河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

妖怪旅館:その1

2007年06月11日 | blog
あれは、15年ほど前のクリスマスイブだった。レンタカーで引越し荷物を運び終えた私は家の鍵を無くしたことに気がついた。終電も終わり、どうしようかと歩いていると、目の前に古い旅館らしきものがあるのに気が付いた。門から石段が続いていて、玄関に明かりが点いていた。
「こんばんはー」と言うと、しばらくして、長い廊下の奥のフスマが開き、小さな男の子とその姉らしいふたりが近づいてきた。ふたりは無言で私の顔を見ると、また奥へと引き返していった。男の子はやけに頭が大きく、姉らしき人物は背中が曲がっているようだった。旅館の外観のわりにとても長い廊下で奥のほうは闇にまぎれてどうなってるのかよく見えなかった。
「お泊りですか」出てきた女将らしき人物は宿帳を渡し「お名前だけでけっこうです」と言ったので暗い玄関の電球の下で名前を書いた。前に泊まった人の名前があったが、えらく古い日付だった。ひょっとして私は1年ぶりの客なのか。
二階の部屋に案内されると女将は「ごゆっくり、寅年の冬は不幸な出来事が多いといいますなあ・・・」と言いながらフスマを閉めていった。言葉の意味がよくわからなかったが、とにかく寝る場所を確保できた私はほっとしていた。
全く物音のしない旅館であった。トイレまで行く廊下も電気が暗く周りが見えない。一階の廊下を見ると、奥の一部屋だけ電気が点いているようで、女将の家族の部屋のようだった。あまりの静けさに耳の奥がシーンと鳴っているような12月24日の聖夜、まさにサイレントナイトであった。