「八田君、ちょっと来てくれたまえ」
「はい」
「君は入社して何年になる?」
「今年で10年になります」
「ちょうどいいな。君のような不要な、じゃなかった重要な社員を探していたところだ
どうだね『海』に行ってみないかね
もちろん仕事だ、支店への転勤だがね」
「はい、会社のため、部長のためなら喜んで行かせていただきます」
この頃、社内では妙な噂が広まっていた。
海沿いにある「ソライロ支店」に転勤した社員が皆、赴任数ヶ月後に失踪したというのだ。
ソライロ支店は半島に付き出した連絡橋の先端にある別荘のような支店で、社員の間では「海」と呼ばれていた。
業務そのものは退屈なほど簡単で、毎日「海」を観察してその変化をレポートする、というものらしかった。
海沿いの鉄道に何時間も揺られた。
この季節は水平線が曇っている事が多いが海と空のグラデーションが上手くつながって、まるで空間全体が青い海のように見えた。
都会ではうるさかったクマゼミの声が半島のあたりに来るとツクツクボーシやヒグラシの声に替わり、
はやくも夏の終わりを感じさせる8月だった。
・・・続く・・・
「はい」
「君は入社して何年になる?」
「今年で10年になります」
「ちょうどいいな。君のような不要な、じゃなかった重要な社員を探していたところだ
どうだね『海』に行ってみないかね
もちろん仕事だ、支店への転勤だがね」
「はい、会社のため、部長のためなら喜んで行かせていただきます」
この頃、社内では妙な噂が広まっていた。
海沿いにある「ソライロ支店」に転勤した社員が皆、赴任数ヶ月後に失踪したというのだ。
ソライロ支店は半島に付き出した連絡橋の先端にある別荘のような支店で、社員の間では「海」と呼ばれていた。
業務そのものは退屈なほど簡単で、毎日「海」を観察してその変化をレポートする、というものらしかった。
海沿いの鉄道に何時間も揺られた。
この季節は水平線が曇っている事が多いが海と空のグラデーションが上手くつながって、まるで空間全体が青い海のように見えた。
都会ではうるさかったクマゼミの声が半島のあたりに来るとツクツクボーシやヒグラシの声に替わり、
はやくも夏の終わりを感じさせる8月だった。
・・・続く・・・