再録になるかもしれませんがこの季節少し遅かったかもでも載せました。
ある新聞に、天日干しでチリメンジャコを生産している淡路島の漁家が紹介されていました。「上質のものは、チリメン(シラス)が丸くなっている。そう、Cの字型かなァ」という主の言葉にいたく感銘した記者さん、「確かにチリメンジャコの身はどれもこれもCの字型でした」とリポート。今回はCの字型に因む美味しい小魚の話題です。
春到来!海にもやってきた
「つ・く・し」の季節…
美味しい小魚と言えば、イカナゴ(しんこ)のくぎ煮もこれからがシーズン。毎年、このシーズンになると宅配便で自慢の味付けで炊いた「くぎ煮」を送ってくれるのが若い釣友の祖母で、播州相生に住む年齢不詳の梅乃さん。
「ご先祖様から代々伝えられてきた炊き方と味付けで皆さんに喜んでもらっていますが、うちでは、昔からくぎ煮とはいわずに“つくし煮”と言っています。春の土筆(つくし)に準えて季節感を表しているほか、親しいあなた様に味で尽くしますという意味も籠めています」と。
な~るほど。炊き上がったイカナゴをよく見てみると「つ」であったり「く」であったり、はたまた「し」であったりします。だから「つくし煮」だそうです。そういえば、音感もいいし、なんとなくお上品じゃありませんか。
くぎ煮、という呼び方は、確かに色合いから言って、古いくぎをやっとこで引き抜いたものを寄せ集めたような、そんなイメージの形と色をしています。でもこれはこれで、素晴らしい写実的なネーミングで単刀直入に特徴を物語っていて、一度聞いたら忘れません。
ところで、先に記したチリメンジャコの「C型」の話ですが、アルファベットのCの字は、天地左右に動かしてみると、平仮名の「つ」「く」「し」に見えなくもありません。いや、まさしく「つ・く・し」に見えます。単刀直入と言えば「C型煮」のほうが現代的かもしれません。
さて、須磨沖、明石沖、小豆島周辺などでは春先シロウオをエサにしたメバル釣りが賑わいます。三十センチを超える大物もまじるとあって、釣り人にはじっとしておれない季節の到来です。
釣り船船長は「今の時期は生きたシロウオが一番のエサです、エサに使える大きさの生きたイカナゴが出回ると、これに変わりますが…」と。
そうです、シロウオは、ご存知、透明のハゼ、食通が好んで“おどり食い”にしていただく春を告げる贅沢、まれに百貨店などで生きたのを泳がして売っていますが決してお安くありません。
でも、これに出会うと、素通りできません。ついつい財布の底をはたいて買って帰りますが、家の食卓でピチピチはねるシロウオを孫たちの目の前で二杯酢につけて口に放り込むのはチト、気が引けます。そこで我が家では“卵とじ”にします。
洗い上げたシロウオを鍋に入れ味付けをしたかつおだしをひたひたにし、三つ葉を散らし煮立て、鶏卵を落として出来上がり。
するとどうでしょう!真っ白なシロウオが「つ・く・し」の文字になって泳いでいるようです。
孫と一緒にお箸で“つ・く・し”をつまんで「春が来たよ」としゃれてみるのは如何でしょう。食卓がいっそう楽しくなること請け合い。
自然の豊かな日本に生まれてよかったと思う、ぜいたくなひと時です。(イラストも・からくさ文庫主宰)