キュウシュウの落とし穴
本州(兵庫県産)と、九州(熊本県産)のオニクワガタが羽化しました。
どちらの個体群も野外個体からの子供です。
↓ 左:熊本県産 右:兵庫県産
現在、オニクワガタは2つの亜種に整理されています。
オニクワガタ Prismognathus angularis angularis Waterhouse,1874
分布:北海道・利尻島・本州・四国・九州(中北部)・佐渡・サハリン
キュウシュウオニクワガタ Prismognathus angularis morimotoi Y.Kurosawa,1975
分布:九州(南部)
原名亜種と九州南部亜種との違い
オス:大アゴの先端の向き・頭部側縁前方の角ばりや側方のくびれ・前胸背板後角の形状など
メス:九州南部亜種のほうが上翅の縦線はより強い
*屋久島の個体群は大図鑑(1994)でオニクワガタの亜種に降格したが
大図鑑(2010)で原記載時の扱い(独立種)に戻された
ヤクシマオニクワガタ Prismognathus tokui Y.Kurosawa,1975,stat.rev.
今回私が飼育した九州のオニクワガタは熊本県産で
「キュウシュウオニ」として幼虫販売(野外個体からの子供)されていたものですが
羽化した新成虫は、本州と同じオニクワガタ原名亜種でした。
↓ オニクワガタ 左:熊本県産 右:兵庫県産
九州中部に位置する熊本県地方は
原名亜種の分布域とされるためこの結果は妥当でしたが
原名亜種(オニクワガタ)が、九州亜種(キュウシュウオニ)として
流通していた事実は問題です。
九州で採れたオニクワだから「キュウシュウオニ」というわけではないのです。
2亜種が分布する九州では分布の境界線がよくわかっておらず
更に大アゴの個体変異という絡みもあり、単純ではありません。
↓ 白抜き部が熊本県の産地 出典:Googleマップ
↓ どちらも熊本県産のメス
↓ オニクワガタ 左:熊本県産 右:兵庫県産
オニクワ羽化までの期間
管理温度:夏期24度前後〜冬季15度前後
昨年の8月16日に産卵セットを組み(野外個体)
2週間後(9月4日)には初齢幼虫を確認しました。
そして、今年の5月24日にマット上に静止する2オスを発見。
卵から羽化して活動を始めるまでに要した時間はおおよそ9ヶ月でした。
↓ 採集〜飼育過程の記事
↓ 容器底部に見える蛹室(兵庫県産 2023.5.30)
↓ 兵庫県産 2023.5.24
↓ マット内で羽化していた熊本県産メス 2023.6.2
↓ 熊本県産
蛹室から出てきたオニクワガタのオスはマット上でメスを待ち伏せします。
複数のオスによるメスの争奪戦となると、さながらオニクワ団子のように見えます。
活動は昼間より、夜間が活発です。
↓ 間隔をあけて待機?する新成虫のオス(兵庫県産)
↓ メスの争奪戦
↓ オニクワ団子
最後に
野外での生態観察は難しいオニクワガタですが、飼育することで少し知見が広がりました。
また、タイトルにした「キュウシュウ」については、産地と形に注意が必要です。
今年は可能な限り南の個体を手にしたいです。
参考文献
黒澤良彦監修・岡島秀治・山口進共著,1988,検索入門クワガタムシ,株式会社保育者.
藤田宏,2010.世界のクワガタムシ大図鑑6,むし社.
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