ギンポウ讃歌
さきにガッチョが販売されていた泉佐野の「青空市場」に触れました。その青空市場で、昨年の初夏「ギンポウ」が並べられているのを目ざとく見つけた東京出身の老婦人が全部購入、江戸っ子だったご主人が、何十年振りかで美味しい天ぷらを賞味することが出来たと涙を流して大喜びだったそうです。
ギンポウ讃歌
誰も知らない極品
ギンポウは江戸前では昔から「銀宝」と書きました。魚類図鑑での正式名はギンポです。百貨店の鮮魚売り場や、スーパーではまず売っていないので、ほとんどの人にはなじみがないのではないでしょうか。これは東京でも同じです。大阪ではなおさら知られざる魚でしょうね。
しかし、この天ぷらがめっぽう旨いので、東京で味の通といわれる人たちは、これにありつけるチャンスを虎視眈々と狙っているようです。
ただギンポウが出回るのは、初夏のわずか一カ月くらいだけでこの時期を逃すと次の年まで待たなければならないことになります。
しかも最近は、海岸の埋め立てなど環境の変化で魚の数が減っているらしく、天ぷら屋でもめったに入らないため、「幻の天ぷら」になりつつあるとか。それは、江戸前の天ぷら屋さんの、玄関先の口上を見るとよくわかるようです。
実は、以前だぼ鯊は、泉南・みさき公園の少し手前の番川という小川の川尻に広がるゴロタ石の浅い磯で、このギンポウを釣ったことがあります。
ウネウネとしたいささか気色の悪い魚でしたが、一緒に釣っていた、料理人修行中の友人が「これは、これはギンポウ、別名ウミドジョウやないか、天ぷらにするとメチャクチャ旨いで」と。
8寸(24センチくらい)級を7匹ほど持ち帰って、その友人の店で天ぷらにしてもらったことがあります。親方の理解があって「え、ギンポウが釣れたの?」と一緒に喜んでくれ、「準備中」の時間に試食することが出来ました。
たしかにそのニックネームの示す通りギンポウは、ドジョウのような形をしており、泥臭く、小骨も多いので、一見「煮ても焼いても食えない魚」と言われているようです。ところが、これを天ぷらにすると江戸前を代表するのすばらしい珍味のタネになるのです。「ギンポウを食わずして天ぷらを語るなかれ」とまで言われているのです。
さて、おそるおそる箸を運んでみました。見た目は、アナゴの天ぷらを小さくしたような感じです。ほんの少し塩をつけて、一口でがぶり。味は、ガッチョをさらに濃くしたような旨さです。独特の歯触りがあります。これは小骨が多いせいでしょう。そして、ほんのりと磯の香りというか、独特の味わいがあるのです。しかも、身の甘味がジワリと口内に広がるのです。
確かにクセのある魚ですが、小骨も磯臭さもマイナスにならず、これが、天ぷらの力なのか、と思いました。
その後、機会がなくギンポウにはご無沙汰していますが、青空市場で売っていたという情報で懐かしく思い出しました。
泉南にはまだまだゴロタ石の浜が残っています。ギンポの宝庫かも。足元の見釣りで狙ってみるのも一興でしょうね。(イラストも・からくさ
文庫主宰)
佐藤から、わたくしもこの前に書かれたガッチョをバケツ1杯釣って帰り母にしかられた想い出がありますが、ギンポはまだ見ていません。