ちょうどいいものを探していて、旅行用品の中から紫のポーチを手に取った。
これは亡くなった母のものだった。
バッグに入れて持ち運ぶようなかわいいポーチ。
センスのよい人だったので、紫の、といってもばばくさくない。
飛ぶ鳥の小さな刺繍がついた、北欧の色合い。
もう立つこともできなくなった母を連れて最後に大阪の叔母のところへ、そして弟と合流して、母が会いたがった弥勒菩薩と阿修羅を訪ねて奈良へ旅行した。
呼吸器やミキサーや車椅子を持って、新幹線は特別な個室を予約して。
すごいねえらいね、って叔母に言われたけど、楽しいししあわせだと思ってニコニコしていた。
泊めてもらった叔母の家で何かを探していて母の荷物から出したこの小物入れを開けた時その時だけ、不意をつかれて口が聞けなくなった。
足も目も不自由なのに、この旅行のため一生懸命準備しただろう細かいものたちがポーチに詰め込まれていた。
どんなに、どんなに楽しみだったか。
それが伝わってきて、その旅でその時、たった一度だけ泣いた。
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