室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

グランド・ヴァカンス 其の3”アンナ・ボレーナ”

2008-04-25 21:34:03 | Weblog
シルヴュー・ディーマ氏がコンサートマスターを務めるシチリアはパレルモの”テアトロ・マッシモ劇場”で、ドニゼッティ作曲の”アンナ・ボレーナ”を見せて頂きました

ギリシャ神殿のようなエントランスに向かって、ゴッド・ファーザーの一シーンでも有名な階段を登って行くと、中は天井の高い美術館のような、ホールのようなフォワイエになっており、係員は男性も女性も、昔の日本の”救世軍”のような長めのコートの制服を着ている。

チケットを見せると、左奧のエレベーターに乗るよう促される。木製のぎしぎし音がするのも、この劇場の歴史、貫禄を感じさせる。5階で降りる。22番扉を開けると、オペラ座らしいビロードのカーテンとビロードの壁で仕切られた小部屋がぐるっとホールを囲んでいるのが見える。その中の一室に入った訳で、椅子が前列に3つ。後列は少し高い椅子が2つ。5人用の部屋。

下を見下ろすと、写真のとおり、オーケストラ・ピットと、舞台に赤い緞帳が掛かっているのが見える。全体に深紅の内装だ。ピットは意外にも明るい。客席はほぼ満員。さすが、こちらはオペラが日常生活の中に充分取り込まれているだ。5時半開演の予定だったのに、始まらない。次第に観客が声を出し始めた。拍手をして登場を促そうとする人もいる。段々、顔状は騒然としてきた。「お~い、どーしたんだヨ。早く始めろ~!」ここは、スタジアムか?と言いたくなるような騒ぎになってきた。何かアナウンスが始まったけれど、到着が遅れている?って、指揮者が遅刻でもしたのかしら・・? などと思っていると、団員がピットに出てきた。ばらばらと座り、揃っていない。

シルヴューらしい背の高いシルエットが見える。チューニングを始めた。しかし、観客は収まらない。これからオペラが始まるというのに、静かにならない。やっと指揮者が指揮台に立っているのに、まだワーワー言っている。序曲を振り出したのに、全く聞こえない。オケは、演奏をストップして、またピットから出て行ってしまった。収拾がつかなくなっている。信じられない

ちょっとして、また団員が出て来た。指揮者がピットの外から渡されたマイクを握って何かしゃべっているけれど、イタリア語だし、観客がまだワーワー、ピーピー言っていてさっぱり解らない。「シレンツィオ!」と言う声が大きくなり、やがて騒ぎは収まった。そして再び序曲が始まり、幕が開くと、さっきまでの騒ぎがウソのように舞台は進んで行った。

翌朝、シルヴューから聞いたところでは、団員とコロス(合唱団)やスタッフによる”ストライキ”だったのだそうだ。その為、遅れてきた団員もいるし、とうとうオーボエ抜きだったそうだし、コロスも何人か少なかったらしい。それが、「何とかなると思うけど・・」というシルヴューの謎の言葉の意味だったのだ。 今までにも2~3回、こういった騒ぎはあったそうで、決して初めての事件ではないそうだ。一度は、オペラではなく、シンフォニーだったそうだ。

しかし、オペラそのものは、高い水準のものだった。まず、衣装がすばらしい 大道具美術も、ヒトを3~4人分集めた大きさの大きな物言わぬ仮面を登場させたり、極悪非道の王様を右側の金色の馬に乗せ、哀れなアンナ・ボレーナ王妃を左側のシルバーの馬に乗せて対峙させる・・など、美術も衣装も、象徴主義的な表現で、やや斬新だけれど、品の良いモダンさの一線を保っていた。

演奏も昨年の来日公演で見たとおり、一流のレベルで、劇場はほぼ残響が無いけれど、オケはかなり高い精度を持っているのが良くわかり、歌手も柔らかく、美しい声で、お芝居にも説得力があった。全体的に高音域の声も張らず、柔らかく響かせていた。中でもアンナ役のソプラノ、マリエラ・デヴィアは大変すばらしい表現力だった。本番開始前の騒ぎがウソのように、充分にオペラを堪能できた。ミラノ、パリ、ウィーンなどのような、”ピッカピカのハイセンス”ではないけれど、シチリアらしい、ややノンビリおっとりした(田舎くさいとは言わない)雰囲気の、開演前の騒ぎも含めて、”地元に根付いているオペラ”なんだ、という印象を持った。”地元のオペラ”がこのレベル、という事は、パレルモの文化水準の高さを表している。決して、泥臭い田舎ではないのだ。「イタリアから来た人間はね、イクミ、大抵の事には感激したりしないんだよ」と去年語ったシルヴューの言葉を改めて思い出した。

”文化”の深さに感じ入って外に出ると、階段下で、サンバ”ブラジル”を吹くサックスの音が聞こえる。なんか、興ざめな気がしたが、シルヴューも知っているルーマニア人のジプシーだそうだ。レストラン前ならともかく、オペラ前は不向きだ。

