ニュースで濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」がカンヌ映画祭で
上映されたことを知った。
原作者は村上春樹である。「女のいない男たち」という短編ばかり集めたもののなかに
「ドライブ・マイ・カー」が入っていて文庫本で発売されたときに読んだ。
主人公が仕事の必要から運転手を雇うことになり、一風変わった個性のしかも女性の
運転手を雇うことになったところから話は始まってゆく。題名からしてもこの女性
ドライバーの話かと思いきやそうではなかった。
主人公の舞台俳優の男は二十年近く連れ添った妻を癌で亡くした。
生前の妻には他に付き合っていた男がいた。
俳優は何故その男が妻と付き合うようになったか知りたくなった。
男のことを知るようなってから彼がそれほどひどい男だとは思わなくなってゆく。
俳優の良さは他人になれることであるという。
男とバーで酒を飲むときは別の人格の人間になっている。
しかしながらいくら良い人でも妻と寝た男なら許せないだろうし、仕返しだって
したくなるのが普通なハズである。
終わりに近くなって女性運転手がいとも簡単にこう言う。
「奥さんはその人に、心なんて惹かれてなかったんじゃないですか。だから
寝たんです」と。
亡き妻の記憶を辿ろうとする男。何故妻は別の男と深く付き合うようになったのか。
いくら考えても妻が亡くなった今となっては謎は永遠に閉ざされたままだ。