出光佐三氏 ＜海賊と呼ばれた男＞

出光佐三氏は出光興産の創業者です。出光興産は出勤簿がなく、定年がなく、労働組合がないとは、私も知っていました。既成秩序、大企業、外国資本の企業と闘って、今日の姿があるとは知りませんでした。

＜海賊と呼ばれた男＞とは、百田尚樹氏の小説です。事実を追った小説です。恐らく史実に忠実なのでしょう。しかし、人物の表情や服装や心理状態や風景の描写が少なく、少し無味乾燥な人物描写が残念です。

小説の後半で、国王を国外へ追放しイギリス資本の製油所を国有化して国際的に孤立していたイラクへ、自社タンカー日章丸を派遣した苦労話は圧巻です。急に目的地を変更し、日章丸をイラクへ向かわせる際の社長の訓示を船員に聞かせる場面は感動ものです。さらに、イギリスの軍隊の包囲網の裏をかいて、無事に決日章丸が日本に帰国した際には、私も思わず涙が出てきます。

どんな危機に際しても、孤立無援でも、決して諦めない胆力。敵は、巨大な外資メジャーであっても、無知な政治家であっても、護送船団方式で行政指導して天下りや利権の拡大を目指す官僚であっても、決して負けない気力には敬服します。

その根底には、統制経済を嫌い、自由経済を信奉し、創意工夫によって経営するプライドを感じます。何よりも日本の民族資本を外資より守る、日本経済のエネルギー自立を目指す、この高邁な目標を、一生掛けて達成しようとした人物が、出光佐三氏です。

そのためには、外資メジャーと政治家と官僚と闘い、既成秩序をぶち壊し、会社規模には不釣り合いな大型投資を続けています。不思議と危機に際しては、出光佐三氏に惚れて、彼を助ける人物が出てくるのは、神のご加護のような気がします。

出光佐三氏は、目先の利益を優先したり、業界の秩序を墨守することを一切嫌い、高貴な理想を目指すことを最優先します。どんな時代でも、どんなに苦しい環境でも、自分の主義主張を貫き通す意志の強さを、出光佐三氏に見習いたいと私は思います。