ひな鶴を
やしなひたてゝ
まつばらの
かげにすませむ
ことをしぞお
もふ
行成 御免被ります。
道長 何事だ?
行成 花山院から御歌が送られて參りました。
行成 そもそも奇行の振る舞いの多い院ではあられますが。
俊賢 左大臣樣への阿りでありましょう。
道長 思惑はどうであれ、有り難く頂戴いたそう。
ひなづるを
やしなひたてゝ
まつばらの
かげにすませむこと
をしぞおもふ
(行成書バージョン)
道長 こちらが、彰子様にお持ち頂く屏風です。
実資 いやいや、できあがったのでございますか。
道長 中納言殿に御歌を頂けなかったのは、残念ではありましたが、なんとか仕上がりました。
実資 公任殿の歌はさすがでございますな。
道長 花山院の歌もこちらに。
実資 花?おお!
道長 大納言を始め、大勢に御歌を頂戴いたしました。
栄花物語巻第六
大殿の姫君十二にならせ給へば、年の内に御裳着ありて、やがて内に參らせ給はむと急がせ給ふ。万づしつくさせ給へり。
女房の有樣ども、かの初雪の物語の女御殿に參りこみし人々よりも、これはめでたし。
屏風よりはじめ、なべてならぬ樣にし具せさせ給ひて、さるべき人々、止む事無き所々に歌は詠ませ給ふ。和歌は主からなむをかしさは勝るといふらむやうに、大殿やがて詠み給ふ。
又、花山院詠ませ給ふ。又四條の公任宰相など詠み給へる。
藤の咲きたる所に、
紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらむ
又、人の家に小さき鶴ども多くかいたる所に、花山院
ひな鶴を養ひたてゝ松ヶ枝の蔭に住ませむことをしぞ思ふ
とぞある。多かれど片端をとて、書かずなりぬ。
歌の意味(栄花物語 日本古典文学全集 より)
紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらむ
意味:紫雲がたなびいているかと見える藤の花は、どれだけめでたい家の瑞祥として、咲いているのだろうか。
ひな鶴を養ひたてて松ヶ枝の蔭に住ませむことをしぞ思ふ
意味:ひな鶴を養い育てて、ときわの松の枝にいつまでも住まわせたいと、そのことが願われる。