「お邪魔します!」
無駄に元気な香菜が、無駄に元気な挨拶をしながら別荘へと入る。
「どもー、こんちはー」
僕もそれに続いて中へ。
玄関ドアをくぐると、すぐそこはロビーになっていた。
大きなテーブルに椅子が4脚。
高い天井には派手すぎないシャンデリア。
そして空気を撹拌するためだろうか、ファンが備え付けられている。
窓からは海が見える。
どこからどう見ても、完璧に完全に、金持ちの別荘だった。
文句の付け所もない。付ける気もないんだが。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
メイドさん2人が僕らを出迎える。
遠坂さんもそれに並んで3人で改めてお辞儀。美しい。
「あ、はじめまして。ご厄介になります。田村孝一と申します」
「三倉香菜でっす! よろしくお願いします!」
軽い挨拶を交わす僕らに、
「改めて紹介しますね」
と遠坂さん。
「向かって左側から、リーダーの茅原陽子」
「はじめまして、茅原です。主にお食事の準備を担当させて頂きます」
落ち着いた声、仕草。
3人の中では一番年上だろうか。いかにもメイド長的な人物である。
「真ん中が、豊崎愛佳」
「豊崎ですぅ。主にお掃除担当です。よろしくね~」
少しぽやんとした印象の豊崎さん。
3人の中では一番背が低い。幼いとまではいかないが年長にも見えないか。
「そして、私、遠坂唯です。接客その他全般を担当します」
どう見ても最年少だろう遠坂さん。
僕らと同じ年か、少し下だろうか。
しかし、メイドさんとして仕事をしているからか、しっかりしている印象を受ける。
以上、小鳥遊家メイド隊3名。
メイド隊て。
「唯――それに皆さんも。残念ながら、天候が少々優れないようです」
ロビーの椅子に座った僕らに、リーダーの茅原さんが声をかける。
「何でも、台風が接近しているとか。場合によっては、明日あたり荒れるかもしれません」
「台風ですか」
「ええ、ですから、海で遊ぶのは難しいかもしれませんね」
残念だ。島での余暇といえばビーチと相場は決まっている。
それが絶たれるというのは、惜しいという他ない。
香菜は分かりやすくがっかりして、
「えええ、台風かぁ。台風なら仕方ないっスよね・・・」
と机に突っ伏した。
そこで、ロビー奥の扉が開き、誰かがやってくる。
「あ、孝一くん。いらっしゃい!」
「おー、椿。久しぶりだな」
現れたのは、小鳥遊椿。
僕の幼馴染であり、今回の旅行を提案してきた本人である。
最後に会ったのはいつだったか・・・。
「中学校以来ですね。お久しぶりです」
そうそう、中学以来。
高校で違う学校に別れて、それから少し疎遠になっていたのだ。
にしても、見違えた。
約4年も会っていないのだ、女性は特に変わって当然とは思うが。
以前から大人しい、物静かな子だったが、見事に落ち着きのある女性へと変貌していた。
身長も伸びて、おそらく160センチ前後だろうか。
少し茶色がかった髪は肩付近で切り揃えられ、より大人びたイメージ。
椿の印象といえば、気弱、泣き虫、みたいなところだったのだが――。
もう子供ではないのだな、と改めて思い知らされた。
「コーイチ先輩、見とれすぎ」
香菜の一声で、僕ははっと正気に戻る。
「見とれてないぞ」
「・・・いいから、早く紹介して欲しいっス」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。ええと、こちらは小鳥遊椿さん」
「椿です。よろしくお願いしますね」
言って、香菜に向かって頭を下げる。
「こちらは僕の大学の後輩、三倉香菜さん。馬鹿だから気をつけろ」
「うっさいっスよ先輩!?」
躾の悪い犬みたいな奴だ。
