さあ帰ろうとコートをつかんだ時、モニターに映った彼女に気がついて会議場の重いドアを押し最後列の席についた。
その日手伝っていた国際会議の受付で、コートを脱いであらわれた薔薇色のワンピースが素敵だったので、素敵ですね、ありがとうと笑みを交わした人が壇上で話し始めたところだった。
これだけ聞いてから帰ろう。
この日のお題は宇宙とジェンダー(子育て)そして国際宇宙大学。
(そんなのあるって知ってましたか、私は知りませんでした)
なんとですね、彼女は子供が11人いる!
「みんな私が産んだ子どもです。
ええ、みんな同じ父親。
そのうち8人が女の子。
11人産んでから、ハーバードの大学院に行きました。
自宅にはまだ小さい子どもたちが4人。
留守中の子守代も学費も3000キロも離れている大学への航空運賃もない。
でも相談した相手がその時の私に必要なことを言ってくれました。
やろうかやめようかどうしようかではないのよ、アリソン。
どうやって実現させるかよ、と。
結局全て奨学金でまかなうことができました。
大学は週に一度飛行機で通って卒業しました。
その後国際宇宙大学で人生最良の時を過ごし、NASAで働き、クロアチアの宇宙省の立ち上げを手伝い、本を書き、もっと社会に貢献したくてアスリートを育てる組織を作りました。
たくさんの子どもたち、たくさんの女の子たちがオリンピックに行けるように」
ふかふかの椅子の上、私は喜んで手を叩いた。
なんて愉快、なんてパワフル。
「やりたいことをあきらめないで。
何にも邪魔をさせないで」
帰り道、銀杏の葉を踏みながら歩く私の口元はまだ笑っている。
いいなあ、アリソン・ルノー。
ルーク・スカイウォーカーみたいな、バズ・ライトイヤーみたいな。
ぴかっと光るスターだね。
私はどうかな。
ハーバードには行きたくないなあ。
家を片付けたい(悲願)
自分に与えられた仕事と、大切な人たち。
もっと丁寧に。
子どもたちや夫と笑いながら暮らしたい。
そうだね、それに他にも野望が浮かんだら大切にする。
わくわくしてきた。
私もがんばる、アリソン・ルノー。