ダイヤモンド・オンライン
トランプの対中強硬策が鮮明化する中、日本は韓国と異なる動きをすべき
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
2020/08/25 06:00
米国は文大統領の姿勢に不信感
最近、米トランプ政権の対中国の強硬姿勢が一段と鮮明化している。その背景には、11月の大統領選挙に向けて、中国に対する強硬策によって点数稼ぎをしたいトランプ氏の思惑などがある。
当面、トランプ政権は対中圧力をさらに強めることが予想される。
それは、世界第1位と2位の経済大国がデカップリングすることを意味する。世界経済にとって無視できないリスクだ。
現在の世界経済は、新型コロナウイルスの感染拡大からの本格的な回復の足取りが明確になっていない。
それに米中対立の先鋭化が加わることは、景気が想定以上に低迷することも懸念される。
そうした米中の対立の中、安全保障などの面で大きく米国に依存するわが国と韓国は、今後、難しい政策のかじ取りが求められることになるだろう。
近時の韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は安全保障を米国に依存する一方で、経済面では中国に接近する姿勢を見せ、さらに外交面では北朝鮮を最優先している。
米国など先進国は、そうした文大統領の“いいとこ取り”の姿勢に不信感を強めているようだ。
長い目で見れば、文大統領のスタンスは自国にとってプラスの影響をもたらすとは限らないだろう。
わが国は米国との関係を基礎にし、是々非々の立場を明確にして国際世論に理解を求める行動を行っていけばよい。そうしたわが国の主張を明確にするためにも、わが国は独自の技術力を使って経済力を高めることが必要になる。
そうすることで、米中など世界から必要とされる存在になることが必須の条件となる。現時点でわが国には競争力の高い分野がある。そうした強みをさらに磨き、高めることによって、わが国は米中対立がもたらす世界経済の環境変化を国益獲得のチャンスにできるはずだ。
対中政策で
点数稼ぎを狙うトランプ大統領
米国は、人権問題や5G通信機器などのIT先端分野、南シナ海などへの進出、新型コロナウイルスのワクチン開発など多くの分野で中国に圧力をかけ、中国の台頭を食い止めようとしている。
トランプ大統領の政策を後押ししているのが米国内の保守派の存在だ。
保守派の中では、オバマ前政権の対中政策が中国の台頭を招いたとの反省の声が強まっている。
それに加え、11月の大統領選挙に向けてトランプ大統領は対中政策で成果を示し、有権者の支持を獲得することを狙っている。
現在、世論調査では民主党のバイデン候補の後塵を拝しているトランプ氏は、イスラエルとUAEの国交正常化を仲介したと成果を誇示している。
ただ、イスラエルとUAEはかねてより相応の染色があったことを考えると、今回の米国の仲介の効果は限定的とみられる。
8月12日にはポンペオ国務長官が「中国に対抗するのは旧ソ連よりも難しい」と、米中対立の厳しさに言及した。
その後、チェコの代表団が台湾を訪問することが明らかになったことは、米国が自陣営により多くの国を引き込み、対中包囲網を強化していることを意味する。
13日にトランプ政権は、通信大手ファーウェイとZTE、監視カメラ大手のハイクビジョンなど中国5社と取引する企業が政府機関と契約することを禁止した。
それに加えて、17日に米商務省はファーウェイへの禁輸措置を強化し、米国の技術やソフトウェアを用いた半導体供給網を事実上遮断した。トランプ政権はバイトダンスやテンセントに加え、アリババ・グループへの措置も検討している。
対中姿勢の強硬化は、米共和党が対中制裁に関してトランプ大統領の姿勢を重視していることを意味する。
中国の習近平国家主席は、米国からの圧力に対抗せざるを得ない。
15日の米中閣僚級協議の延期について、対中強硬姿勢を強める米国と対話はできないと同氏が判断したとの見方がある。
共産党の保守派や長老らにとって米国との協議は敵を利することに映り、習氏への批判が増える可能性がある。
それは、習氏の権力基盤を一段と不安定化させるだろう。当面、米中の対立は先鋭化する可能性が高い。
米中の対立と
韓国に対する国際世論の変化
本来、韓国は米国との安全保障をしっかりと固め、それを基礎に国内の社会・経済運営を行うことが常識的な政策運営だろう。