と思うが、言わないことにしておく。バレたら噛み付かれるに違いない。
「椿は僕のひとつ下だから、ああ、お前ら同い年だな」
「よろしくっス、小鳥遊さん」
「あ、椿で構いませんよ。4人姉妹なもので、苗字だと誰が誰だか分からなくなるんです」
「おお、そっスか? じゃあ、椿ちゃん。よろしく!」
「はい、よろしくお願いします、香菜さん」
笑い合う二人。
よかった、割と相性はいいみたいだ。
まあ、控えめで主張の弱い椿と相性が悪い奴などそうそういないだろうが。
香菜と相性が悪い奴は・・・多そうだからなあ・・・。
「そうだ、孝一くん」
「んー?」
紹介を終えてやれやれと思う間もなく、椿が言う。
「うちの家族、まだ島に来てないんです。お姉ちゃん達が」
「そうなのか?」
「ええ、お母様は奥にいるんですが――」
「あ、そうそう。僕、椿のお母さんに挨拶したいんだけど」
「そうですか? でも、お母様も今ちょっと取り込み中みたいで」
「そうか。まあ、お邪魔になっちゃ悪いかな」
「すみません。――ですので、先にお風呂に入ってはいかがでしょう?」
お風呂? と思って時計を見る。まだ夕方5時少し前、といったところだ。
「露天風呂があるんですよ。海風で気持ち悪いでしょうから」
「露天風呂っスか!? 風流っスねえ!」
香菜、うるさい。
「じゃあ・・・先に入らせて貰おうかな」
「あ、でも、男女別にはなっていませんから、お二人で順番を決めて入ってくださいね」
「なるほど、了解」
そこで、椿ははっと息を呑む。
そしてやや顔を赤らめながら、
「でもでも、お二人がご一緒に、というのでしたら・・・別に問題はありません」
チラチラと僕と香菜を見て言った。
「椿は何か盛大な勘違いをしているな!」
その辺の勘違いを正すのが、何だか凄く面倒臭そうだ。
しかし、キッチリと言っておきたい。
僕と香菜は、ただの大学の先輩後輩である、と!
無駄に元気な香菜が、無駄に元気な挨拶をしながら別荘へと入る。
「どもー、こんちはー」
僕もそれに続いて中へ。
玄関ドアをくぐると、すぐそこはロビーになっていた。
大きなテーブルに椅子が4脚。
高い天井には派手すぎないシャンデリア。
そして空気を撹拌するためだろうか、ファンが備え付けられている。
窓からは海が見える。
どこからどう見ても、完璧に完全に、金持ちの別荘だった。
文句の付け所もない。付ける気もないんだが。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
メイドさん2人が僕らを出迎える。
遠坂さんもそれに並んで3人で改めてお辞儀。美しい。
「あ、はじめまして。ご厄介になります。田村孝一と申します」
「三倉香菜でっす! よろしくお願いします!」
軽い挨拶を交わす僕らに、
「改めて紹介しますね」
と遠坂さん。
「向かって左側から、リーダーの茅原陽子」
「はじめまして、茅原です。主にお食事の準備を担当させて頂きます」
落ち着いた声、仕草。
3人の中では一番年上だろうか。いかにもメイド長的な人物である。
「真ん中が、豊崎愛佳」
「豊崎ですぅ。主にお掃除担当です。よろしくね~」
少しぽやんとした印象の豊崎さん。
3人の中では一番背が低い。幼いとまではいかないが年長にも見えないか。
「そして、私、遠坂唯です。接客その他全般を担当します」
どう見ても最年少だろう遠坂さん。
僕らと同じ年か、少し下だろうか。
しかし、メイドさんとして仕事をしているからか、しっかりしている印象を受ける。
以上、小鳥遊家メイド隊3名。
メイド隊て。
「唯――それに皆さんも。残念ながら、天候が少々優れないようです」
ロビーの椅子に座った僕らに、リーダーの茅原さんが声をかける。
