JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)

なんの役にも立たない事を只管シコシコと

映画 「偽大学生」

2008-06-11 | 映画(DVD)
「偽大学生」1960年 大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫

2月のシネマヴェーラ特集「特殊学園Q」でスケジュールが合わず見れなかった「偽大学生」いつかきっとと思っていたら早くもラピュタで上映。
聞くところによると評判の作品も原作者大江健三郎がDVD化TV放映を許さないそうです。ところが人気がある作品なのでけっこう劇場では頻繁にかかるという皮肉な結果になっているとか。

「4度も受験に失敗してしまった浪人生・大津。申し訳なさから母親に合格したと嘘の報告をしてしまう。キャンパスに潜り込み、あたかも学生のようにふるまっていたある日、学生運動のリーダーから組織への伝言を託されたことをきっかけに左翼活動に傾倒していく。やがてスパイの嫌疑をかけられ、拘束、監禁に至り・・・」
というのがシネマヴェーラでの紹介文。
遠藤周作の短編「ニセ学生」を読んだ直後だったので、そのストーリーの酷似に、いったいどんなものか見てみたかったわけです。

導入のシチュエーションは酷似していましたが内容はかなり違いました。1960年、これから先の学生運動のたどる道を知る由もない当時の作品と思うと秀逸。人間の正気と狂気、正義と悪が揺らぎ崩れていく様を鋭く描く。

脇役陣も魅力的ではありますが、なんといっても主役ジェリー藤尾の怪演ぶり。そして戦前の活動家(中村伸郎)の娘、睦子役の若尾文子(原作には無く、白坂依志夫が脚本に加えた役)の頭痛持ち演技の気だるさが印象的。

母親に申訳なさからつい嘘を付いたというがどうみても虚言癖のある凶暴な猿、大津(ジェリー藤尾)は、4年も浪人しているわりには学生服姿も初々しい新入生で4浪のおっさん臭さはまったくない。地元では神童でならしたというものの本物のT大生とおつむがちがうせいだからか・・・実際は京王商卒だし。
ズボンを履き替えながら「好きだなぁ」と若尾文子に告げる様、それを受けて困惑する若尾文子が可笑しい。

頭痛持ち演技には失笑ものの、やはり若尾文子の魅力の一つは言葉使いと科白回しに見られる色気という事を再認識。

拘束監禁している大津にパンと牛乳を飲ませる場面などのサディスティックぶりは若尾文子ならでは。残念なのはこのシーンでの若尾さんはちょっと下膨れでブサイク。

学生運動のリーダー空谷(伊丹十三、当時の表記は一三)の逃げ腰、無責任ぶりがまた良いのです。
後半、演説をぶつジェリー藤尾が「T大学バンザーイ」とアジっても誰も乗ってこないので空谷に音頭を取ってくれと依頼する。この時の伊丹十三のとまどう姿が大変よろしい。

他では大辻司郎が学生運動家らしくて好印象でした。

警察は法に基づき丁重に扱ってくれたが、学生たちからは人権無視の監禁を受ける。力が必要と組織ぐるみで監禁の事実をもみ消す学生たち。
その後の学生運動の迷走、衰退、無力感という歴史を経てきた現在見るとなんとも優れたテーマを持っていて面白いのだ。若松孝二のゲバものとは一味も二味も違うテーマ性を持った作品なのでした。

ラピュタ阿佐ヶ谷 「脚本家 白坂依志夫」より

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