あらあらまあまあ。
――とこちらの話を聞いてくれない椿を説得すること約10分。
一応何となく納得してくれたようなので、僕は露天風呂へと向かうことにした。
ちなみに香菜とはじゃんけんで順番を決めた。
椿と香菜を二人にするのはちょっと悪いかな、と思わなくもなかったが――。
まあ、香菜だしな。大丈夫だろう。
奴の友達作りスキルは半端じゃない。
どんな奴とでも大体5秒で仲良しだ。
・・・もしくは大喧嘩だ。
ピーキーな性格してるな!
椿が入ってきたロビー奥の扉から、教わった通り別荘の奥へ。
左手突き当りの扉を開ければ、そこは脱衣所だった。
壁に作り付けられた棚と、多数のカゴ。
奥は大きなすりガラスで仕切られている。その向こうが露天風呂だろう。
さて、服を脱いで・・・。
そこで、違和感。
人の、気配?
よく見ると、いくつかのカゴが使用中だ。
どうも、女性の下――。
「んー? 誰かいるのかい? 椿さん?」
がらり。
すりガラスが開き、そこには肩にタオルを掛けた入浴中と思しき女性が。
つまり裸の女性が。
「おー、っと。何だいきみ? 下着泥棒?」
「えっ、ちょっ、ちがっ!」
確かに、女性の着替えが入ったカゴを注視している僕は、端から見れば下着泥棒だ。
でも違う。違うんだ。
「ああ、そうか、きみが今日来るっていってたゲストだな」
「え、は、はあ。多分そうです」
「ワタシは尾道麻里奈という。住み込みの研究者だ」
「ど、どうも。はじめまして・・・」
・・・何だこの人。
別段騒ぎ立てることもなく、冷静に自己紹介されてしまった。
ええと。僕はどうすればいいのかな。
取り敢えずじっくり観察していいのかしら。
よくねえよ。
「麻里奈・・・」
と、僕がぐるぐる考えを巡らせていると。
尾道さんの後ろから、別の女性がチラリと顔を覗かせた。
「裸で・・・はしたない・・・」
「ああ、かな恵さん」
かな恵さん、と呼ばれたもうひとりの女性は、今度は僕を見て言った。
「・・・・・・痴漢?」
ぽきゅっ? と無表情のまま首をかしげる。
「ちちち違います!」
そこでようやく冷静さ(と常識)を取り戻した僕は、慌てて脱衣所から外に出た。
何という、大胆なノゾキを。
「あっはっは。慌てなくていいぞー、少年ー」
扉の向こうから、おそらく尾道と思われる声がした。
だから、何であの人はあんなに平常心なんだよ。
「いやあ、トラブルだったねえ、少年。えーと」
「あ。その、すみません。田村です。田村孝一」
「そうそう田村くん」
はははっ、と豪快に笑いながら僕の肩を叩く尾道さん。
脱衣所の前で、今度はちゃんと服を着た尾道さんに改めて自己紹介した。
「椿の幼馴染で、今日から少しここにお世話になります」
「うんうん、聞ーてるよー」
「あの、すみません。覗くつもりはなかったんです」
「いや、この時間に風呂に入ってるワタシらの方がイレギュラーなんだよ」
だからむしろ謝るのはこっちだね、と尾道さんは笑った。
その後ろで、かな恵さんと呼ばれた女性はただただぼんやり虚空を見つめている。
・・・どこを見てるんだ。何か見えるのか。
それとも、この人はまだ怒ってるんだろうか。
うん、まあ、何だ。無理もない。
「ん? あー、こちらの紹介がまだだったね。ほら、かな恵さん」
僕の視線に気付いた尾道さんが、後ろの女性をずいっと前へ引っ張りだす。
「・・・藤井、かな恵」
「・・・あ、はあ。どうも」
藤井さんというのか。
しかし、名前だけボソリと呟かれても、こう、判断に困る。
怒ってるの、かな?
