新古今和歌集の部屋

増鏡 第二 新島守 遠島歌合

さま/"\めでたくあはれにも、色々なる都のこと/"\を、ほのかに傳へ聞し召して、おきには、あさましの年の積もりやと御よはひにもそへても、盡きせぬ御嘆きぐさのみしげりそふ慰めには、おぼしなれにしことゝて、しきしまの道のみぞ御心をのべける。都へも便りにつけつゝ題をつかはし、歌を召せば、あはれに忘れがたく戀ひ聞ゆる昔の人々、われも/\とたてまつれるを、つれ/"\におぼさるゝ餘りに、みづから判じて御覽ぜられけり。

家隆の二位も、今までいける思ひでに、これをだにとあはれにかたじけなくて、こと人々の歌をもこゝよりぞとり集めて參らせける。

むかしのひでよしはありし亂れの後、かしらおろして深くこもりゐたり。にょぐあんとぞいひける。それもことたびの御歌合に召せば、今更にそのかみのこと、さこそは思ひいづらめ。

例のかず/"\はいかでか。ただかたはしをだにてとて

左御製

ひとごゝろうつりはてぬる花の色に昔ながらの山のなもうし

右家隆の二位

なぞもかく思ひそめけん櫻花山とし高くなりはつるまで

秀能

わたのはらやそ島かけてしるべせよはるかにかよふおきのとも舟

山家といふ題にて、又、左御製

のきば荒れてたれかみなせの宿の月すみこしままの色やさびしき

右家隆

さびしさはまだ見ぬ島の山里を思ひやるにもすむこゝちして

法皇みづから判のこと葉を書かせ給へるに

まだ見ぬ島を思ひやらんよりは、年久しくすみて思ひいでんは、今少し心ざし深くや

とて、わが御歌を勝とつけさせ給へる。いとあはれにやさしき御事なめり。かやうのはかなしごと、またはあみだ佛の御つとめなどにまぎらはしてぞおはします。御手習ひのついでに、

われながらうとみ果てぬる身の上に涙ばかりぞおもかはりせぬ

ふるさとはいりぬる磯のくさよたゞ夕しほみちて見らく少なき


※遠島御歌合

嘉永二年七月。題は朝霧、山桜、郭公、萩露、夜鹿、時雨、忍恋、久恋、羇旅、山家。

参加者は

左 院、家良、基家、道珍、隆祐、少輔、親成、友茂

右 家隆、小宰相、信成、如願、下野、長綱、家清、善真

※人心

本歌 花の色はうつりにけりないたづらに我が身世に経るながめせし間に 古今集 小野小町

さざなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな 千載集 平忠度

※なぞもかく

本歌 なげきこる山とし高くなりぬればつらづえのみぞまづつかれける。

※海の原

本歌 わたの原八十島かけてこぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟 古今集 小野篁

※軒端荒れて

ふかくさの里の月かげさびしさもすみこしままの野邊の秋風 源通具

※さびしさは

本歌 さびしさはみ山の秋の朝ぐもり霧にしをるるまきの下露 新古今集 後鳥羽院

※我ながら

宿ごとに同じ野辺をやうつすらむおもかはりせぬ女郎花かな 後拾遺集 白河院

※故里は

本歌 万葉集 巻第七 寄藻

塩満者 入流礒之 草有哉 見良久少 戀良久乃太寸

潮満てば入りぬる礒の草なれや見らく少く恋ふらくの多き

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「物語」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事