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映画『東京家族』について

ズボン

2017年08月07日 | 洋服 / Western clothes
 山田洋次監督の2010年の映画『おとうと』に、こんなセリフがある。主人公の小春が(二度目の)結婚式を挙げる前の晩。


吟子(吉永小百合): 「わたし明日(の披露宴)はスーツでいいでしょ」

小春(蒼井優): 「もちろんよ。ティーパーティーだもん。亨(とおる)さんは紺のスーツよ。替えズボン付き2万3千円」






 今回話したいのは映画の本筋ではなく、この「ズボン」という言葉についてである。
 いつの頃からか、洋服を売る店で「ズボン」と言うと、店員さんがやんわりと「パンツですね?」と答えるようになった。アメリカ英語でも「Pants」には、男性用下着とズボンの両方の意味がある。しかしイギリス英語では前者は「Pants」、後者は「Trousers」と単語が使い分けられている。日本の服飾業界は用語をアメリカ式に統一したのだろう。その是非はさておき、理解できなくはない。しかし、店員さんの言葉をよく聞くと、下着を言うときのアクセント、というか高く強めに発音するのは「パ」である。一方のズボンを言うときのそれは、「ツ」がやや強調されている。アメリカ英語の「Pants」はもちろん一種類であり、「パ」というか、正確にはPの次の「a」にアクセントが置かれている。つまり日本語ではアメリカ式に統一したにも関わらず、意識の底では男性用下着とズボンを使い分けたいのである。だったらイギリス式に従来通りの「ズボン」を使い続ければよいのではないかと私は考える。
 これを服飾業界に提案したいのであるが、もし受理されるとしても長い時間がかかるだろうし、お店で私が頑固に「ズボン」と言い続け、女性の店員さんに「今どきズボンなどと言うのは何処の田舎者だっぺ」と思われるのもあまりおもしろくない。かといって上記の理由を店員さんに説明するのは面倒だし、第一迷惑である。そこで次善の策として、店員さんが「このパンツですか?」と言ったら、「いいえ、その隣の紺のスラックスです」と言うように決めた。この「スラックス」という言葉も悪くないが、「ズボン」という音の温もりにはかなわない。この温かい感覚が野暮ったさと解釈されて、より子音がはっきりと強調される都会的な「パンツ」が採用されるようになったと想像するが、「ズボン」だって負けてはいないのである。ズボンの語源はフランス語の「Jupon」なのだ(『広辞苑第六版』)。

 と、ここまで書いてきて映画に戻るが、山田監督の映画のセリフは観客の誰が聞いても誤解が生じないように、また、言葉の隅々にまで心を配って書かれており、それを通して画面のなかに生きているのが役者なのだ。











吟子: 「わたし明日はスーツでいいでし

小春: 「もちろ。ティーパーティーだも。亨さのスーツ。替えズボ付き23千
















































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