JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)

なんの役にも立たない事を只管シコシコと

沢木耕太郎 「檀」

2006-12-15 | BOOK
BOOK STORE danで「檀」を買って・・・なんて言ってる場合じゃないけど。
「檀」・・・まず、タイトルがいいですね。
自分の姓を好んでいろいろなこだわり(ダン・シチューとか)を持っていた檀一雄。

檀一雄はその代表作であり文庫化されている「リツ子・その愛 その死」「火宅の人」を若い頃読んだ。それっきりだ。
その面白さで一気に読んでしまい、なかなか楽しい読書をさせてもらった記憶がある。「火宅の人」に関しては、「何をそこまで・・・」というか、「破滅型も大変だよね。」破滅よりも絶対に楽な平穏を選ぶ自分としては一種の憧憬を持って、そんな小説を好む傾向があるようだ。

その檀一雄のことを沢木耕太郎が書いているのだから期待できる。

ここでは未亡人ヨソ子夫人にインタビューを重ねた沢木耕太郎が妻の視点に立って檀一雄の姿を描き出す手法が取られている。
そんな予備知識もないまま最初読んでいて「私」が誰なのか判るまで少し戸惑った。
そういえば、大場政夫についての文もマネージャーの女性の視点に立って綴られていましたっけ。

ヨソ子夫人がゴーストライターを使って出版するような内容かもしれないけれどもそれがゴーストライターでなく、沢木耕太郎なのだ。作者はあくまで沢木耕太郎という名文家。

入江さんと「事」を起こしたあたりの前半部分は何だかヨソ子夫人の暴露本の様相を呈していて、ちょっと嫌な気持ちになる。
何度も途中で止めてしまおうかと思いながら読んでいると「火宅の人」に対する第五章辺りから引き込まれていき最後まで読んだ読後感は悪い物ではなかった。

どうもヨソ子夫人が愚直な印象になってしまい、違った魅力的な女性が垣間見える所には沢木耕太郎の脚色を想像してしまう。
夫人にとっては損な役になってしまったように思える。

「事」を起こされ傷つき、それを書かれて再び傷つき、聞き出されて三度傷つく・・・けれども檀一雄も安定して晩年の看病の段、夫人の檀に対する愛も見える。夫婦とは何か?なんて考えてしまう。美談もいくつかありました。

「火宅の人」と合わせて読むとなお面白いかもしれませんね。
しかし、今、再読する気にまではならないんだけど。
むしろ、その他の檀一雄作品を読んでみたくなりました。
夫人も「火宅の人」の檀一雄になってしまった事(命と引き換えに遺した作品という事もあり大ベストセラーとなった)が作家檀一雄にとって本望だったのだろうかと疑問を抱いている。

「檀」、「檀」と亭主を呼ぶヨソ子夫人の若かりし頃を菱見ゆり子の顔を想い描いて読んではいけませんね。それは違うつーの!この姓は確かに良い。

なかなか進まなかったけれど、出張があったので後半一気に読んだ。
やはり、短い通勤時間の細切れ読みではノリが悪い、かと言って夜はPCに向かっているので読書はしない。
通勤時間が短いなんて文句を言っていたら、怒られますか。


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