ジュンサパッチ
先日、国道171号軍行橋(伊丹市)橋上を原チャリで走行中、兵庫県警交通機動隊の白バイ10台余りの集団と平行して走る緊張感を味わいました。ドッドッドッ、至近距離なのでバイクの排気音が腹に響きます。やましいことをしているわけではないのに、なんで緊張するの? 何度か原チャリで検挙されたことがトラウマとなっているのでしょうか。
その時、手を伸ばせば触れるほどの間近に見た県警白バイ隊員さんの紺色ズボンに走る1本のゴールドストライプが目に入り、僕は「あっ!ルリハタや」と思わず声を上げたのです。
というのも、明治時代の巡査さんの制服は紺地で、ズボンにはアクセントに黄金色の線が一本縦についていたそうです。このため、漁業の町、和歌山・雑賀崎ではその色と模様から「ルリハタ」を「ジュンサパッチ(巡査パッチ)」と呼んでいたということを、とっさに思い出したからです。
巡査は、今に生きる警察システムの階級名で「死語」ではありませんが、パッチはどうでしょう。僕の小学生時代(昭和20年代)には脚全体を覆う「下ばき」をパッチと呼んでいました。寒いと茶色のラクダのパッチなんてのを重ねて履いていましたっけ。よく似たのに「股引(ももひき)」があります。戦前、関西ではひざ下までの下ばきをそう呼んでいたようです。江戸では縮緬と絹製をパッチ、木綿製を股引と言っていたそうですが、まあ、パッチは死語と言っていいでしょうね。ついでですが「猿股(サルマタ)」も死語といってよいように思います。今では猿股はブリーフ、トランクス、パンツですがパッチは「ズボン下」でしょうね。僕なんか、いまでも「パッチどこや」なんて言ってしまって家人に笑われていますが…。
きれいな色のズボンが珍しかった明治時代、ズボンという言葉もわからないまま、パッチと表現した雑賀崎の漁師さん、黄金色のストライプにルリハタを連想して「ジュンサパッチや!」と叫んだのでしょう、見事なネーミングです。地元でもこの呼び名はとっくにすたれたでしょうが、間近に見た白バイ隊員さんの紺色ズボンに、黄金色のストライプが、百年の時空を経て今なお生きていることに、なにやら、ほのぼのとうれしさを感じるのでした。
ルリハタはせいぜい大きくなっても40センチほどの小型の魚で、文字通りきれいな瑠璃色が目立つハタ科の魚です。紫がかった深い青色に、黄金色の縦縞が一本引かれていて、とてもシャープで洗練されたデザインを見せています。
主に船釣りですが、平成の海でもこの美しいルリハタが釣れることがたまにあります。ただ、粘液に毒(ヒトには無害)があるため、この魚がいるとほかの魚が近づかず釣りにならないとか。
でも、もし、ルリハタが釣れたら、僕は「お役目、ご苦労様!」と敬礼することでしょう。(イラストも・からくさ文庫主宰)