「あっはっは、田村くん。かな恵さんは大体いつもこんな感じなんだよ」
「いつも、ですか?」
「うん。ワタシの先輩に当たる人なんだけどね、怒ったり笑ったりしてるのを見たことがない」
つんつん、と尾道さんが藤井さんのほっぺをつつく。
それでも藤井さんは我関せずと言わんばかりの無表情だ。
「さすがに田村くんに裸を見られるのは抵抗があったようだがね!」
「・・・当たり前・・・麻里奈の方がおかしい」
「そーかなー? かな恵さんに言われたくないんだがなー?」
と言ってまた豪快に笑う尾道さん。
何というか、男らしい人だった。
体は女らしかったけどね!
・・・死のう。
嘘。死なないよ。
というか。
僕はふと気になったことを尾道さんに尋ねる。
「研究者、って言ってましたけど。この別荘で研究を?」
「ああ、そうだよ。ここは小鳥遊教授の別荘兼研究施設なのさ」
「なるほど、それで」
椿のお母さん――先生がここにいるのも、リゾート目的ではないらしい。
研究一筋というイメージの先生だから、今回の旅行の件も若干不思議に思っていたのだが。
そういうことなら納得だ。
さっき椿が、先生は立て込んでる、とか言ってたのも研究関係の用事なのだろう。
だがそうなると、また違う疑問がわいてくる。
「でも、何でまたこんな孤島に?」
「ああ、ここはね、いわゆるガラパゴスなのさ」
「ガラパゴス?」
「そう、この島にしかいない固有種が山ほどいる」
先生の専門は、生物学だ。
その先生の興味を引く生物が、この島には存在するということなのだろう。
「で、田村くん。お風呂入るんだろ?」
「あー・・・ええと。何というか、また後で、にします」
つい今しがたノゾキまがいのことをしておいて、平然とお風呂に入る気にはなれなかった。
尾道さんに笑われた。
藤井さんは・・・何を考えているんだろうか、あの人。
――とこちらの話を聞いてくれない椿を説得すること約10分。
一応何となく納得してくれたようなので、僕は露天風呂へと向かうことにした。
ちなみに香菜とはじゃんけんで順番を決めた。
椿と香菜を二人にするのはちょっと悪いかな、と思わなくもなかったが――。
まあ、香菜だしな。大丈夫だろう。
奴の友達作りスキルは半端じゃない。
どんな奴とでも大体5秒で仲良しだ。
・・・もしくは大喧嘩だ。
ピーキーな性格してるな!
椿が入ってきたロビー奥の扉から、教わった通り別荘の奥へ。
左手突き当りの扉を開ければ、そこは脱衣所だった。
壁に作り付けられた棚と、多数のカゴ。
奥は大きなすりガラスで仕切られている。その向こうが露天風呂だろう。
さて、服を脱いで・・・。
そこで、違和感。
人の、気配?
