買ったあとに気が付いた。既に読んだものかどうか、現在買い集めている山田風太郎ミステリー傑作選の中で、最後に購入しようと思っている戦争篇の中に収まっているではないの。
概要からいって戦争篇に含まれるとは想いもよらなかった。
昭和30年代後半の東京。才気に満ちた美貌の苦学生、鏑木明は、アルバイト先の屋敷で社長令嬢・多賀恵美子と出会い、偶然にも特権階級への足掛りを手にする。献身的だが平凡な恋人・容子を捨て、明は金持ち連中への復讐を企て始める。それが全ての悲劇の序章だとは知らず・・・。
当時の恋愛物語としか思えない前半部・・・というかほぼ90%は恋愛人間模様だ。
未曾有の結末に至り、何故本作が戦争篇に収まっているのかが解る。
山田風太郎としては常道とも思えるけど、あっと驚く仕掛けが仕込まれているわけだ。やっぱり山田風太郎は面白くって嬉しくなる。
同じ恋愛小説で、現代社会を巧みに組み入れ描いてみせたといえる先ごろ読んだ「悪人」
あれはあれで面白かったのだが、戦争体験のある山田風太郎の書く昭和30年代の恋愛小説(つまり先輩方の恋愛)の方が読んでいる時の至福感が断然違うというのも困ったもんですな。
敗戦小説でもありミステリーでもある本作。殺人の方法がご都合主義と断定はできまい。あまりにも偶然を必要とする方法ではあるが犯行に至る者は何が何でも標的を死にいたらせねばならないわけではない。戦中世代の時代への怨念。人の人生を遠隔操作する神の域に近づこうとするゲーム感覚。
当時は随分斬新な視点だったのではないでしょうか。
ゲームに侵された現代社会の先取りとも言えまいか。
戦争を体験した著書だからこそ書けた奇跡のミステリ。
「太陽黒点」
いくつかのタイトルも考えられたようですが、すぐにバタイユの眼球譚の一節を想起させる「太陽黒点」がまた良いです。
山田風太郎ミステリー傑作選。コンプリートまで残るは3冊
「戦艦陸奥(戦争篇)」
「笑う肉仮面(少年篇)」
「達磨峠の事件(補遺篇)」
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