「何でも、台風が接近しているとか。場合によっては、明日あたり荒れるかもしれません」
「台風ですか」
「ええ、ですから、海で遊ぶのは難しいかもしれませんね」
残念だ。島での余暇といえばビーチと相場は決まっている。
それが絶たれるというのは、惜しいという他ない。
香菜は分かりやすくがっかりして、
「えええ、台風かぁ。台風なら仕方ないっスよね・・・」
と机に突っ伏した。
そこで、ロビー奥の扉が開き、誰かがやってくる。
「あ、孝一くん。いらっしゃい!」
「おー、椿。久しぶりだな」
現れたのは、小鳥遊椿。
僕の幼馴染であり、今回の旅行を提案してきた本人である。
最後に会ったのはいつだったか・・・。
「中学校以来ですね。お久しぶりです」
そうそう、中学以来。
高校で違う学校に別れて、それから少し疎遠になっていたのだ。
にしても、見違えた。
約4年も会っていないのだ、女性は特に変わって当然とは思うが。
以前から大人しい、物静かな子だったが、見事に落ち着きのある女性へと変貌していた。
身長も伸びて、おそらく160センチ前後だろうか。
少し茶色がかった髪は肩付近で切り揃えられ、より大人びたイメージ。
椿の印象といえば、気弱、泣き虫、みたいなところだったのだが――。
もう子供ではないのだな、と改めて思い知らされた。
「コーイチ先輩、見とれすぎ」
香菜の一声で、僕ははっと正気に戻る。
「見とれてないぞ」
「・・・いいから、早く紹介して欲しいっス」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。ええと、こちらは小鳥遊椿さん」
「椿です。よろしくお願いしますね」
言って、香菜に向かって頭を下げる。
「こちらは僕の大学の後輩、三倉香菜さん。馬鹿だから気をつけろ」
「うっさいっスよ先輩!?」
躾の悪い犬みたいな奴だ。
と思うが、言わないことにしておく。バレたら噛み付かれるに違いない。
「椿は僕のひとつ下だから、ああ、お前ら同い年だな」
「よろしくっス、小鳥遊さん」
「あ、椿で構いませんよ。4人姉妹なもので、苗字だと誰が誰だか分からなくなるんです」
「おお、そっスか? じゃあ、椿ちゃん。よろしく!」
「はい、よろしくお願いします、香菜さん」
笑い合う二人。
よかった、割と相性はいいみたいだ。
まあ、控えめで主張の弱い椿と相性が悪い奴などそうそういないだろうが。
香菜と相性が悪い奴は・・・多そうだからなあ・・・。
「そうだ、孝一くん」
「んー?」
紹介を終えてやれやれと思う間もなく、椿が言う。
「うちの家族、まだ島に来てないんです。お姉ちゃん達が」
「そうなのか?」
「ええ、お母様は奥にいるんですが――」
「あ、そうそう。僕、椿のお母さんに挨拶したいんだけど」
「そうですか? でも、お母様も今ちょっと取り込み中みたいで」
「そうか。まあ、お邪魔になっちゃ悪いかな」
「すみません。――ですので、先にお風呂に入ってはいかがでしょう?」
お風呂? と思って時計を見る。まだ夕方5時少し前、といったところだ。
「露天風呂があるんですよ。海風で気持ち悪いでしょうから」
「露天風呂っスか!? 風流っスねえ!」
香菜、うるさい。
「じゃあ・・・先に入らせて貰おうかな」
「あ、でも、男女別にはなっていませんから、お二人で順番を決めて入ってくださいね」
「なるほど、了解」
そこで、椿ははっと息を呑む。
そしてやや顔を赤らめながら、
「でもでも、お二人がご一緒に、というのでしたら・・・別に問題はありません」
チラチラと僕と香菜を見て言った。
「椿は何か盛大な勘違いをしているな!」
その辺の勘違いを正すのが、何だか凄く面倒臭そうだ。
しかし、キッチリと言っておきたい。
僕と香菜は、ただの大学の先輩後輩である、と!