切明千枝子さん

　千枝子さんは動物が好きだったから、港から戦地に送られる馬をいつも見ていた。遠浅の海をクレーンで吊り上げられて船に乗せられた馬たちは、聞いたことのない鳴き声をあげたのだと言う。
　原爆が落とされて戦争が終わって運のよかった兵隊さんたちがボロボロになって帰ってきた。動物たちも帰ってきただろうか。馬は犬は鳩は、一頭も一匹も一羽も帰って来なかった。
　どこかの地でしあわせに暮らしているのならいいなあと思ったけれど、きっとみんな食べられたんでしょう、と千枝子さんは言った。

　神妙に聞いていたヨーロッパの学生が質問した。そのような辛い体験をどのように乗り越えられたのですか。

　答えは思いがけず軽やかなものだった。

　音楽です。戦後間もなく聞いた諏訪根自子さんのバイオリンのリサイタル、ツィゴイネルワイゼン、そしてG線上のアリア。こんなに美しいものがこの世にあるなら、もっと生きてみようかと思ったのです。

　また別の学生が質問した。

語ることは辛くはないですか。

　私はずっと忘れたいと口を閉ざしていました。重くて辛くて体も壊して。８０になった時ふと私はそのために生きながらえているのではと感じて、初めて自分の口から語ることを始めたのです。語るたびほんの少しだけ重荷はみなさんに分けられていくようで。

　今私は健康になりました。

　私のすぐ隣で語る千枝子さんは、８７才とは思えないほど強く深く澄み渡る知性の泉だった。
　そのことばは私たちの存在する次元より一段深いところから響いてくるようだった。

　どこまでも広がっていく同心円の波紋のように、千枝子さんの声も届くといいなあと思う。



https://m.youtube.com/watch?v=TbqFd1EDqTo

バランス

視点、ってすごいなと思った。

細かなことは何も説明されなくても、近くに違う視点が存在するだけで自動的に自分のものが修正されていく。

より広く、よりバランスのとれたものに。

Aに対してバランスをとるものはA'でも
反Aでもなく

A対A'を、見る視点
AやA'や反Aを、視野に入れること

ヤドカリの祝福

波打ち際で引いていく波に押されて、ころころ転がる小さなヤドカリたち。

強く惹かれてじっと見てしまう。

ヤドカリたちにとって波はデフォルトだから、どんなに転がされても慌てることはない。

抵抗はせず、かと言って諦めるのではなくちゃんと足は動いている。

流されて、波の力が緩まったらまた歩いて。

そのどうってことない風がいいなと思った。

大騒ぎしないところが。

上から眺めるのは、ちょっと神の視点。

ヤドカリたちがいる限り、この世に存在する意義はあるね。

ヤドカリたちに祝福がありますよう。

ムスメニウム

いつも楽しくつきあいのいい娘、てい子から、私はかなりのイキルヨロコビを受け取っている。

駅まで迎えにきてーって家に電話したら、ぐうぐう眠ってるパパの代わりに私が迎えに行こうか？って。
（えーっと、あなた運転できないよね？）

しばらく待ってたら（よく考えたら待ってる必要なかった、歩いていけばよかった）キックスケーターで娘がやってきた。

コンビニで２人でアイスを選んで、風に吹かれながらベンチで食べて、おしゃべりしながらぶらぶら帰った。

空がきれいな日は一緒に海まで見に行く。

もう少ししたら母となんて遊ばなくなってしまうかな。

今のうち、ね。

業務連絡

今
学んでいなかったら
学ぼうとした方がいい

そうしないといけないということじゃなくて
もったいないから

学びは外ではなくて中にあって
学ぶことはエンドレスだから

えーと
語学を学ぶとかそういうことじゃなくてね
気持ちというか、体勢というか

（自分に業務連絡）