和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

あとがき。

2010-11-30 20:39:45 | いつもの日記。
「seed」でした。
ひねりのないタイトルだね。
いつものことです。

ちなみに今回久々に【SS】の冠が付いてません。
そろそろ皆さん忘れてると思いますが、脊髄反射小説の略ね。
定義は以下の通り。

・思いついた内容を思いつくままに書くこと
・他人の評価を気にしないこと
・明確な誤字脱字以外、書きなおさないこと

つまり、引かぬ!媚びぬ!省みぬ!という3条件。
今回はこの条件に当てはまらないのでSSじゃないんですね。

今回はねー、考えましたね。
具体的には、そもそもエコとか環境問題そのものに疑問を持ってるという下地があって、
そこから「惑星の種子」という言葉が浮かんだのが3日くらい前。
これ、どーにか小説に出来ないかなーとアレコレ考えて、ようやくあらすじが完成。
そこに主人公と妹というキャラを放りこんで、展開をまとめるためにもう一人の女性を追加。
・・・みたいな。
実際に執筆した時間は1時間未満ですけどね。
漠然とぼんやりと考えた時間は長かったです。

ま、そんなこと読者には関係ねーんだけどな!

実際、いつものSSと何ら変わらねえよ、って思う人が大半なんじゃないんでしょうか。
それはそれで全然問題ないです。

でもね、今回は結構手応えがあるんですよ。
今回のお話の発端は前述のとおりエコだの環境問題だのに対する反感からなんですが、
怒りとか悲しみとかネガティブな思考から物語が発生するのは好調なときなんです。
嫌なもの書きだな!
ここのところ、このパターンの物語作りができてなかったので、ちょっと嬉しいですね。
コメント (2)
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seed

2010-11-30 16:24:49 | 小説。
逃げる。
遠くへ、遠くへ。
小さな妹の手を引いて。
僕らは、逃げる。
文明――と呼ばれたものの残滓に、そっとその身を隠しながら。

日光は危険だ。
太陽の光を過度に浴びれば皮膚はただれ、視力も失う。
だから、僕らは本来このような真昼に行動すべきではない。
分かってる。勿論そんなことは分かっている。
だけど、逆に言えば真昼なら追っ手も少ないということだ。
「お兄ちゃん・・・」
きゅ、と小さな手が不安そうに僕の服の裾を握る。
「どうした? 喉、渇いたか?」
「・・・うん」
妹は、遠慮がちに・・・申し訳なさそうに、小さく頷いた。
この状況で水がどれほど貴重なのか、幼いながらに理解しているのだ。
しかしこの水は妹を救う為のものだ。ここで惜しむ意味はない。
「ほら、ゆっくり飲むんだよ」
簡素な水筒を差し出す。
妹はそれにゆっくりと口をつけ、1口2口、本当に舐める程度だけ水を飲んだ。

彼女の中で、種子たねは、確実に育っている。
死に行く惑星を救う、惑星ほし種子たね

それは――妹の心臓だ。

この種子を惑星へ捧げる――つまり大地へと植えることで、惑星は再生される。
それは何でも死に瀕した惑星の意思であり、希望であり、力であるらしかった。
だがしかし、そんなものは僕に言わせればただの悪足掻きだ。
全ての命は、いずれ死ぬ。
朽ちる。
果てる。
それは人間だって動物だって、惑星だって例外ではない。
偉そうに、惑星の意思だの天からの啓示だのともてはやすが、何のことはない。
所詮この小さな女の子を犠牲にしなければ、命を譲り受けなければ、永らえることはできないのだ。
世界中の人間は、これで救われると歓喜した。
誰だって死ぬのは嫌だから、それ自体は分からないでもない。
だけど。
ただひとりの肉親の命を投げ出すなど、僕には到底許せることではなかった。

そもそも、おかしな話なのだ。
どうして、たったひとりの心臓で惑星の命を永らえることができる?
――いや、惑星の種子にそんな力はない、と主張するつもりはない。
偉い人々が次から次へとやってきては、妹に頭を垂れ、説得し、祈る。
その姿を見れば、嘘ではないことは分かっているつもりだ。
妹の心臓で、惑星を救うことができる。
それはつまり、惑星と人間ひとりは等価だという証拠ではないか。
だったら。
人が、決められた生を全うし、緩やかに死んでいくように。
惑星だって、死んで行けば良いのだ。
人と、同じように。
だから僕は、妹を連れて逃げ出した。

