相模
あしがらやまにかかりて、昔さねかたの中將の名も足柄の山なればとながめ、またはくむやま深くしてとりいつせいといひし人の事なども思ひいださるる折ふし、こがらしらしの風身にしむばかりなりければ
山里は秋の末にぞ思ひ知る悲しかりけりこがらしの風
さがみの國おほばといふ所、とがみがはらを過ぐるに、野原の霧のひまより風に誘はれ、鹿の鳴く聲聞えければ
えはまどふくずのしげみに妻こめてとがみがはらにをじか鳴くなり
その夕暮かたに、澤邊のしぎ飛び立つ音しければ
心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ澤の秋の夕暮
※心なき
362 第四 秋上