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鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)
また新訳文庫です。しかも、今回はロシアの古典ゴーゴリを落語調に訳したてんですから、
「鼻」は柳家三三くんの朗読まで聴いちゃって、10倍楽しめました。
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落語口調というだけで決して落語ではない、地口の部分が多いですから。
通常訳を読んでいないので解りませんが、とても落語感覚のある話で興味深いのでした。
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無精床のイワン・ヤーコヴレヴィッチが着ている燕尾服の描写なんて、貧乏長屋の八五郎あたりが着ている、あわせと一重物がまじった着物の描写まんまだったり・・・
朗読会の解説で浦氏がロシア文学の悲劇に巻き込まれたっていう事をおしゃっていました。19世紀突如ブレイクしたロシア文学は言論に制限のある社会的背景から文学以上のもの(人民を導く使命)を背負わされてしまった。それによりゴーゴリの作品も妙な裏読みをされがちになったというわけ。裏読みも楽しみの一つだけど、ナンセンスをそのまんま受け止めて楽しみたいところ。
ロシア文学の悲劇に苛まれ、最期には発狂のような事になってしまったという。
「鼻」には落語としての落ちはなく、なんだってヘンテコな物を書くんだと自虐的に語って、世の中なんてそんなものかもしれない、とかウダウダ言い出す。高座で収拾が付かなくなった落語家の独白かい。
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「外套」はますます地話部分が多くなる。以前江川卓氏が外套を落語にして一席創作したらしい。聞いてみたいものです。
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アカーキー・アカーキエヴィッチの童貞の条件を備えたキャラが物哀しくて良い。
アキ・カウリスマキはそんな人物にも恋を与えるけれど、ゴーゴリの与えたものは誂えた外套。外套=女性という読みは至極当然。童貞特徴を兼ね備えていればたとえアカーキー・アカーキエヴィッチが実際より裕福であってもおしゃれとは無縁というわけだから。
新調の外套でウキウキ街を行くアカーキ・アカーキエヴィッチ・・・そこに襲う悲劇。やがて幽霊にまでなって・・・
話としては「鼻」よりも「外套」が好みだったかな。
「査察官」は喜劇戯曲。従前は「検察官」と訳されていたもの。
こちらは前2作ほど口調に落語の意識は薄いものの、その内容は極めて落語のエキスに溢れていて楽しめた。
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フレスタコスの登場はまったく若旦那、徳三郎であり、査察官と間違われた事をいい事に市長以下をペテンにかける様は佐平次的。
市長が庶民に訴えられたもののフレスタコスが娘に求婚したため形成逆転、一気に庶民に対して吐く啖呵の見事さは喧嘩早い八五郎的。
フレスタコフの手紙により騙された事が判明、手紙を奪い合いながら読む騙され連中の様は三枚起請そのまんま。
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必然的に通常訳が読みたくなってしまう。
今回も外国古典への誘いという光文社の目論見にまんまと嵌ってしまいました。
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