夏休み企画と銘打っての展覧会である。出だしは、歌川広重の「東海道53次」の浮世絵版画である。浮世絵としては広重だけの展示だが、浮世絵をこれだけまとめて観るのは、クラクフ(ポーランド)の日本美術技術センター“Manggha”で観たとき以来である。
広重の空間構成の妙ときわめて高度な版画技術には感心するものの、何かにつけて見慣れているせいか、とくに新しい感動というものはあまりなかった。
順路案内に従って観ていったが、どうも私自身は「夏休みの旅行」という気分にはなれなかった。想像力が十分に働かなかったのだろう。旅の楽しみは味わえなかったが、それぞれの絵を観る楽しさは十分に味わえた。
奥村土牛《鳴門》1959年、紙本・彩色、128.5×160.5 cm [1]。
広重の《阿波鳴門之風景(雪月花之内 花)》もあったが、もっと印象に残ったのは、奥村土牛の《鳴門》である。
激しいはずの渦潮が、静謐な美しさで溢れている。音のない世界で、波立つ海がが発光しているようだ。
光といえば、同じ土牛の《輪島の夕照》も良かった。夕照という条件もあるだろうが、土牛の風景画としては濃い色彩で描かれている。
奥村土牛《輪島の夕照》1974年、紙本・彩色、64.5×91.4 cm [2]。
「東海道からパリまで」のパリの絵では、やはり佐伯祐三の2点の絵が圧倒的であった。《クラマール》と《レストラン(オ・レヴェイユ・マタン)》である。
後者は展覧会のパンフレットにも掲載されていて評価が高いのかも知れないが、哀愁を帯びたその色調(少し感傷的な感じがする)よりも、「クラマール」の迫力ある構図の方が、私は好きだ。
いつか、佐伯祐三の絵をまとめて観る機会があればよいのだが。
佐伯祐三《クラマール》1925年、カンヴァス・油彩、59.0×71.5 cm [3]。
佐伯祐三《レストラン(オ・レヴェイユ・マタン)》1927年、カンヴァス・油彩、59.3×72.0 cm [4]。
[1] 『山種美術館所蔵 奥村土牛作品集』(山種美術館、2010年)p. 50。
[2] 同上、p. 64。
[3] 『ザ・ベスト・オブ・山種コレクション』(山種美術館、2011年)p. 197。
[4] 同上、p. 197。