よく見ると、いくつかのカゴが使用中だ。
どうも、女性の下――。
「んー? 誰かいるのかい? 椿さん?」
がらり。
すりガラスが開き、そこには肩にタオルを掛けた入浴中と思しき女性が。
つまり裸の女性が。
「おー、っと。何だいきみ? 下着泥棒?」
「えっ、ちょっ、ちがっ!」
確かに、女性の着替えが入ったカゴを注視している僕は、端から見れば下着泥棒だ。
でも違う。違うんだ。
「ああ、そうか、きみが今日来るっていってたゲストだな」
「え、は、はあ。多分そうです」
「ワタシは尾道麻里奈という。住み込みの研究者だ」
「ど、どうも。はじめまして・・・」
・・・何だこの人。
別段騒ぎ立てることもなく、冷静に自己紹介されてしまった。
ええと。僕はどうすればいいのかな。
取り敢えずじっくり観察していいのかしら。
よくねえよ。
「麻里奈・・・」
と、僕がぐるぐる考えを巡らせていると。
尾道さんの後ろから、別の女性がチラリと顔を覗かせた。
「裸で・・・はしたない・・・」
「ああ、かな恵さん」
かな恵さん、と呼ばれたもうひとりの女性は、今度は僕を見て言った。
「・・・・・・痴漢?」
ぽきゅっ? と無表情のまま首をかしげる。
「ちちち違います!」
そこでようやく冷静さ(と常識)を取り戻した僕は、慌てて脱衣所から外に出た。
何という、大胆なノゾキを。
「あっはっは。慌てなくていいぞー、少年ー」
扉の向こうから、おそらく尾道と思われる声がした。
だから、何であの人はあんなに平常心なんだよ。
「いやあ、トラブルだったねえ、少年。えーと」
「あ。その、すみません。田村です。田村孝一」
「そうそう田村くん」
はははっ、と豪快に笑いながら僕の肩を叩く尾道さん。
脱衣所の前で、今度はちゃんと服を着た尾道さんに改めて自己紹介した。
「椿の幼馴染で、今日から少しここにお世話になります」
「うんうん、聞ーてるよー」
「あの、すみません。覗くつもりはなかったんです」
「いや、この時間に風呂に入ってるワタシらの方がイレギュラーなんだよ」
だからむしろ謝るのはこっちだね、と尾道さんは笑った。
その後ろで、かな恵さんと呼ばれた女性はただただぼんやり虚空を見つめている。
・・・どこを見てるんだ。何か見えるのか。
それとも、この人はまだ怒ってるんだろうか。
うん、まあ、何だ。無理もない。
「ん? あー、こちらの紹介がまだだったね。ほら、かな恵さん」
僕の視線に気付いた尾道さんが、後ろの女性をずいっと前へ引っ張りだす。
「・・・藤井、かな恵」
「・・・あ、はあ。どうも」
藤井さんというのか。
しかし、名前だけボソリと呟かれても、こう、判断に困る。
怒ってるの、かな?
「あっはっは、田村くん。かな恵さんは大体いつもこんな感じなんだよ」
「いつも、ですか?」
「うん。ワタシの先輩に当たる人なんだけどね、怒ったり笑ったりしてるのを見たことがない」
つんつん、と尾道さんが藤井さんのほっぺをつつく。
それでも藤井さんは我関せずと言わんばかりの無表情だ。
「さすがに田村くんに裸を見られるのは抵抗があったようだがね!」
「・・・当たり前・・・麻里奈の方がおかしい」
「そーかなー? かな恵さんに言われたくないんだがなー?」
と言ってまた豪快に笑う尾道さん。
何というか、男らしい人だった。
体は女らしかったけどね!
・・・死のう。
嘘。死なないよ。
というか。
僕はふと気になったことを尾道さんに尋ねる。
「研究者、って言ってましたけど。この別荘で研究を?」
「ああ、そうだよ。ここは小鳥遊教授の別荘兼研究施設なのさ」
「なるほど、それで」
椿のお母さん――先生がここにいるのも、リゾート目的ではないらしい。
研究一筋というイメージの先生だから、今回の旅行の件も若干不思議に思っていたのだが。
そういうことなら納得だ。
さっき椿が、先生は立て込んでる、とか言ってたのも研究関係の用事なのだろう。
だがそうなると、また違う疑問がわいてくる。
「でも、何でまたこんな孤島に?」
「ああ、ここはね、いわゆるガラパゴスなのさ」
「ガラパゴス?」
「そう、この島にしかいない固有種が山ほどいる」
先生の専門は、生物学だ。
その先生の興味を引く生物が、この島には存在するということなのだろう。
「で、田村くん。お風呂入るんだろ?」
「あー・・・ええと。何というか、また後で、にします」
つい今しがたノゾキまがいのことをしておいて、平然とお風呂に入る気にはなれなかった。
尾道さんに笑われた。
藤井さんは・・・何を考えているんだろうか、あの人。