《2016年1月31日》
チェルノブイリ事故では事故発生から5年目に甲状腺がんの発生が急増している。福島事故から間もなく5年が過ぎようとしている。福島で被曝した人々、とくに子供たちの甲状腺がんの多発が心配されており、現時点での発症数そのものが多発傾向にあるとする報告もある。
それに対して、あいかわらず、多発してはいないし、放射線の影響は考えられないと「何もなかった主義」の行政や行政サイドの専門家は主張し続けている。いずれ結果が明らかになることだが、最悪の場合は何もせずに甲状腺がん(ばかりではないが)の多発を座して待つことで、多くの人を犠牲にする可能性がある。
そうした心配が単なる杞憂に過ぎないとする論調の中で、福島事故による放射線被曝がチェルノブイリと比べればとても低いので心配することはないのだという言説がある。しかし、私には原発事故後の混乱した状態の中で人々の被曝量をきちんと測定していたとはとても考えられない。
実際、多くの避難者の被曝量検査がじつにいい加減になされていた事実が『見捨てられた初期被曝』 [1] で明らかにされている。甲状腺がんは半減期が8日と短いヨウ素131の内部被爆によるので、初期被曝量がきわめて重要である。その初期被爆の検査がいい加減に進められていたという事実を科学的検証も含めて明らかにした本である。
著者は「study2007」というツィッターアカウントを筆名として用いているが、原子核物理学者という職業上、放射線取扱業務や職場の放射線作業の安全管理にたずさわっていた様子がうかがえる方である。
私もまた、放射線取扱主任者(第1種)の資格で一時は職場の安全管理業務を担当していたことがあるので、書かれていることはよく理解できるし、信じられる。いくぶん科学的知識を要する個所もあるが、事故後の混乱期の中でいかに行政(行政サイドの医学者も)が福島県民の健康を守ることよりも行政手続きを優先していったかが手に取るようにわかる本である。
[1] study2007『見捨てられた初期被爆』(岩波書店、2015年)。
《2016年5月6日》
かつて、5月の連休には犬連れで山に行くのがならいだった。仙台近郊の山々の山開きの季節で、冬山の装備なしで登れるようになる時期でもある。山登りにも行ったが、山菜取りは連休中の欠かせない行事だった。
しかし、福島の原発事故が起きてからは秋のキノコともども山菜をいっさい諦めてしまった。川の魚も源流部のイワナの放射能汚染が一番激しくて、宮城県では鳴瀬川流域や海岸近くの小河川を除けば、禁漁(法規制による出荷禁止)になっている。山歩きもかねてイワナが生息するほどの山奥に山菜取りに行っていた私としては諦めざるをえないのだった。
つい最近、栃木県産のコシアブラに2200Bq/kgの放射性セシウムが検出されたというニュースがあった(5月7日付の下野新聞)。
県環境森林部は6日、栃木市西方町元の道の駅「にしかた」の農産物直売所で販売された山菜のコシアブラから、国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されたと発表した。県内の出荷制限区域で採れた野生のコシアブラを、県内の個人2人が出荷制限のない栃木市産と壬生町産 と偽って販売していた。県は食品表示法違反などの疑いで2人を調査している。
同部によると、厚生労働省が4月25日に抜き打ちで2パックを買い取り検査し判明した。一つは1キログラム当たり1600ベクレル、もう一つから は2200ベクレルを検出。県が販売者2人から事情を聴いたところ、出荷制限区域のコシアブラを交ぜて販売したことを認めたという。これまでに84パック が販売され、道の駅が自主回収している。
2200Bqという高濃度汚染にも驚くが、出荷制限を指示されていた産地のものを偽装していたという悪質さである。それも、たまたまの抜き打ち検査で偶然に見つかったにすぎず、ほとんどの山菜は検査されずに市場に出回っているのだ。こういう状況では風評被害などと呼んですますことはできない。
宮城県でも農産品の検査をしていて、200~300Bqのコシアブラが見つかっている。汚染されている地区もバラバラで、狭い地区ごとに丁寧に検査しない限り安心できる状態にはない。県の検査は市場に出す産品にかぎられるので、自分で山菜取りに出かける人は、自主的に検査をしなければ安全な山菜を食べることは難しいのだ。
