天皇誕生日の金曜日。
クリスマス寒波が襲来していた。
日差しはあるものの、風は身を切るように冷たい。気温も一向に上がらないような一日だった。
その電話は、僕とBELAちゃんが車で買出しにいっているときに入ってきた。
「あのぉ、僕だけど。」
「うん? Mクン(我が家の次男坊)どーしたの?」
電話で応対するBELAちゃん、だんだん声のトーンに驚きや呆れた感じがでてきて、最後にため息ついて「わかった、そのまま待ってて」と言った。
僕はハンドルを握っている最中だったので、電話には加わることができず、ひたすらBELAちゃんの報告を待つだけだった。
「Mクンねぇ、公園でブランコにはさまっちゃったんだって。」
「・・・? はぁ?」
「ジャンパーのすそがブランコにはさまってって動けないんだって。」
「はぁ・・・。」
さきほどのBELAちゃんの呆れたトーンの意味がやっと判った。
「・・・この寒空じゃあなぁ。急いで向かいますか。」ハンドルを切って交差点に向かった。
公園に到着したのはそれから10分以上経った頃。
なるほど、公園のブランコにたった一人、小さな男の子がいた。
冬枯れの芝生。だれもいない公園。その真ん中にぽつんと一人。ブランコにまたがって背中を丸めている。
こういう情景を見ると、やっぱり人様の親たるもの、自然と駆け足になってしまう。
「Mクン! 待たせてゴメンね。寒かった?」
「うん・・・」
そりゃ寒かったろう。一緒に遊んでいたお友達も先に帰ってしまって、たった一人で冷たい風にさらされていたのだ。
Mクンのジャンパーはブランコの鎖の輪っかにがっちり噛んでいた。
「いま外してやるからな。」
ところがこれがハンパじゃなく奥まで噛んでいてびくともしない。
ジャンパーには鎖のサビがこびりつきあちこち茶色くなっている。
「切っちゃおうか」
「ええー!」
切っちゃったら、この寒空に着るものがなくなっちゃう。Mクンは自転車で来ているから、どうしても帰りは防寒対策の整った条件にしなくちゃいけない。
「だって、こままじゃあどんどん身体が冷えていくよ!」
そりゃ大変だ。
ぐいぐい裾をひっぱる。角度を変えて引っ張ってみる。BELAちゃんはMクンを背中から抱きしめて、僕は地面にヒザをついていろいろ試している。遠くから見たら、何をしているように見えるのだろう?
努力の甲斐も空しく変化はなかった。ジャンパーは鎖にがっちり噛んだまま。
「やっぱり切ろう。」
BELAちゃんは近くのママ友に電話。しかし留守電・・・。
「私、交番に行って万能はさみでも借りてくる。」
BELAちゃんは駆け出した。
わぁ・・・、やっぱり切るのスか?
それよりMクン、そろそろ限界だよなぁ。
「Mクン、ジャンパー脱ごう。そんでもって車まで走ろう。車の中なら日光であったかいから、ここよりいいよ。」
この寒い中でジャンパーを脱がすのはかわいそうだけど、このままにしておくのは、もっとかわいそうなこと。僕は思い切ってジャンパーを脱がせた。そしてMクンを横抱きにして車へ走った。
「急いで中入って! あ、ブランケット二つあるでしょ? 肩と膝にかけるの!
そうそう。暖かいでしょ。うん、じっとしててね。ドア閉めるぞ。」
僕は車のドアを閉めると、またブランコに戻った。
不思議と生身の人間がぶら下がっているジャンパーだと引っ張る力にも遠慮があったかもしれない。その証拠に、人間が着ていない状態のジャンパーだと引っ張る力にも割り増しパワーが掛かり、裾は鎖からブチっとぬけた。
ふう
ジャンパーの裾はすっかり茶色く汚れ、生地は変によれていて元に戻らない。でも無いよりはましなのだ。
僕はジャンパーをぶら下げて車に向かった。
そのとき、通りの向こうからパトカーが滑り込んできた。
あれ、あれ。おまわりさん3人も乗っているよ。
パトカーに向かってジャンパーを差し出す。パトカーからBELAちゃんも出てきた。
「ええー取れたのー!!」
「うん、なんとか。」
おまわりさんは笑ってパトカーは走り去った。
すっかりお騒がせをしてしまった呈だ。
あとで訊いたら、BELAちゃんが交番で「なんか刃物かしてください!」と言ったので心配になって三人も乗って来たのではないかという。
挨拶にいかなきゃね・・・。
さっきスーパーで買ったばかりのみかんをより分けて、お詫びのつもりで6個ばかり交番へ届けた。
BELAちゃんはMクンの自転車を押して帰ってくれて、Mクンは車で放菴へ帰った。
いやぁ、とんだ救出劇だったね。
放菴のカウンターにホットミルクが湯気をだしながら並んだ。
クリスマス寒波が襲来していた。
