ゆめ未来     

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接触  愛する者を愛し、なりたい者になる。

2018年11月19日 | もう一冊読んでみた
接触/クレア・ノース  2018.11.19

 私の持ちものは、すべて他人のもの。
 愛着があっても、いつかは置いていかねばならない。

 すべては私にしばらく顔を使われ、人生を乗っ取られ、私が去ったあとで人生を取り戻す人のもの。
 去るときが来た。


クレア・ノースのSF小説、 『接触』 を読みました。
彼女の作品を読むのは、 『ハリー・オーガスト、15回目の人生』 に、続き二作目。

全編p590。 同一人物の “ゴースト” が、男に憑依したり女に憑依したりと何とも定まらない。
どうも尻のすわりが悪い。
男だと思っていると、女になったり、混乱してしまいどうも気持ち悪い。落ち着かない。
物語のなかの挿話は、異なる時代と世界各地を駆け巡る。内容も豊富で、文化のにおいがして面白い。
ぼくのくたびれた記憶力では、関連を覚えておくのが少々荷重だ。
でも、語られるひとつひとつの挿話は、興味深く、おとぎ話を聞くように楽しく心地よい。

物語は、ここから始まります。

 私を目で探していた。
 私を探していた。


このような話に耳を傾けました。

 人殺しは見ず知らずの人間に死を待たれ、見守られて死ぬ。

 恐怖をかき立てないものならなんでも飛びつくように信じるのだから、人の心というのは驚異だ。


 お金で買えないものは嘘で手に入れる男だから。

 教会がひとつきりの町は、バーがひとつきりの町でもあった。

 そこは夢の死に場所だった。

 「いつだってつらい真実はやさしい嘘より受け入れがたい」

 「男じゃないかと思っていた。なぜだか……わからないが、男だと思い込んだ。人はいつでも勝手な思い込みをするものだ」


 「愛する者を愛し、なりたい者になる。それが造り主の御心に反することだとは思えない。なぜなら神は人を愛し、生きるために造りたもうた。これを否定すれば、アラーの御心をもしりぞけることになる」

 「いいねえ、アメリカ人は声がでかくてデブでバカなアメリカ人を大方のトルコ人は嫌うけど、おれは好きだね。アメリカ人が無邪気な真似をするのは、親方どもが罪深いからさ。それでもめげずにいい人間になろうとするんだから、アメリカ人ってのはすごいよ」

 人には人生が変わる瞬間がある。火花のような、一瞬の出来事が人生を変える。トラック運転手がブレーキを踏み損ねた二秒間。やさしい言葉をかけるべきときに口にした愚かなひとこと。警察がドアを蹴破る瞬間。そんな瞬間。人生がナイフの切っ先で揺れる瞬間が来るときは、肌でわかる。君には今がその瞬間だ

“ゴースト”語録。

 誰にでも趣味は必要であり、宿主のあれこれをいじるのが私の趣味だった。
 藪から棒に、コイルが言った。「何様のつもりだ、この野郎」

 異教徒の雄叫びの前に崩れ去るカイロに妻を残して、私は逃げた。
 去ること、それは私の数少ない特技のひとつだ。

 「物語よ。人の人生はすべて物語でしかない。他人が語る物語でしかない。私の人生をふくめて。物語は私たちに残せるたったひとつの軌跡。細かいことはたちまちぼやけて、忘れられてしまう」


 「人はみな自分でない誰かになりたがる。だからこそ、人生をよりよいものにしようとがんばれるの。自分に与えられた人生を、よりよいものにできるの」

 別の誰かになれば、そのときはやっと、自分がこういう人間だってことを誰も気にしなくなるんじゃないか。誰かが愛してくれるんじゃないか。私を愛してくれるんじゃないか。その誰かをとことん愛せば、愛に応えてもらえるんじゃないか。 どう? 気に入った? 私たちはそう尋ね、つねにイエスと答える。

殺し屋ネイサン・コイルについつい肩入れしたくなりました。
この小説を読んでいると、作者はきっと女性だろうなあと随所で感じます。
ぼくには、話の流れより物語のなかにちりばめられている、“暫し立ち止まって聞き耳を立てるひとつひとつの挿話”が面白いSFでした。

    『 接触/クレア・ノース/雨海弘美訳/角川文庫 』


コメント
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