しかし、文氏は経済面で中国への接近を明確にしている。
また、同氏は、米中対立に伴い主要国の会議に参加できることを、「韓国は世界の主要国に仲間入りした」と都合の良い主張をしている。
そうした文大統領の姿勢に国際世論が不信感を強め始めているようだ。
特に、米国の懸念は強い。米国はWTOの会合において同盟国である韓国の主張に異を唱えた。
米国が同盟国に明確に反対するのは見たことがない。
WTO会合では米国の主張への目立った反論も出なかった。
それは、国際社会が韓国から距離を取り始めたことと言い換えられる。
ワシントンDCに拠点を置くシンクタンクは米韓関係が深刻な問題を抱えていると、文政権の姿勢に関してかなり厳しい見解を示している。
一方、現在の中国にも、韓国を本格的に政策運営の相手とする余裕はないように見える。
中韓関係は、韓国が中国に輸出し需要を取り込む構図から、中国企業が半導体を中心に韓国企業を追い上げる構図に変質し始めている。
共産党政権は、米国の制裁強化に対応するために半導体の自給率向上に向けた補助金政策などを強化している。
それによって共産党政権は“中国製造2025”をより強く推進し、半導体をはじめIT先端技術の自給率を高めたい。
それは中国が、国家資本主義体制を強化して経済成長を目指すことを意味する。一部では、ファーウェイがサムスン電子を飲み込む可能性を指摘する向きもある。
それに加えて、文大統領が重視した北朝鮮との宥和政策もうまくいかなくなった。
国内では不動産価格の高騰に世論が不満を募らせている。
同氏は、わが国の輸出規制に打ち勝ち、韓国を飛躍させたと自画自賛しているが、依然としてレジストなどの半導体材料を韓国はわが国に頼っている。
理念を欠き、事実を冷静に受け止めることのできない文大統領の下、韓国が米中対立の先鋭化に対応することは一段と難しくなるだろう。
その状況下、文政権が世論の批判を避けようとより厳しい対日強硬姿勢をとる可能性は軽視できない。
わが国は技術先進国として
米中対立に対応すべき
米中対立に関して、米国に安全保障を頼るわが国の選択肢はそう多くない。
現実的な対応を考えると、まず、わが国は安全保障面で米国との関係を強化する。
その上で、わが国は、自由資本主義体制に基づく経済連携の強化などの是は是、中国の人権問題や知的財産の侵害など非は非と“是々非々”の立場を明確にすべきだ。
それが、アジア新興国や欧州各国との関係を強化し、国際世論を味方につけることにつながるだろう。
足許、政府がアセアン諸国や米欧各国との関係強化に動いていることは、そうした考えの表れだ。
国際世論との連携はわが国が元徴用工問題などに関して韓国に冷静かつ現実的な対応を求めるためにも重要だ。
それに加えて、わが国は独自の要素を用いてIT、医療、インフラなどの分野で最先端の技術や、微細かつ高品質の素材を生み出さなければならない。
AIなどソフトウェア開発面での中国の成長力は高い。
ただし、中国は最先端の半導体製造装置などを日米欧に依存している。韓国も同様だ。
わが国は先端分野で新しい技術を生み出し、米中から必要とされる存在を目指さすべきだ。
特に、わが国の経済運営において中国の重要性は増す。
人口の減少によってわが国経済は縮小均衡に向かう。
それに加えて、コロナショックによってわが国がIT後進国であり有望な成長分野を持たないことが明確になった。
わが国が経済の安定を目指すためには、民間レベルを中心に中国と適切な関係を築き、世界最大の消費市場へのアクセスを確立する必要がある。
そのために、中国から必要とされる技術を創出することはわが国にとって有効な方策だ。
また、わが国が米国の知的財産などに頼らずに新しい技術などを生み出すことができれば、米国の意向に配慮しつつも自国の事情への理解を得やすくなるだろう。
先端分野での技術先進国を目指すことがわが国の国力を左右するといっても過言ではない。
そのためには、政府が規制緩和などの構造改革を積極的に進めて民間の研究開発体制や産学連携を強化し、最先端の技術開発を支援することが不可欠だ。
長い目で考えると、技術先進国としての地位を確立することが、わが国が自力で国力を維持・強化し、社会と経済の安定を目指すことに合致するだろう。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)