あまりお腹がすいておらず、おつまみピザ程度にして、カシスソーダを飲んでホテルに帰った。翌日は、10時にシルヴューが観光に連れて行ってくれる。

写真をもっとアップしたいのに、どーして1回のブログに1枚しか載せられないのかな・・。

グランド・ヴァカンス 其の2 パレルモ

2008-04-25 02:01:09 | Weblog
4/13
前日に着いたとはいえ、実質、パレルモ観光初日。
8時起き。8時半朝食。カスタード・クリーム入りクロワッサン、ハム(おいしい)ヨーグルト、缶詰のピーチ、カフェ・ラテ等。ナイフはテーブルに乗っているけど、フォークやスプーンは食べ物と一緒に置いてあるので、セルフで持ってくる。

9時半出発。エレベータの外側扉を引いて開け、内側の網の目の観音扉を中側に押し込んで開けて中に入り、地階へ降りる。1階は日本の2階。2階は3階。3階のホテルは実質4階にあることになる。やはりエレベーターが有難い。

先ずは、シルヴューの職場、”テアトロ・マッシモ劇場”へ。写真のとおり、ギリシャ神殿風のエントランスが付いており、左右にライオンが人を乗せた像がある。その下の階段は、かの”ゴッド・ファーザー”で、暗殺シーンがあった有名な階段・・との事。夜、シルヴューに会って、オペラを見せてもらう約束がしてある。

マッシモ劇場からクワトロ・カンティという、素晴らしい彫刻噴水の四つ角はすぐ近く。
犬も歩けば”教会”に当たる。何気なく入った教会はアフリカ系なのか、ミサをやっていたようだったけれど、正面ではなく、左奧のカーテンの向こうから、祈祷の声と、エレクトーンみたいなオルガンの音と低音の太鼓のアフリカを感じるリズムが聞こえているので、デジカメをムービーにして音も少し入れてみた。

プレトーリア広場の16世紀の彫刻群を見て、そこに面しているSt.ジョゼッペ・カトリーネ教会に入る。女性的な印象の教会。すぐ近くの、ノルマン風とアラブ風のベッリーニ広場に面しているマルトラーナ教会。すぐ右隣の3個の赤いお饅頭のようなドームが並んでいるのが特徴のサン・カタルド教会。マッシモ劇場前もそうだけど、至る所にパームトゥリー、フェニックスなどトロピカルな植物が植えてある。この2つの教会も、これらの植物と赤いドームが、いかにも南国の情緒を醸している。中に入ってみたが、3つの赤いドームの内部はシンプル。小さめの教会で、やはり入り口にカーテンがかかっており、中は、観光客ではなく、敬虔な信者が熱心に司祭の説教を聴いていた。若いけれど説得力のある、美しいお声が印象に残った。

ベッリーニ広場のカフェでジュースを飲み、トイレへ行く。便座なし! そういえば、フランスでも出会わなかったことも無いけれど、それにしても、結構ちゃんとしたカフェに思えたのに・・。便座が無い場合、どーするの?とりあえず、腰を浮かせて・・用足し。

海の方へ行くつもりでバスに乗り、回数券を使う。回数券などはTマークの付いたタバッキ(タバコ屋)で買わないといけない。チケットは、ガチャンとタイムカードを通して、時刻を印刷すると、2時間乗り降り自由、というシステム。しかし、バスはすぐに曲がってしまい、海の方へは行かなかったので降りて、ハーバーまで歩いて行った。クルーザーが沢山あった。レストランを探して歩いているうちにSt.ドメニコ教会前の広場に出る。中へは入れなかった。教会前のリストランテに入り、サラダ、スパゲッティ・ボロネーゼ(トマト味ミートソース)スパゲッティ・コン・リッチ(ウニ・スパ)を取る。オジ様は念願のウニ・スパに嬉しそう。ここのレストランは、地元の方向けで、人なつこいお母ちゃんのいる4人家族、年輩の女性2人連れがいて、私たちの事を「日本人か、中国人か?」と話題にしていたらしい。インテリアも素敵な狩りの絵が飾られていたり、キッチンの小窓もオシャレな内装なのだが、トイレの便座がない!それどころか、カギも無い!どーなってるの? これは研究するべきか・・?

バスがなかなか来ないので、徒歩で、シルヴューお勧めのカフェテリア、Mazzonaへ行く。縦に並んだ赤い看板の文字が、見たことのないデザインのフォントで印象的。ここでデザートを頂く。Zuccotta Alla Banana. お椀を伏せたドーム状のケーキがバナナの輪切りで覆われている。大変おいしい。こういうお店は、店内で食べるのと、外の屋根のない所で食べるのと値段が違うようで、どこで食べるのかを告げなくてはいけなかった。外の囲いと屋根のある場所が、どうやら一番高い場所だったらしく、あとから給仕さんにチップを払う。

ホテルに戻り、着替えて5時に”テアトロ・マッシモ劇場”へ。階段の下を目指して歩いて行ったら、ヴァイオリンを持ったシルヴューの姿が見えた。シルヴューもこっちを見ていた。思わず駆け寄り、去年6月以来の再会を果たす。「イクミ、イン・パレルモ!」と両手を広げて歓迎してくれた。ドニゼッティの”アンナ・ボレーナ”の席を2枚用意してくれていた。「何人か、どこか行っちゃってるけど、まあ何とかなるかな・・」と謎のような事を言い残してシルヴューは楽屋へ入って行った。その謎はじきに解けた・・。つづく。