新古今和歌集の部屋

八雲御抄 正義部 八病 蔵書

八雲抄巻第一 正義部


 

 八病  㐂撰式

一 同心病 或号、和聚䏈病

是、同事の二句にある也。句ならひぬるは、不謂之。

我宿は道もなきまてあれにけり

つれなき人を待とせしまに   遍昭

さかざらん物とはなしにさくら花

おもかげにのみまだき立らん  躬恒

なき二あり、らむ二あり。かゝる哥、昔は数しらず。

今も撰集に多し。俊成古來風躰曰、「八病中是等可去。

其残は、さりあふべきに非ず」と云々。「けふふりぬあすさへふら

ば」、「長月の有明の月」などいへるは、俊頼為病。但不可然歟。

二 乱思病  或号、和形邇病

是は、詞優而そへよめるなり。

あひみるめなきこの嶋にけふよりて

あまとしみえぬよするなみかな

いにしへの野中の清水見るごとに

さしくむものはなみだなりけり

かやうによめる也。此たぐひ、昔も多。近比もことにみ

ゆる物也。所詮下品哥人毎度得之。

三 欄蝶病  或号、和平頭病

是、本句好て末句疎也。

あかずしてすぎゆく春の人ならば

とくかへりこといはぬしものを

夏の日の暮るもしらずなく蝉は

とひもしてしがなに事かうき

これ又、下品哥人よむ腰折、皆以如此。上下共に躰も

多。是は、下すはりなり。

四 渚鴻病 或号、和上尾病

是、偏に題にひかれて、詞不労なり。

人をおもふ心のおきは身をそやく

けぶりたつとは見えぬものから

くれの冬わが身老ゆきこけのはふ

えだにぞおふれうれしげもなく

これ又、常事也。ことに哥の道にあしきおもむき也。

五 花橘病 或号、和翅語病

是、すなほにして、直に其本名を用なり。

冬くれば梅に雪こそふりかゝれ

いづれのえだを花とはおらむ

是又、左道の事ながら、つねにみゆる物也。

六 老楓病 或号、和齟齬病

是は、篇終一章上四下三用也。㐂撰式云、「一首中不

籠思詠也云々。

七 中飽病 或、和結腰病

是は、三十五・六文字あるなりに、

さもあらばあれ暮行春も雲の上

ちることしらぬ花しにほはゝ

有そ海のなみまかき分てかづくあまの

息もつきあへず物をよそ思へ

是にすぎんは、有がたし。旋頭哥になるべからず。

八 後悔病 或、和解鐙病。 或根本之詠音韻不潜云々。

是、無風情後悔也。俊頼曰、「哥をすみかによみて、後に

よき詞を思ひよりたるなり」といへり。

 

 

※読めない部分は、国文研鵜飼文庫を参照した。

※我宿は 古今和歌集 巻第十五 恋歌五 僧正遍昭 770
わが宿は道もなきまて荒れにけりつれなき人を待つとせしまに

※さかざらん 拾遺和歌集 巻第十六 雑歌春 凡河内躬恒 1036
さかざらむ物とはなしにさくら花おもかげにのみまたき見ゆらん

※けふふりぬ 古今和歌集 巻第一春歌上 よみ人知らず 20
梓弓おして春雨けふふりぬあすさへふらば若菜摘みてむ

※長月の有明の月 古今和歌集 巻第十四恋歌四 素性法師 691
今こむといひしはかりに長のありあけのをまちいてつるかな

※あひみるめ 不明

※いにしへの 後撰和歌集 巻第十二恋歌四 よみ人しらず 887
いにしへの野中の清水見るからにさしぐむ物は涙なりけり

※本句好て末句疎 本句は五七五の上句、末句は七七の下句。

※あかずして 寛平御時后宮歌合 34
あかずして過ぎゆく春の人ならばとくかへりこと言はましものを

※夏の日の 寛平御時后宮歌合 70
夏の日の暮るるも知らずなく蝉をとひもしてしか何ごとかうき

※人をおもふ 寛平御時后宮歌合 169
人を思ふ心のおきはみをぞやくけぶり立つとは見えぬものから

※くれの冬 不明

※冬くれば 寛平御時后宮歌合 読人不記 126
冬くれば梅に雪こそふりかかれいづれのえをか花とはをらむ

※さもあらばあれ 新古今和歌集巻第十六 雑歌上 1462
 後冷泉院御時、御前にて翫新成桜花とい
 へる心ををのこどもつかうまつりけるに 大納言経信
さもあらばあれ暮れ行く春も雲の上に散る事知らぬ花し匂はば

よみ:さもあらばあれくれゆくはるもくものうえにちることしらぬはなしにおはば 隠

意味:まあどうにでもなれ。暮れて行く春は惜しいが、この宮中では、散ることない桜が咲き匂っているのだから。

備考:天喜四年(1056年)閏三月二十七日清涼殿和歌管弦御会。造花を飾られていた。

※有そ海の 不明

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