日差しはあるものの、風は身を切るように冷たい。気温も一向に上がらないような一日だった。
その電話は、僕とBELAちゃんが車で買出しにいっているときに入ってきた。
「あのぉ、僕だけど。」
「うん? Mクン(我が家の次男坊)どーしたの?」
電話で応対するBELAちゃん、だんだん声のトーンに驚きや呆れた感じがでてきて、最後にため息ついて「わかった、そのまま待ってて」と言った。
僕はハンドルを握っている最中だったので、電話には加わることができず、ひたすらBELAちゃんの報告を待つだけだった。
「Mクンねぇ、公園でブランコにはさまっちゃったんだって。」
「・・・? はぁ?」
「ジャンパーのすそがブランコにはさまってって動けないんだって。」
「はぁ・・・。」
さきほどのBELAちゃんの呆れたトーンの意味がやっと判った。
「・・・この寒空じゃあなぁ。急いで向かいますか。」ハンドルを切って交差点に向かった。
公園に到着したのはそれから10分以上経った頃。
なるほど、公園のブランコにたった一人、小さな男の子がいた。
冬枯れの芝生。だれもいない公園。その真ん中にぽつんと一人。ブランコにまたがって背中を丸めている。
こういう情景を見ると、やっぱり人様の親たるもの、自然と駆け足になってしまう。
「Mクン! 待たせてゴメンね。寒かった?」
「うん・・・」
そりゃ寒かったろう。一緒に遊んでいたお友達も先に帰ってしまって、たった一人で冷たい風にさらされていたのだ。
Mクンのジャンパーはブランコの鎖の輪っかにがっちり噛んでいた。
「いま外してやるからな。」
ところがこれがハンパじゃなく奥まで噛んでいてびくともしない。
ジャンパーには鎖のサビがこびりつきあちこち茶色くなっている。
「切っちゃおうか」
「ええー!」
切っちゃったら、この寒空に着るものがなくなっちゃう。Mクンは自転車で来ているから、どうしても帰りは防寒対策の整った条件にしなくちゃいけない。
「だって、こままじゃあどんどん身体が冷えていくよ!」
そりゃ大変だ。
ぐいぐい裾をひっぱる。角度を変えて引っ張ってみる。BELAちゃんはMクンを背中から抱きしめて、僕は地面にヒザをついていろいろ試している。遠くから見たら、何をしているように見えるのだろう?
努力の甲斐も空しく変化はなかった。ジャンパーは鎖にがっちり噛んだまま。
「やっぱり切ろう。」
BELAちゃんは近くのママ友に電話。しかし留守電・・・。
「私、交番に行って万能はさみでも借りてくる。」
BELAちゃんは駆け出した。
わぁ・・・、やっぱり切るのスか?
それよりMクン、そろそろ限界だよなぁ。
「Mクン、ジャンパー脱ごう。そんでもって車まで走ろう。車の中なら日光であったかいから、ここよりいいよ。」
この寒い中でジャンパーを脱がすのはかわいそうだけど、このままにしておくのは、もっとかわいそうなこと。僕は思い切ってジャンパーを脱がせた。そしてMクンを横抱きにして車へ走った。
「急いで中入って! あ、ブランケット二つあるでしょ? 肩と膝にかけるの!
そうそう。暖かいでしょ。うん、じっとしててね。ドア閉めるぞ。」
僕は車のドアを閉めると、またブランコに戻った。
不思議と生身の人間がぶら下がっているジャンパーだと引っ張る力にも遠慮があったかもしれない。その証拠に、人間が着ていない状態のジャンパーだと引っ張る力にも割り増しパワーが掛かり、裾は鎖からブチっとぬけた。
ふう
ジャンパーの裾はすっかり茶色く汚れ、生地は変によれていて元に戻らない。でも無いよりはましなのだ。
僕はジャンパーをぶら下げて車に向かった。
そのとき、通りの向こうからパトカーが滑り込んできた。
あれ、あれ。おまわりさん3人も乗っているよ。
パトカーに向かってジャンパーを差し出す。パトカーからBELAちゃんも出てきた。
「ええー取れたのー!!」
「うん、なんとか。」
おまわりさんは笑ってパトカーは走り去った。
すっかりお騒がせをしてしまった呈だ。
あとで訊いたら、BELAちゃんが交番で「なんか刃物かしてください!」と言ったので心配になって三人も乗って来たのではないかという。
挨拶にいかなきゃね・・・。
さっきスーパーで買ったばかりのみかんをより分けて、お詫びのつもりで6個ばかり交番へ届けた。
BELAちゃんはMクンの自転車を押して帰ってくれて、Mクンは車で放菴へ帰った。
いやぁ、とんだ救出劇だったね。
放菴のカウンターにホットミルクが湯気をだしながら並んだ。
おまわりさんって大変だな。
あんなこと、日常茶飯事だろうね。