


新しい商売を始めました。
朝がた、まだ眠りと夢の領域から抜けきっていない時にそれが口をついて出てきました。
「海と島か山とお茶」
「いや、海か山と島とお茶、かな?」
「頭文字?をとると、うしやちゃ、それか、うやしちゃ…」
どうやらお客さんとふたりで海か山か江ノ島をお散歩したり景色を眺めたりお茶したりして一日を過ごす商売です。
何もしないでのんびり過ごして、話したいことだけ話し、気が向いたらお茶をする。
特別なサービスはありませんが、ひょっとすると(お客さんが望んでいればですが)探し物がみつかるかも。
探し物とは。
砂浜の貝殻でしょうか。
心の死角に隠れて見つけられるのを待っていた本音でしょうか。
さあ、それは。
やってみないと、わからないかな。

その後、カボチャくんはしばらく何も考えられずにうずくまっていました。
伸ばしたつるが傷ついた以上に、嘲りを受けた心が痛かったからです。
カボチャくんにはわけがわかりませんでした。
なぜお日さまに向かううれしい心のままに伸ばしたつるを咎められなくてはいけないのでしょう。
昼が過ぎて日が暮れて夜が訪れまた夜が明けました。それがなんど繰り返したでしょう。
なんでですか?
カボチャくんは誰にともわからず聞きました。
なんで伸ばしてはいけないのですか?
すると静かな深い藍色の夜の底で、星からのささやきのように誰かが答える声が聞こえました。
伸ばしてごらん
伸ばしたら時には踏まれたりちぎれたりするだろう
だけど
伸ばしてごらん
それきり声は聞こえませんでしたが、カボチャくんの心は慰められしずかになりました。
それから何日かぼんやりと休んだ後、ひとつ大きく息をつきました。
さあ
伸ばしてみよう
何かあるかもしれない
痛い目にあったりするかもしれない
だけど伸ばしてみよう
どこまでもどこまでも
気持ちが済むまで伸ばしてみよう
もうどんなことがあっても、何を言われてもかまわないという心地になりました。
そしてどこまでもどこまでも
そのつるを伸ばしていきました。

どの子らもいつか光に包まれよ盗んだ声を目印にして
あの店でまた集まろう不器用は不器用のままそれでいいから
夜の底で君を救ったフゲに住む冴えない大人にいつかなりたい
