八雲抄巻第一 正義部
異躰
たとへば、やう/\の雑躰をよむ也。定たる名もなけれ共、
人々の思ふまゝに、今もいにしへも詠也。無同字哥とて
世のうきめ見えぬ山ぢへいらむには
おもふ人こそほだしなりけれ
などいふ躰の事、是ならずも多。題につきても、
又、字につきてもおほし。万葉に
ねづみのいゑよねつきふるひ木をきらで
ひきゝりいだすよつといふやこれ
といふは、なぞ/"\などの樣なり。あな恋しといふ
心なり。又三年三日我恋◯などいふていの事多し。
凡、神代にはもじもさだまらざるゑひす哥といへり。
すさのおのみことの八重たつより、三十一字に定
て後、さま/"\種々無邊の雑躰は有也。
※読めない部分は、国文研鵜飼文庫を参照した。
※世のうきめ 古今和歌集巻第十七 雑歌下 同じ文字なき歌 物部吉名 955
※ねづみのいゑ 歌経標式 穴粉火四(あな恋し)と言う文字を隠している謎歌。17