鴨長明
○詠れば千々にもの思ふ月に又わが身ひとつのみねの松風
ちゝとはかぎりなきことをいふなり。本哥は我
身ひとつの秋にはあらねど秋は悲しきと
いへるを本哥にとる心は引かへて月にきく松
風はたゞわが身ひとつに思しきといえへる本哥
に問答したる哥なり。本哥と同やうなれども
本哥をへつらはぬ所あり。月みればちゞに
物こそかなしけれ千々はあまたと云義也。大江匡房哥に
引
山桜千々に心のくだくるはちる花ことにそふにやあるらん
是も花ごとにあまたのこゝろなり。
※出典 常縁新古今和歌集聞書
※本哥は我身ひとつの~
古今集 秋歌上
これさたのみこの家の歌合によめる
(大江)千里
見れはちぢに物こそかなしけれわが身ひとつの秋にはあらねど
※山桜千々に心のくだくるは~
千載集 春歌下
堀河院御時、百首歌たてまつりける時、さくらをよめる
前中納言匡房
山ざくらちぢに心のくだくるはちる花ごとにそふにや有るらん