室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

グランド・ヴァカンス 其の5 マルサーラ1

2008-04-30 02:39:28 | Weblog
4/15
朝6時台に、ジャズベーシストの小林真人さんから携帯にメールが届く。
「ケータイ、どうですか?同じものを買いました。」出発直前に、AUのグローバル携帯に機種変更して来たのをご存知で、彼も今頃、オランダへ持って行っているのだろうなあ。請求書が来てみないと、何とも分からないが、一応パケットが、国内と同じように使える唯一の機種、という事で、E-mail通信で日本と繋がる為に、このソニー・エリクソン製にした。別売り海外充電コードと、Cタイプコンセントも買った。イタリア国内での通話は、はぐれた時用のオジ様のTIMのノキアを使っていた。

パレルモで泊まったAmarcord ホテル最後の朝食を取り、モンデッロで見たのと似た焼き物を売っているすぐ近所の店が8時半から開ける、と前日に聞いたので行ってみたけど、開いていない。魚の絵の時計皿が買いたかったのだが、仕方ない。「イタリアはそんなもんなんです。博物館も、ドゥオーモも開いてなかったでしょ? 何が起こるか分からないのがイタリアなんです。だから大変なんです。これがダメでも他の手がある、という具合に常に備えないといけないんです」オジ様の言葉を噛みしめる。

9時半に予約しておいたタクシーで駅のそばから出る高速バスのターミナルへ向かう。タクシーは、ホテルに頼んだり、ラジオ・タクシーに電話して呼んだ場合は安全だ。流しのタクシーは、分からない。たまたま良い運転手だった時に名刺を貰っておいて、リピートするのが、安全策のようだった。

前日、シルヴューが去年の東京の思い出話の中で「シナガワ?シブヤ?ヤマノテ・ライン。東京は電車が整備されてるね」と交通機関の話題になり、「私達には、それが必要だから」と私が答えたら「僕たちだって必要さ。必要なのに、無いの」と東京の便利さを羨ましがっていた。東京も、日本語が読めない人には、電車の切符を買うのが難しかったりするけど、路線という点では、確かにかなり整備されている。時間もほぼ正確だ。正確なのが当たり前になっている。イタリアは、何が起こるか分からない・・と考えておいて、予定どおりに行けたら”ラッキー!”と思うくらいで丁度良いようだ。

でも、10時のバスは10時2分に発車した。Salemi というバス会社のバスで、Marsala マルサーラへ向かう。バスはパレルモの市内を抜ける。「何だ、もう一度街の中を見られちゃった」渋滞気味だったが、やがて街を抜けると高速道路に入り、左手に山、右手は海の景色が続く。海岸を離れて内陸に入ると、オリーブ畑や、風力発電の風車など、ノンビリとした景色。あちこちに黄色い花が群生している。一度、サービス・エリアみたいな所で停車したので、トイレに行った。便座が無い。携帯で写真に撮る。もうすっかりイタリア・トイレ研究班の心意気だ。

パレルモから殆ど真西のトラーパニという、やはり遺跡のある街に停車。何人もの乗客が降りた。バスのアナウンスが「ラ・フェルマータ」と言っている。そういえば、音楽用語の”フェルマータ”は停車場でもあったのだ。トラーパニからマルサーラへの埃っぽい道を行くバス。運転手がかけているラジオのBGMを聞きながら、車窓の小さい花を見て、ふと詩が浮かぶ。

 <シロツメクサに生まれていたら・・
  風が波打つ草原
  背の低い赤い花たちのささやき
  トラパーニの風に吹かれ
  つつましく、でも陽気に
  黄色い花に埋もれそうになりながらも
  いつまでも、でも陽気に 歌うよ >

トラーパニから少し南に下ったマルサーラに、お昼前ころ着く。風が吹いており、埃っぽい停車場に放り出されたような感じだったが、オジ様は直ちに駅のインフォーメーションを探し、情報を得に向かい、私は木陰で荷物番。手配したタクシーが来るまで、駅の待合所でパンをかじる。

見知らぬ田舎のはずれのような所に着いて、これからどーなるのかな~、と多少の不安を面白がってみたりして・・。でもじきにタクシーが来て、ホテルへ。信頼できそうなタクシーだったので、このドミンゴさんを贔屓にする。

ホテルはVilla Favorita ヴィラ・ファヴォリータ。恐らくマリー・クレールあたりの雑誌に載りそうな、オシャレなリゾート・ホテル。アラブ風のアーチ型のエントランス、レセプション、客室棟の入り口、アラベスク模様の入ったガラス扉の向こうに庭が見える。階段を登り、2階のパブリック・スペースを横目に、扉を開けて3階の客室エリアに上る。鏡や椅子、壁かざり等、お洒落な廊下を進み、部屋に入る。ベッドが一つの初めからシングルの部屋。窓がある。内側の木の扉を両側に開き、ガラス窓も手前に開き、外側の木製のヴォレを外へ広げると・・

写真は、感激のほんの千分の一も撮れていないかもしれない。でも、記憶のよすがになってくれる。海から吹いてくる強い風と共に、初夏の陽光が入り、文字通りリゾートのうきうき感を誘うプール、マッシュルームのように見える丸いコッテージがいくつもあり、目を右に転じれば背の高いパームトゥリーが3本、風になびき、左には風力発電の風車が1基、ゆっくり回り、そして輝く水平線。思わず「うわーーー~っ」と声をあげてしまう爽快感。写真は、その一部を切り取ったものでしかないが、でも、自分が”本当にその場に居た”感触を思い出させてくれる。本当に、気持ち良かった。

しかし、マルサーラに来たのは、モツィアというカルタゴ人の遺跡を見るのが目的だ。モツィアにある遺跡発掘の島へ、舟に乗って行かなければならず、その船着き場までタクシーで行かねばならず、ホテルのレセプションで遺跡の島の博物館は夜7時頃までやっている事、舟は頻繁に出ているという情報を得たけれど、本当かどうか行ってみなければ分からない。タクシーのドミンゴさんを呼んで、急ぐ事にした。