ期間で58兆円程度の蓄積しかない。
 
経常収支は赤字・黒字という表現をするので国の儲けと認識している人も多いが、お金の出入りを示しているだけで、経常黒字そのものが国の利益につながっているわけではない。
 
だが日本や韓国のような加工貿易を中心とした国の場合、輸入の代金や海外への投資に際して必ず外貨が必要となる。
 
豊富な外貨の蓄積があることは、企業活動に極めて有利に働くことになる。
 
韓国はこうした資本蓄積が薄いことから、多くの必要資金を海外からの借り入れに頼っている。
 
こうした資金に対しては金利を支払う必要があるほか、金融システムに異常があると、資金を調達できなくなるリスクを抱える。
 
少なくとも韓国企業はこれまで大きな利益を得てきたので金利の支払いには苦労していないが、問題は資金不足の方である
 
韓国は1997年の通貨危機の際に、国内の決済資金が不足しIMFからの支援を受けている。
 
韓国は日本との間で通貨スワップの協定を結んでいるが、いざという時に資金不足に陥らないようにすることが目的である。
 
サムスン財閥やロッテ財閥はかねてから循環出資と呼ばれる手法を多用し、経営の不透明性が指摘されてきたが、韓国における資金不足は実はこうした経営の不透明性の遠因にもなっている。
 
循環出資とは文字通り、財閥系企業が循環的に相互に出資する形態のことを指している。
 
例えば、サムスン電子はサムスンカードに出資し、サムスンカードはサムスンエバーランドに出資する。
 
サムスンエバーランドはサムスン生命に出資し、そしてサムスン生命はサムスン電子に出資する。
 
こうして一連の出資はグループ企業をグルグルと回り続けることになる。
 
なぜこのような仕組みになっているのかというと、経済全体で十分な資本がなく、各財閥のオーナーが限られた資金力の中でグループ全体を支配するためである。
 
各グループ会社に少しずつ出資しているサムスンのオーナー一族だけが、会社全体に影響力を行使することができるという仕組みだが、これは一種の資本マジックといってよい。
 
ロッテもサムスンと同じような構造になっており、これが近年になって不透明性の温床であるとして批判の的となっている。
 
日本もかつては株式の持ち合いなど、循環出資的な慣習が残っていたが、社会の成熟化とグローバル化の進展で現在ではこうした慣行は急速になくなりつつある。
 
一連の韓国経済に対する不安というのは、韓国が社会の成熟化、経済のグローバル化において未だ途上であることに起因している。
 
近年、グローバルな経済システムに対する否定的な見解を目にする機会が増えているが、日本と韓国の実力差は、日本がいち早く経済のグローバル化を達成したことによって得られたものである。
 
先進国であることとグローバルな経済システムの運営は極めて親和性が高い。
 
日本が強い先進国であり続けることを望むのであれば、こうした現実から目を背けてはならないだろう。