「やあ、こんなところにいたんだね」
文明の残滓――倒壊したビルディングの陰に身を隠す僕らに、女性が声を掛けてきた。
見知らぬ女性だ。だが、向こうはこちらを知っているらしい。
それはつまり、明確に僕らを狙った追っ手だということ。
僕は、妹を庇うように前へと出る。
「まぁ、警戒しなさんな。悪いようにはしない」
「信じると、思ってるのか?」
「・・・信じないだろうねぇ、こんな胡散臭いおばさんの言うことなんか」
自嘲するように笑う。
自身のことを良く分かっているようだ。
「まぁ・・・なんだ。戻る気はないかい?」
と、彼女は実に端的に要求を述べる。
「ない」
僕も、短く返す。
「そっか」
予測できた答えだったのだろう。
あっさりと納得し、小さく笑った。
「あたしにも、ひとり息子がいてさ」
「・・・は?」
急に、何を言うのだ。
僕は話の展開について行けず、呆然とする。

「まぁ聞きなよ。こう見えて、一応母親なんてものをやってんだ。
 そうだね、歳は・・・そっちの妹さんと同じくらいかな。
 ま、ウチのは残念ながらあたしに似てそんなに可愛くないんだけどね。
 だから、お兄ちゃん。君の気持ち、痛いほど良く分かる」

――良く分かる?

「何が――分かるって言うんだ」
理不尽な要求。
ある日突然、死んでくれと請われる。
そんな妹の気持ちが。
そんな妹を持った僕の気持ちが。

――分かるなんて、言うな。

「ああ、確かにちょっと軽率だったね。ごめん。
 勿論、全部分かるなんておこがましいことは言わないよ。
 でも、多分――あたしも、息子が妹さんの立場だったら、君と同じコトをするだろうね」
悲しそうな瞳で、彼女はそう言った。
そして、そのまま。
瞳を曇らせ、俯いたままで。
「だから――同じ理由で、あたしは妹さんを連れ戻さないといけない」
と、残酷なことを言った。

「君には、悪いと思う。殺されたって文句は言えないと思う。
 だけど、それでも、無理矢理にでも連れて行かないといけない。
 そうしないと――あたしは息子を守れない」

この惑星は、もうすぐ、死ぬ。
惑星の種子を捧げない限り。
それはつまり、この女性の子供も死ぬということで。
惑星の命と妹の命が等価であるように。
妹の命と女性の子供の命もまた、等価なのだ。
等価であるなら、自分の大切な人が理不尽に死ぬことに納得なんてできない。
だから。
僕らが逃げ出したのと同じ理由で、この人は僕らを追ったのだ。

「ホント、もう――厭んなるわね。良い大人なのにさ」
こんなとき、どうすれば良いのかなんてさっぱり分からないわ。
悲しそうに笑って、そう言った。
「僕は――妹を守る。それだけだ」
「・・・偉いね、お兄ちゃん」
そして、彼女は腰に差したナイフを抜く。
僕は丸腰だ。急ぎながらこっそりと逃げ出したため、用意することができなかった。
ああ――参ったな。
目の前の女性からは、悪意なんてこれっぽっちも感じないけれど。
多分僕は、殺される。
そうしないと妹を連れ戻せないことが、彼女にも理解できただろうから。
この荒廃した世界を生き抜く大人に、丸腰で敵うわけがないから。
だから僕は、殺される。

「逃げるんだ」
僕は妹に小さく囁く。
戸惑う妹の顔は、明らかに全てを察していて。
「嫌だ、お兄ちゃん、嫌だよ」
涙を溜めて、拒絶した。
僕は、その細い身体をそっと抱きしめて、優しく髪を撫でた。
「お兄ちゃんも、後で行くから。あの人を、やっつけた後で」
「・・・本当に?」
「ああ。お兄ちゃんは嘘吐かないだろう?」
「・・・うん」
頷きながらも、妹はまだ納得していない。
「ほら、走って」
未だ踏ん切りのつかないその肩を、小さく押す。
妹は、多分、分かっている。
何もかも、分かっている。
だから、泣き出しそうなまま――だけど、精一杯に走り出した。
ああ、それで良い。
それで良いんだ。
「じゃあ――始めるよ」
目の前の女性は、切なげな顔をして、だけど強く宣言した。

決着は、いとも容易くついた。
二度三度ナイフをかわしたものの、それがやっと。
隙を見て逃げることもできないまま、僕は深々と刺された。

「妹に――」
「・・・何だい?」
「妹に、伝えて」
「・・・ああ、何でも伝えてあげる」
「嘘吐いて、ごめんね・・・って」
「ああ、分かった」
「それから・・・諦めずに、逃げるんだ・・・って」
「・・・伝えるよ」
「お願い、します」

目を閉じる寸前。
女性の顔は、悲しそうに歪んでいて。
ぼろぼろと、みっともなく涙を流していた。
そして、最後に。
真っ暗になった世界の中で。

「ごめんなさい」

という声が聞こえた気がした。
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