新古今和歌集の部屋

俳諧七部集 ひさご 色々の 蔵書

ひさご


 

              珎碩

いろ/\の名もむつかしや春の草

うたれて蝶の夢はさめぬる    翁

蝙蝠ののとかにつらをさし出て  路通

駕籠のとをらぬ峠 越たり    仝

紫蘇の実をかますに入るゝ夕ま暮 碩

親子ならひて月に物くふ     仝

秋の色宮ものそかせ給ひけり   通

こそくれては わらふ 俤    仝

うつり香の羽織を首にひきまきて  碩

小六うたひし市のかへるさ    仝

鮠釣のちいさく見ゆる川の端   通

念佛申ておがむみつかき     仝

こしらえし薬もうれす年の暮    碩

庄野ゝ里の犬におとされ     仝

旅姿稚き人の嫗つれて     通

花はあかいよ月は朧夜      仝

しほのさす縁の下迄和日なり   碩

生鯛あがる 浦は春哉      仝

此村の廣きに醫者のなかりけり  荷兮

そろはんをけはものしりといふ   越

かはらさる世を退屈もせすに過  兮

また泣出す酒のさめきは     人

なかめやる秋の夕そだゝひろき  兮

蕎麦真白に 山の胴中     人

うとんうつ里のはつれの月の影  兮

すもゝもつ子のみな裸むし    人

めつらしやまゆ烹也と立とまり  兮

文殊の知恵も槃特か愚痴    人

なれ加減又と出来シひしほ味噌  兮

何 ともせぬに 落る 釣棚  人

しのふ夜のおかしうなりて笑出ス  兮

逢ふより顔を見ぬ別して     

汗の香をかゝえて衣をとり残し   人

しきりに雨とうちあけてふる    

花さかり又百人は膳立に     兮

春は旅ともおもはさる旅     

珎碩 九

翁  一

路通 八

荷兮 十

越人 八

 


【初折】
  〔表〕
いろいろのなもむつかしやはるのくさ 珎碩(発句 春の草:春)
うたれててふのゆめはさめぬる    芭蕉(脇   春)
かうもりののどかにつらをさしだして 路通(第三  春)
かごのとをらぬとうげこえたり    路通(四句目 雑)
しそのみをかますにいるるゆふまぐれ 珎碩(五句目 秋)
おやこならびてつきにものくふ    珎碩(六句目 秋)
  〔裏〕
あきのいろみやものぞかせたまひけり 路通(初句  秋)
こそぐられてはわらふおもかげ    路通(二句目 雑恋)
うつりがのはおりをくびにひきまきて 珎碩(三句目 雑恋)
ころくうたひしいちのかへるさ    珎碩(四句目 雑恋)
はえつりのちいさくみゆるかはのはた 路通(五句目 雑)
ねぶつもうしておがむみづがき    路通(六句目 雑)
こしらえしくすりもうれずとしのくれ 珎碩(七句目 冬)
しやうののさとのいぬにおどされ   珎碩(八句目 雑)
たびすがたおさなきひとのうばつれて 路通(九句目 雑)
はなはあかいよつきはおぼろよ    路通(十句目 春)
しほのさすえんのしたまでうららなり 珎碩(十一句目 春)
いきだいあがるうらのはるかな    珎碩(十二句目 春)
【名残の折】
  〔表〕
このむらのひろきにいしやのなかりけり 荷兮(初句 雑)
そろばんをけばものしりといふ    越人(二句目 雑)
かはらざるよをたいくつもせずにすぎ 荷兮(三句目 雑)
またなきいだすさけのさめぎは    越人(四句目 雑)
ながめやるあきのゆうべぞだだびろき 荷兮(五句目 秋)
そばまつしろにやまのどうなか    越人(六句目 秋)
うどんうつさとのはづれのつきのかげ 荷兮(七句目 秋)
すもももつ子のみなはだかむし    越人(八句目 夏)
めづらしやまゆにるなりとたちどまり 荷兮(九句目 夏)
もんじゆのちゑもはんどくのぐち   越人(十句目 雑)
なれかげんまたとはできしひしほみそ 荷兮(十一句目 雑)
なにともせぬにおつるつりだな    越人(十二句目 雑)
  〔裏〕
しのぶよのおかしうなりてわらひだす 荷兮(初句  雑)
あふよりかほをみぬわかれして    荷兮(二句目 雑)
あせのかをかがえてきぬをとりのこし 越人(三句目 雑恋)
しきりにあめとうちあけてふる    越人(四句目 雑)
はなざかりまたひやくにんのぜんだてに 荷兮(五句目 花の定座:春花)
はるはたびともおもはざるたび    荷兮(挙句 春)
 

