新古今和歌集の部屋

源氏物語と新古今和歌集 押し上げ方の 憂きひとしもぞ 葵、賢木




なに事につけても、みまさりはかたき世なめるを、つらき人しもこそと、あはれにおぼえ給人の御心ざまなる。つれながら、さるべきおり/\のあはれをすぐし給はぬ、これこそかたみになさけもみはつべきわざなれ、なほゆへづきよしづきて、人めにみゆるばかりなるは、あまりのなむもいできけり、たいのひめ君をさはおほしたてじ、とおぼす。つれ/ヾにて恋しと思らむかし、とわするゝおりなれど、たゞめおやなき子をおきたらむ心ちして、みぬほどうしろめたく、いかゞ思ふらむとおぼえぬぞ心やすきわざなりける。


賢木

 もみぢやう/\いろづきわたりて、秋の野のいとなまめきたるなどみ給て、ふるさともわすれぬべくおぼさる。ほうしばらのざえあるかぎり、めしいでゝ、ろむぎせさせてきこしめさせ給。所からに、いとゞ世中のつねなさをおぼしあかしても、なをうき人しもぞとおぼしいでらるゝおしあけ方の月影に、ほうしばらのあかたてまつるとて、から/\とならしつゝ、きくの花、こきうすきもみぢなど、おりちらしたるもはかなげなれど、このかたのいとなみは、この世もつれ/ヾならず、のちの世はたたのもしげなり。


第十四  戀歌四
  題しらず     よみ人知らず
天の戸をおしあけがたの月見れば憂き人しもぞ戀しかりける
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