章段不明
十八むかし、なま心ある女有けり。男ちかう有けり。女うたよむ人な
きく をり
れば、心みんとて、菊の花のうつろへるを折て、男のもとへやる
えた
くれなゐににほふはいづら白ぎくの枝もとをゝにふるかともみゆ
おとこ、しらずよみによみける
※いづら白ぎくの→いづら白ゆきの(天福本)
しらぎく
くれないににほふがうへの白菊はおりける人の袖かともみゆ
十九むかし、をとこ、みやづかへしける女のかたに、ごだち成ける人を、あ
ひしりたりける。ほどもなくかれにけり。をなじ所なれば、女のめには
見ゆる物から、男はある物かともおもひたらず。女
古今 ぐも
あま雲のよそにも人のなり行かさすがにめにはみゆる物から
と、よめりければ、をとこかへし
同
あまぐものよそにのみしてふる事はわが入山のかぜはやみなり
と、よめりけるを、またをとこある人となんいひける
ほど
二十むかし、男、やまとにある女を見て、よばひあひにけり。扨程へて
みやづかへする人成ければ、かへりくる道に、やよひばかりにかえでの、もみぢ
をり みち
の、いとをもしろきを折て、女のもとに道よりいひやる
えだ あき
君が為たをれる枝は春ながらかくこそ秋のもみぢしにけり
とてやりたれば、へんじは京にきつきてなん、もてきたりける
※あまぐものよそにのみして→ゆきかへりそらにのみして(古今集)
※もみぢしにけり→もみぢしにけれ(天福本、玉葉集)
いつのまにうつろふ色のつきぬらん君が里には春なかるらじ