※むつかしや 復刻版の際、「まぎらはし」から訂正。
※蝶の夢 荘子「胡蝶の夢」を踏まえる。
※夢はさめぬる 復刻版の際、「目を覚しぬる」から訂正。
※小六 浄瑠璃などにでる美男で美声の関東小六を歌った流行歌。
庄野 三重県鈴鹿市の地名で東海道五十三次の宿場町。
※なかりけり
新古今和歌集巻第四 秋歌上 藤原定家朝臣
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮
を俳諧化した。
※をけば そろばんで計算する事を置くと言う。
※ながめやる 上の定家の歌の翻案。
※槃特 周梨槃特。釈迦の弟子で最も愚鈍だった。謡曲卒塔婆小町「槃特が愚痴も文殊の知恵」を引用。
※顔を見ぬ別 源氏物語末摘花を意識して。
※衣をとり残し 源氏物語空蝉を意識して。
※しきりに雨は 前句を宇治拾遺物語「平貞文本院侍従の事」として付けた句と古注もあるが、源氏物語空蝉の雨の品定めを連想したとも解される。

コメント一覧

jikan314
@kunorikunori 付を修正させて下さい。
桜の下で読みすすめつつ
友の小文なので、美しい風景の読みたいと言う意味です。
うっかり5音でした。

ちょっと落語を聞きに行こう
(難しい話の後は、わかりやすい落語で笑おう)
kunorikunori
むつかしや花びら舞うなかとおりぬけ

連歌は共通の言葉を使っているわけでもなく、どうつながっているのかも私には「むつかしや」です。笑

でも、きっと様々な句や和歌をたくさん学ぶと何かふと思い浮かぶのでしょうね~~♫

他にも、瓢箪から駒のように、なにかマジックがあるかもしれません??
jikan314
@kunorikunori 付
桜の下で読みすすめ
連歌は難しいですね。
kunorikunori
そうですね。
笈の小文、も 想像すると楽しいですね。

友よりの小文をカバンに春散歩
jikan314
@kunorikunori 拙句
ひさご下げ花の下にて春眠なむ
(さげ、もとと下の訓を変えて、西行の本歌取り。はるねなむとしゅんみんとも読めるように。願わくは、今年の花見はゆっくりと桜の下で居眠りできれば)
kunorikunori
Jikan様

それは面白いですね!!
「猿蓑・みなし栗・三日月日記・冬の日・ひさご・葛の松原・笈の小文」

なんだか皆揃って「軽くて、風に吹かれて動きそう」な。
名前だけでもクスッと笑えます。

俳句の方にも連歌。

広い知識を総動員しつつ、さらりと書いて、つなげて‥
諧とは、『たわむれ/冗談/ととのう/調和する/かなう/あう/やわらぐ…』とありましたので、深刻にひねり出すのではなく、さらりと浮かんできたことを粋に表現していたような感じがいたしました。

「ひさご」が少し身近になりました。ありがとうございます。
jikan314
@kunorikunori つまり俳諧集名が先で、越人がそれに沿って序を書いたと言う事とのこと。
とにかく、俳諧連歌はとても難しいです。座の文学で有る俳諧連歌は、当時の共通認識による前後のつながりを楽しむ物ですが、荘子など漢文学や浄瑠璃、歌舞伎、謡曲などの知識が皆無の小生ではひらがなを読むだけでは済まない所ですが、ある読者からの継続依頼から出来る範囲で続けようと思っておりますので、また御覧頂ければ幸いです。
jikan314
@kunorikunori kunori様
調べてまいりました。
2月2日アップしましたのひさご 越人の序に荘子の瓢箪の事が書かれており、これがひさごの題名の由来とジャポニカでは記しております。
珍碩(ちんせき)編。1690年(元禄3)刊。「俳諧七部集」の第四集。書名は『荘子』逍遙遊篇(しょうようゆうへん)にある恵子(けいし)の故事による。「おくのほそ道」の旅を終えた芭蕉(ばしょう)を近江(おうみ)に迎えて、湖南の蕉門の人々が師の指導の下に興行した歌仙五巻を収めたもの。
ところが、新体系では、去来抄に
俳諧の書の名は、和歌詩文史録等と違ひ、作者の有べしと也。されば先師名づけ給ふを見るに、猿蓑・みなし栗・三日月日記・冬の日・ひさご・葛の松原・笈の小文 等みなその趣也。
と芭蕉が命名者と有る事から、奥の細道で得た「かるみ」の境地を表すのに瓢箪としたと推計しております。
kunorikunori
珎碩が、ヒントなのですね。
kunorikunori
Jikan様

「ひさご」??
瓢箪? お寿司? 

何故題名が「ひさご」なのでしょう。。。
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