遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

微生物の造ったもの

2006-12-22 21:58:13 | 
今夜のお酒は久しぶりのそば焼酎です。宝酒造の『十割』。麹もそばで作った焼酎で、すっきりしたなかに蕎麦の香りが豊かに広がります。もう少しコク深く作ってほしいところですが、なかなか値段の割に良い造りだと思いますよ。

宝酒造と言えば『純』という焼酎ですがこれは甲類で、十割は乙類ですから蒸留システムが違います。甲類は連続蒸留、乙類は単式蒸留です。基本的に宝酒造は京都の会社ですが、十割を醸したのは宮崎だそうです。宝酒造の日本酒としては、伏見の『松竹梅』っていう清酒が有名な製品ですな。いろんな食品の他に普通のアルコールも生産していますが、主力商品は『本みりん』!これが日本で最大シェアをとっている超安定商品だそうな。みりんは厳密に言うと醗酵食品ではないのですが、『醸造食品』とはいえます。

我々の業界で宝酒造は日本で有数のバイオ企業です。この会社が制限酵素に手を出さなければ、日本の分子生物学は相当遅れたでしょう。宝の研究所は名神高速の瀬田インター近くにあって、O大にはそこから高速道路に乗ってやってきていました。宝酒造の他ではTOYOBOと日本ジーンがDNA操作に必要な酵素に取り組んだ会社でしたが、どれも日本の製薬業界の護送船団からは外れたところに位置する会社でした。先端的な産業を育てるには日本の保護行政は邪魔にしかならないってことですね。制限酵素を始めとするDNA操作に使う酵素は細菌類が持っている酵素で、酵素のバリエーションをそろえるには細菌類のバリエーションが必要です。ですから抽出技術だけでなく、細菌類を分離し分類同定する技術が必須でした。採ってきた菌の分類学上の由来が違えば、同じ酵素でも特許上の問題をクリアーできます。

酵素もまた微生物が作り出すもの。宝酒造には取り組むだけのアドバンテージがあったのでしょうが、僕が学生時代は金食い虫の事業だったそうです。バイオ業界で今の地位があるのは会社に先見の明があったってことでしょう。

本日のお酒:宝酒造そば焼酎 十割
コメント
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