コシアブラについては、もうひとつ話題があった。妻はときどき友人がやっている保育所の手伝いに行くのだが、そこでコシアブラを頂いたのだが断って来たと悩まし気な顔で帰って来たのだった。
そこで、宮城県産の山菜やキノコの汚染検査の結果などをプリントして妻が保育所に持って行った。ついでに、私が2年前にキノコの放射能汚染について書いた文章もコピーして持って行った。妻の友人は、それらを保育所内に掲示するということだ。
2年前の私の文章は、次のようなものである。少し長いがそっくり引用しておく。
キノコも含め、食べ物の放射能汚染に関しては、国の規制値100Bq/kgを越えたものは出荷販売してはならないことになっています。しかし、市場に出回っている食品すべての放射能量が量られているわけではありません。 仙台市に「小さな花 市民の放射能測定室」という個人ボランティアでいろんなものの放射能汚染を測定している施設があります。そこの2014年3月23日付けの報告にサクラシメジの実測がありました。
サクラシメジ 仙台市太白区
生 セシウム合算 641.31ベクレル
乾燥 5361.85ベクレル
いずれも6倍、53倍基準越え
恐るべき汚染量です。ところが、仙台三越で地元産のサクラシメジが売られていたのです。当然ながら国の規制値を越えていました。以下はNHKの報道内容です。
「仙台市の仙台三越で、14日から販売された野生のきのこ“さくらしめじ”から、基準を超える放射性セシウムが検出されたとして、仙台三越は、この きのこの自主回収を始めました。
仙台市で採れた別の野生のきのこでも基準を超えていたとして、宮城県は仙台市産の野生のきのこの出荷を自粛するよう要請しました。
自主回収されているのは仙台三越の食品売り場“いたおろし”で、14日から16日まで販売された野生のきのこ“さくらしめじ”です。 17日に、厚生労働省が販売されている商品を抜き打ちで検査したところ、基準を超える放射性セシウムが検出されたということです。
宮城県の林業振興課によりますと、県は、基準を超える食品が市場に出ないように流通前の農林水産物をサンプル検査しているということですが、野生のきのこは種類が多いことなどから「基準を超える商品が流通する可能性を把握しきれなかった」としています。
これを受けて、宮城県は、仙台市で採れた別の野生のきのこを検査し、2種類のきのこから基準を超える放射性セシウムが検出されたということで、県は、22日付けで、仙台市産のすべての野生のきのこの出荷を自粛するよう生産者などに要請しました。」
こんなふうに規制値を超える放射能汚染食品が世間に出回っているのは間違いありません。最低でも南東北、関東、中部の一部の天然キノコは避けたほうがいいようです(きちんと放射能を測定して安全が確認されたものは別ですが)。
それと、このニュースで注意すべきことは、どれぐらいの放射能だったのか数値が伏せられていることです。放射能に関しては、いつもこのようにできるだけ隠蔽しようとする力が作用しているようです。そのため、消費者が情報を入手することが難しくて、自己防衛がままならないということになっています。
また、三越が発表した「お詫びとお知らせ」の中に「なお、喫食された場合も直接健康被害に結びつくことはございません」という一文がありました。確かに他の毒物と違って、この程度の量ですぐ身体に異変が出ることはないでしょう。ただし、他の毒物と違う最大の特徴は、放射線による体内被曝によって細胞内の遺伝子が傷つけられ、遠い将来、白血病などの癌(悪性新生物)が発生する可能性は残るのです(もちろんほかの障害も起きる可能性があります)。
原発事故以来、「直ちに健康被害はない」という言葉をよく聞きますが、これは「直ちに健康被害はないが、将来のことは知らない」という意味に解釈しなければなりません。
私は、東北大学工学部原子核工学科で大学院修士課程まで原子力工学を学び、「第一種放射線取扱主任者」の資格も持ち、一時期は職場で放射線作業の安全管理業務を担当したことのある人間として、現状の放射線に関するいい加減な扱いに本当に心を痛めています。
街歩きや山登り……徘徊の記録のブログ
山行・水行・書筺(小野寺秀也)
日々のささやかなことのブログ
ヌードルランチ、ときどき花と犬、そして猫